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活動について話し合う ~6~

 案の定、激怒中でした。この二人をここまで怒らせるとは、この条件に隠された意味とはなんなのか? 


「ここで春夏に質問よ。声優になりたい理由の中で一番多いのはなんだか分かる?」


 三石は仁王立ちで真っ直ぐ俺を見つめながら、低めな声で聞いてくる。

 声優になりたい理由と四つ目の条件がどう関係があるのだ? 質問の意味が分からないが自分の考えを伝える。


「理由? そ、そりゃ声優の仕事に憧れたり、好きだからじゃないのか」

「そうね。春夏の言うとおり好きや憧れが理由として多いと思うわ」


 三石は何故当たり前の事を聞いてきたのだ?。 

 普通声優になるには学校や養成所に高いお金を出して通い、(特待生みたいなのは除くけど)血の滲むような努力をして演技を始め様々な勉強をしなければならない。無論運などと言った目には見えない力も必要となるだろう。それら全て合わせて、尚且つ数多くのライバル達に勝たないとプロとしてデビューすらできない厳しい世界だ。


 俺自身声優業界に詳しいわけではないが、テレビや雑誌などの情報でもの凄く厳しい世界と言う事は理解している。そんな世界に飛び込むには、好きや憧れと言った強い思いがないと、とてもじゃないが怖くて飛び込めないだろう。


「そ、それとこの条件とどう関係があるのだ?」


 戸惑ってる俺に三石はいきなり声を荒げた。


「関係ありまくりよ! 基本的には春夏が言った理由がほとんどだけど、中にはそんな崇高で立派な理由で声優になったんじゃない奴がいる! 愚かで醜い不逞の輩が!」


 愚かで醜い不逞の輩って、穏やかでない発言連発だな。憧れや好き以外の理由とは一体どんなものがあるのだ? 全然見当がつかない。


「ふ、不逞の輩ってどんな奴だよ? それに他の理由って……」

「そんなの決まってるでしょ! 声優を自分の出世の道具に使う奴の事よ!」

「せ、声優を出世の道具に使う?」


 目に見えて三石の怒りが上昇していく。声も怒りに比例してどんどんバカでかくなっていく。だが待てよ。声優を出世の道具にするって表現おかしくないか? 正しくは声優の世界で出世するだろ?


「出世の道具って、それを言うなら声優の世界で出世するの間違いだろ?」

「間違ってねぇ~よ! この言葉の意味が分からないどころか勘違いまでするとは、春夏は一~十まで事細かに説明しないと理解できない子供か!」


 「いやいや、この説明で理解できる奴探す方が難しいぞ!」と反論しようとしたが、三石を見ると指をボキボキ鳴らしながらこっちを威嚇している。こりゃ~ちょっとでも反論しようものなら制裁を科す気だな。

よってここは大人しく、「すみません」と謝っておく。


「声優の藤咲麻衣って知ってる?」


 三石はイライラしながら聞いてきた。

 藤咲麻衣と言えば若手NO.1と呼び声が高い大人気の声優だが、何故藤咲麻衣の名前が出てきたのだ?


「藤咲麻衣? 知ってるけど。可愛くて性格も良くて今めちゃくちゃ人気ある声優だろ。でも藤咲って今月で声優を辞めるんだよな。確かまだ高一だろ? 早すぎるし人気絶頂の今辞めるなんてもったいないよな」

「何が人気ある声優だ! 何が辞めるのがもったいないだ! あいつなんてとっとと辞めちまえばいいんだよ! だってあの女は元々アイドルでデビューしたんだぞ! アイドルでデビューした奴がなんで声優の世界にいるんだよ! 意味分からんわボケ!」


 俺の言葉を聞いた瞬間、三石は沸騰したヤカンのように怒りを爆発させる。

 三石は何故ここまで藤咲に対して怒っているのだ? アイドル出身が声優になったらまずいのか? ん? ひょっとして三石は藤咲がアイドルと掛け持ちをしていると勘違いしているのか? 声優好きからしたら片手間でやられたんじゃ腹立つしな。


 でも藤咲はもうアイドルを辞めて声優に完全に転向している。俺は誤解を解くべく、三石の迫力にたじろきながらも藤咲は声優に完全転向した事を伝える。


「確かに最初はアイドルでデビューしたけど、人気出なかったから事務所の方針で声優に転向したんだよ。だから今はアイドル辞めて声優一本でやって……」

「そんな事お前に言われなくても知っとるわボケ! アイドルがダメだから声優って発想がムカつくって言ってんだよ! この腐れ○×△野郎め!」


 怒りに油を注いでしまったようだ。その結果、女子高生が発してはいけない単語まで飛び出す始末。どうやら勘違いで怒っているようではないみたいだ。

 ここまで怒るとは一体藤咲麻衣と三石の間に何があったのだ? 

 三石に聞いても教えてくれる雰囲気ではないのでそっと真野に聞く事にした。俺は少し真野に近寄り小声で、


「なんで三石さんはあんなに藤咲麻衣を敵視してるんだ? 真野さんは何か知ってる?」

「うるさいボケ! 黙って夕実ちゃんの話聞いてろ! このクソ春夏が!」


 一喝されてしまった。俺はただ三石が怒っている原因を知りたかっただけなのに……。

 真野も三石に負けないぐらいヒートアップ中でした。

 怒っている理由が全然分からないのに、この二人のテンションについて行くのはかなり疲れるのだが、理由を教えてくれる雰囲気ゼロだしな……。ここは二人の会話から怒りの原因を探すとするか。


「完全に藤咲麻衣に洗脳されている春夏に、私が親切丁寧に藤咲麻衣がどれほど腹黒いクソ野郎か説明してあげるから! 耳の穴かっぽじって真剣に聞きなさいよ!」

「は、はい……分かりました」


 か、かっぽじってって……綺麗な女子高生が使います? そんな言葉……。

 もう完全に説教みたいな感じで怒鳴られている俺。全然悪い事をしていないのに何故俺は怒られているのだ……。ストレスで胃に穴が開きそうです。

 俺の返事を聞いた三石は目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。そして目を開けたと同時に溜まりに溜まった膿を吐き出すかのごとく、藤咲批判を展開する。


「藤咲は十一歳でアイドルとしてデビューしたが全く売れず、それはそれは惨めなアイドル時代を送っていたのわ。だけどそんな彼女を見て何をとち狂ったのか、事務所の社長が『声優に転向してみるか?』って言い出したのよ! 売れないアイドルをなんで声優にすんだよ! 藤咲もクソなら社長もクソだなオイ!」


 社長までボロクソに言うって、三石は藤咲麻衣関係全て嫌いなのかよ。


「クソアイドルだった藤咲だけど、顔だけはもの凄く可愛かったの。今の声優界にも可愛い子や綺麗な子はたくさんいるけど、藤咲は頭一つ二つ抜け出して可愛かった。そんな奴が声優界に来たら、童貞キモオタどもは即行で食いついたわ! しかも笑顔がまた更に可愛いのよ。憎たらしいほど可愛いのよ。恐ろしいほど可愛いのよ! 女の私が見てもね!」


 可愛い可愛いって何回言ってんだよ。批判する割には藤咲麻衣を可愛いって認めるのね。 

 怒りのあまりジッとできない三石は、時折髪をかきむしりながらホワイトボーボの前をウロウロしている。そして藤咲批判は止まらない。


「そんなルックスを武器に藤咲は声優転向後、瞬く間にブレイクしたわ。アイドル時代が嘘みたいにね。ファンの中には藤咲を神様みたいに崇める愚か者まで出てくる始末。演技なんて勉強もまともにしていないから下手も下手、ド下手なのに今では若手声優NO.1みたいな扱いよ。これも童貞キモオタどもが藤咲の顔だけ見てちやほやした結果よ! 藤咲もクソだが藤咲を応援しているオタクどももクソだクソ!」


 いつの間にか藤咲批判がオタク批判に変わっている。こんな発言を声優ファンに聞かれたら三石は間違いなく命を狙われるだろう。

 だがもっと酷い言葉が三石の口から飛び出した。


「あんな下手な演技で仕事もらえるなんて、あの女絶対偉い人に枕営業してるわ! エロオヤジどもにたくさん抱かれているのよ! 高一にしてやってる事は小汚いキャバ嬢と一緒なんて最低最悪な女よ!」


 お前の方が最低最悪だぞ。よく憶測や想像で人の事とことん貶せるな。この短い期間で三石は「藤咲ファン」「声優オタク」「キャバ嬢」の皆様を、見事敵にする事に成功したのであった。


 どうゆう経緯があってここまで藤咲麻衣を批判するのか分からないが、俺から言わせてもらえれば逆恨み以外の何ものでもないだろう。だって一高校生で声優界となんのつながりもないであろう三石が、藤咲麻衣と接点があるとは到底思えない。何があったか知らないが一方的に三石が恨んでいるだけだろう。これ以上聞くのがバカらしくなってきたな。


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