活動について話し合う ~4~
「ではどの声優がいいか。見極める条件を話すわね」
そう言うと三石はホワイトボードの方を向くと、黒マジックでホワイトボードを半分に区切るように中央の位置に縦の真っすぐな線を書く。そして線に対して左側の上の方に「良い声優」、線を挟んで右側の上の方に「悪い声優」と書いて再び俺達を見た。
「売れてない声優など腐るほどいる。まず始めにやらなきゃいけない事は、その中から『選りすぐりの売れてない声優』を見つける事よ」
「選りすぐりの売れてない声優」ってなんだよ……と心の中で静かにつっこむ。
でも三石の言うとおり売れてない声優はたくさんいる。いやむしろ声優界の中で売れている声優の方が圧倒的に少ないだろう。だから何かしらの条件をつけて数を絞っていかないと、どの声優にすればいいのか迷ってしまい混乱するのは確実だ。ただその条件は三石と真野の偏見や思い込みで決めた、恐ろしい条件なのは間違いないだろうけど……。
あんまり聞きたくはないが、聞かないと何されるか分からないので一応最後まで聞くか。
「最初の条件として『自称声優』は却下する」
そう言いながら三石はホワイトボードの「悪い声優」のスペースに、箇条書きで『自称声優不可』と書き込んだ。
「ブログを見るとプロフィールに『声優』と書いておきながら、所属する事務所や仕事歴など一切書いていない奴がいる。基本ブログは声優個人で運営している事がほとんどだから、事務所とは関係ない場合が多い。そうゆう意味合いも含めて事務所名とか書いていない場合もあるかもしれないけど、無名な声優に関しては事務所とか書いてないと本当に声優なのかどうなのか全く判断ができない。本人の名前をネットで検索して事務所に属していると判明した場合を除き、それ以外の者は嘘を言っているかもしれないので除外する。」
確かに売れていない声優が本当に声優かどうかを確かめるには、事務所に属しているかどうかを確認するのが一番早い。三石の言うとおり嘘をついている奴も全くいないとは言い切れないので、この条件は納得できる。
とりあえず最初の条件は案外まともだったな。三石の事だからもっと変な内容が来ると思ったが、思わず頷きながら聞いてしまった。そんな俺を見て三石は得意気に次の条件について話し出す。
「二つ目の条件はブログをしている人。まぁ目的がブログで交流と言っているわけだから、ブログをしていない時点で論外だけどね。でもただブログやってればいいと言う問題でもないの。毎日、もしくは二日に一回は更新してる人。そしてブログ読者からもらったコメントにちゃんと返信している人。返信がないと交流にはならないからね。この点をクリアしている人が二つ目の条件よ」
言い終えるとホワイトボードの「良い声優」のスペースに、『ブログをしっかり更新している声優』と書き込んだ。二つ目の条件についても異論はない。コメントをしっかり返してくれる人、ごもっともな意見である。
ここまでの三石は全く変な事は言わない。何かもっとふざけた条件を連発するかと思いきや、驚くほどまともな事しか言っていない。別にそうゆう内容を期待していたわけではないので問題はないけどね。
こんな感じで最後まで普通の内容が続くのかなと、勝手に思い込んだ時だった。
「では三つ目の条件行くわよ。三つ目は『将来性のある声優』である事」
サラッと当然のごとく言う三石だが、これは今までの条件とは明らかに違うぞ。だって今までの条件は納得いく理由だし賛同もできた。だが三つ目の条件は将来人気が出そうな声優を、売れてない現時点で探し出せって事だろ? そんなの声優界のド素人である俺達に分かるはずもない。
普通に考えたら無謀とも思える条件だが、三石には別の意図があるのかもしれない。とりあえず三石の考えを聞こう。
「え……っと……ど、どうゆう意味かな? 三石さん」
「どうゆう意味って言葉どおりでしょ。将来人気が出そうな声優を見つけるって事よ。こればかりは半ば運だけどね」
普通に無謀な内容でした。やっぱり変な条件が出てきたか。でもここまで実現性のない条件を出してくるとはな……。何かまじめに聞くのがバカらしくなってきた。
「フッ、なんだよそれ。そんなの分かるわけないだろ。今までの条件は意外とまともだったから感心して聞いてたけど、ここにきて意味不明な条件を出してくるとは。そんな難しい事をド素人の俺達が分かるわけないだろ。あほか、ププッ」
「「何笑ってんだ!」」
あまりのバカらしい条件に思わず笑ってしまった俺を、二人が一斉に威圧してくる。
「難しい事なんてこっちだって最初から分かってんだよ! だから最初っから運て言ってるだろ! ちゃんと聞いてろこのクソ野郎が!」
三石は今にも噛みつきそうな勢いでブチ切れる。俺が笑ったのが相当ムカついたようだ。
「夕実ちゃんの言葉に牙剥くなんて自分を一体何様だと思ってるんだ! 夕実ちゃんの考える事は絶対なんだ! お前みたいなへタれな奴には分からないだろうがな! 全く不細工なくせに髪型だけ張り切りやがって。前も言ったけどその髪型全然似合ってないから、カッコ悪いから、気持ち悪いから。だからとっとと丸坊主にしてこい! でも髪型変えても顔と体型は不細工のままだけどな! そんな奴が夕実ちゃんの考えに文句言うな!」
真野も嫌悪感丸出しでまた俺の容姿批判を含めた罵声を浴びせてくる。真野の容姿批判はダイレクトに俺の心を傷つけるので本当に止めてほしい。
俺は涙目になりながらも真野に反論する。
「ま、また髪型の話しやがって! べ、別にいいだろ、俺がどんな髪型しても。誰にも迷惑かけてないだろうが!」
「かけてるよ! そんなキモい髪型毎日見せられてるこっちの身にもなれよ!」
「な、なんだとぉ~!」
「何よ、文句あるの!」
「あ、あるよ。大ありだよ!」
「また泣くよ」
「うっ……」
真野の「泣くよ発言」に怯む。また泣かれたら三石からあの恐ろしく痛い一撃を食らう事になるからな。あんな痛い思いは二度としたくない俺はしぶしぶ引き下がる。
「も、文句はないです……。で、でも俺はこの髪型続けるから……」
「そ、そんな怒鳴らなくても……ひっく」
普通の大きさで言ったのにも関わらず何故か泣く体制に入る真野。
「ち、ちょっと、怒鳴ってないから、怒鳴ってないよ真野さん。だから泣かないで……」
「春夏ぁぁぁ~…………」
「え、え、え、ちょっと三石さん……待って……」
ドスッ!
「あがぁぁぁ……あうぅぅ」
殴られた。またあの強烈な力で三石に殴られた。俺の腹を殴られた。
うずくまって悶え苦しむ俺を三石は上から見下ろしくる。
「また梓泣かして! 今度泣かしたらあのテープ学校中にばらまくから!」
「……は、い…すいませ……んですた……でした」
俺は涙でかすむ目で三石を見ながら震えた声で謝った。すると三石の隣にいた真野が、
「……バ~カ……ふふふ」
両手で涙を拭う格好をしてはいるが、目は笑っている……ってか普通に笑顔だ。
嘘泣きしやがったなこいつ。俺は完全にはめられた。だがお腹が痛すぎて何も言えない。
「まぁ春夏の言うとおり確かに難しいわ。でもある条件をクリアした者は、高確率で将来有名になるという事を発見したのよ!」
三石は俺が苦しんでいるのを見下ろしながら自信満々に言い切った。