活動について話し合う ~5~
「これは僕も思いつかなかったな。さすが夕実ちゃんだよね。凄い! 凄すぎるよ!」
真野は三石を尊敬の眼差しで見つめながらベタ褒めする。真野もここまで言うとは本当にそんな条件があるのか? 段々その条件に興味が出てきた俺は、腹部の激痛に耐えながらも三石の説明を待った。
「梓そんな事ないって。たまたま思いついただけだから。梓もきっと思いついたよ」
「僕には無理だよ。夕実ちゃんだから思いついたんだよ」
「そんな事ないって。もう、梓はそうやって私をおだてて。私を褒めても何も出ないぞ」
「本当の事だもん。おだててなんかないよ」
「「うふふっ」」
お互い笑顔で謙遜し合う二人。ここだけ切り取ればなんとも言えない微笑ましい光景だが、二人の性格の悪さを知っている俺としては凄く不気味で恐ろしい光景です。そして二人がイチャついてるせいで話が全然進まない。俺待ってるんですけど、その条件の説明待ってるんですけど!
「……で、その条件ってなんだよ?」
早く話を聞きたい俺は、なんとか痛みから復活して二人に割って入る。すると笑顔だった三石は一瞬で真顔に戻る。そして俺の顔をジッと見て、
「春夏もこの条件を聞いたら間違いなく納得するはずよ」
自信満々な三石の態度に期待が高まる。
「将来有名になるかを見極める条件とは……」
「その条件とは……」
「男ならカッコ良い人、女なら可愛いもしくは綺麗な人を選ぶ事よ!」
力強く言い切った三石だがこれのどこが条件なんだ?
「……え? ど、どうゆう事?」
「ふっ、やはり春夏レベルじゃ分からないのね。まぁ無理もないか。簡単に言うと見た目がいい人を選ぶって事よ。この条件をクリアしたものは高確率で将来有名になるはずよ!」
「が、外見がいいとなんで将来有望なんだよ?」
キョトンとしている俺に二人はお互いの顔を見合わせる。
「ここまでバカだったとは……、こいつ完全に終わってるね夕実ちゃん」
「まぁ確かに梓の言うとおりだけど、バカはバカなりに必死で生きているのよ。私達のような優れた人間は、こうゆう愚民を温かく見守る心の広さを持たないとね。」
「そうだね夕実ちゃん! あはっ」
「いやいや、今の説明で分かるわけないだろ。あと俺愚民じゃね~し!」
ムスッとする俺に対し三石は子供に話しかけるような優しい口調で(もちろんからかう感じで)理由について語り出す。
「あのね春夏君、例えばオーディションに同じ実力の声優二人が受けに来たとするよね。一人はイケメンで一人は不細工。春夏君ならどっちを合格させるかな?」
「そ、それは同じ実力なら他のもので選ぶかな」
「でしょ。同じ実力なら他の要素が重要になる。でも短い時間のオーディションでは、その人の人間性とか性格まではなかなか分からない。その場ですぐに分かるものと言えば外見ぐらいしかないと思うの。と言う事は見た目も審査の対象になると思うわけ。そう考えると同じ実力同士なら、イケメンを選ぶ確率が断然に高いと思うの」
三石の話し方に若干イラッとしたが、言っている事は確かにそうかもしれない。だけどそこで素直に納得はできない。だって俺自身不細工側の人間ですから。だから「イケメン」と答えずに「他のもの」と言う表現にあえてしたのだ。
「それはそうかもしれないが、それって同じ実力の場合だろ? もし実力差が離れていたらどんなにイケメンでも不細工には勝てないだろう」
「確かに春夏の言う事も一理あるけど、外見がいい方を押す理由はもう一つあるわ。それは昨今の声優界の情勢よ」
再び普通の話し方に戻った三石から予想もしない言葉が出てきた。売れない声優を探すのに何故声優界の情勢が関係あるのだ? ってかそもそも今の声優界の情勢って何?
「情勢?」
「そう。昨今の声優界は明らかにイケメンや可愛い子・綺麗な子の数が増えている。それは第三次声優ブームが始まった約十七年前から年々その傾向が強くなり、現在では若手の有名どころや人気のある声優のほとんどが外見がいい人ばかりになっているのよ」
あたかもその世界の情報通のような態度で三石はしみじみと語る。一体誰目線だよ。
ちなみに第三次声優ブームとは一九九〇年代中頃に起こった声優ブームの事である。声優専門雑誌も作られるようになり、顔出しの仕事や歌手としての仕事も増えた事により声優のアイドル化が進み、声の演技力に加えルックスの良さや歌唱力も求められるようになり出した時期である。
三石の言う「情勢」ってそう言う意味ね。まぁ確かに三石の言っている事は分かる。
昔からの声優さんもカッコ良い人や綺麗な人はいるが、特に最近の声優は採用基準に「外見」という項目が含まれているのでは? と思ってしまうぐらい美男美女が増えている。
現にアイドルより可愛い子やスタイル抜群な声優もいる。その証拠に雑誌のグラビアに声優が載る事も珍しくはないし、声優の写真集だって発売している。
男もイケメンが多くなっている。だがその分演技はどうなの? ってレベルの奴も中にはいるが、それでも容姿がいい人にファンがつく傾向があるのは事実だ。認めたくはないが、今の声優業界は容姿端麗な者が有利な世界に成りつつあるのかもしれない。
頭では分かっていても心では認めたくない俺は、複雑な思いで三石に聞く。
「言いたい事は分かったけど、だからと言って容姿で選ぶのはどうかと思うけどな」
「なんで?」
「なんでって、やっぱ外見だけじゃないじゃん。声優に一番必要なのは演技力だと思うんだよね。だから外見よりその人の演技力を優先して決めた方がいいと思うんだけどな」
俺の言葉に三石は呆れながら、
「……春夏、君は一つ肝心な事を忘れているわ」
「忘れている? な、何を忘れてるんだよ」
「私達は売れてない声優の中から選ぼうとしているのよ」
「そんなの分かってるよ」
「売れていないって事はイコール仕事がないって事よ! 仕事がない声優の演技力なんてどうやって見ればいいのよ!」
「あっ、そ、それは……」
力強く言い放った三石の的確な指摘に言葉がつまる。確かに仕事がない声優の演技を見る場なんて皆無だよな。
「何も言えないという事は納得したって事ね。ではこの条件も満場一致で採用」
そう言うと三石はホワイトボードの「良い声優」のスペースに『外見が良い』と書き、「悪い声優」のスペースに『不細工・そして不細工』と書き込んだ。どんだけ不細工強調してるんだよ。
ホワイトボードに書き込んだ三石は、深呼吸してゆっくりこちらに振り返る。そして硬い表情で俺を睨みつける。
「春夏!」
「な、なんだよ。いきなり大声出して……」
「今までの条件は今から言う条件に比べればある意味クソみたいなものよ。それだけこれから言う条件は重要かつ最も大切なものなの! だから心して聞きなさいよ春夏!」
「は、はいっ!」
鬼気迫る表情の三石。こんな表情になる条件とは一体どんなものなのか?
三石は再びホワイトボードの方に振り返り、「悪い声優」のところにこう書いた。
『声優と言う仕事を道具にする奴』
そう書くと三石は唇を震わせながらその言葉を睨みつける。
声優を道具? どうゆう意味だ?
これまた理解できない条件が出てきたぞ。なんか三つ目の条件と同じ臭いがします。だがここでまた小馬鹿にしたら大変な仕打ちを受けるだろう。特に三石は何故だか分からないが、尋常じゃないぐらい怒りまくっているから気をつけないとな。真野も三石同様この条件に賛同して怒りまくっているのだろうな。……っと思い真野の方チラッ見ると、
「全くだ! そんなふざけた奴は全員この世からいなくなればいいんだ!」