活動について話し合う ~2~
見事に俺の作戦は失敗した。まぁ自分でもアイドルがどうのこうの言ってはみたものの、結局のところは自分がアニメオタク・声優オタクと公言する事を、恥ずかしいと思う気持ち自体をなんとかしない限り問題は一切解決しない。だがその点を解消できるほどの強力な説得材料など今の俺にあろうはずもない。
だがこのまま引き下がれば勧誘担当は俺だけになってしまうわけで、それだけはなんとしても避けたい。何かこの状況を打破できるだけのアイデアはないか……悩む事数十秒、俺の腐った脳みそを再びフル回転させた結果出た答えは……。
「そ、そう言えば俺達の好きな声優の木原メグミさんは、高校時代に漫画研究会に入ってたらしく、そこで『自分は漫画オタク』と堂々と公言して漫画研究会の勧誘活動頑張ってたらしいぞ。今から十五年以上前の話だから、今以上に漫画オタクとかの偏見が酷かった時代だろ? 絶対に周りから嫌味言われたり、冷たい視線浴びてたと思うんだ。でも自分が好きでやってる事だからって、周りからどう思われようが関係なく楽しみながら活動してたらしいぞ。お、俺達もそれぐらいの気持ちで頑張ろうぜ!」
嘘つく事でした。
今俺が言った事は完全に作り話で、声優の木原メグミさんは高校時代に漫画研究会に入っていた事実は全くない。それどころか木原さんが声優に興味を持ったのは本人が大学に入ってからであり、高校時代は全くアニメや漫画に興味がなかったと、今までにラジオや雑誌の取材で公言している。この事はファンならほとんどの人が知っている常識的知識だ。
そんな当たり前の事が、頭から綺麗さっぱり抜けるほど今の俺は追い詰められていた。
だがテンパった俺が考えた幼稚な嘘など三石に通じるわけもなく、俺の嘘に怒り全開の三石は体を震わせながらこっちを睨んでくる。
「春夏、私の大好きで憧れている木原メグミさんを使って、そんな嘘つくなんて……覚悟はできてるんでしょうね。この……ビチグソ野郎がぁ~~~~~~~~!」
美しい女子高生が発するとは到底思えない汚い言葉と共に、全体重を乗せた今世紀最大級の右ストレートが俺の顔面をエグる。
あまりの威力に吹っ飛ばされた俺は、勢いよく壁に激突しその場に倒れ込む。
「これに懲りて二度とメグミさんの嘘つくなよ! 次言ったら殺すぞボケッ!」
「……は、は……い」
「バ、バ、バ、バカだこいつ! くくく……夕実ちゃんにメグミさんの嘘言うなんて、自殺行為もいいところだよ。あはははっ」
今にも死にそうな俺の姿を見て、真野は腹を抱えて笑いまくる。確かに好きな声優の嘘や悪口を言われたら誰だってムカつく。でも切羽詰まった俺にはこの手しかなかったのだ。
でもさすがにどんなに追い詰められても、自分がされて嫌な事はしてはならない。痛い左頬をさすりながら反省しきりな俺である。
「ふざけた嘘言った以上、春夏一人で勧誘活動やってもらうから! 文句ないわよね!」
三石が怒り心頭で吐き捨てたその言葉に、逆らうだけの気力も勇気もない俺は問答無用で勧誘担当に決定した。自業自得と言われたらそれまでだが……。
同好会の名前同様、見事変更に失敗しました。
勧誘活動か……。色々な人に俺が声優オタクと知られてしまうわけだな……。
最悪だ……最悪すぎるぞ。これから待ち受けている過酷な現実を思うと気が重い。
「春夏のせいで気分悪くなったけど気を取り直して話を進めるわね。次は今後の活動について話をするわ」
今までめちゃくちゃ怒っていた三石だが、その口調は冷静さを取り戻している。相変わらず感情がコロコロ変わる奴だな。
三石は何事もなかったように話を続けるが、勧誘担当に決まった俺は頭の中が勧誘の事でいっぱいだ。よって今後の活動とか正直どうでもいい。だがちゃんと聞かないと三石に何を言われるか分からないのでここはしぶしぶ話に加わる。
「次に今後の活動について。梓と話し合った結果、声優と仲良くなる為の手段として『ブログ』を使おうと思うの」
「ブログ?」
「そうよ。今の時代声優に限らず芸能人やスポーツ選手などの有名人から、私達一般人にいたるまでかなりの人が自分のブログを開設し、日々の出来事などを書いているでしょ。そのブログが声優と仲良くなる為の最良のツールという事を…………私と梓は発見してしまったのよぉ――――――――っ!」
どこでスイッチが入ったのか分からないが、三石は急に拳を握りしめ力強く話し出した。
何故そんなに気合い入れて話しているのだ? 真野も三石の話を力強く相槌を打ちながら聞いているし、二人にとってこの案はかなり自信があるものなのだろうか?
ブログか……。確かに今はかなりの人がやっている。でもそれと同じぐらいの人達がウイッターやフェイスボッコもしている。最近ではむしろウイッター人口の方が多いと思うのだが、何故ブログを選んだのだろう? そしてブログをどのように使って声優と仲良くなろうと言うのか?
疑問だらけの俺の頭を見透かしたのか、三石が詳しい説明を始める。
「やはり春夏はバカだから理解できていないようね。バカな春夏にも分かるように親切丁寧に今から教えるから、しっかり聞きなさいよバカ春夏」
「聞けよ! バカ」
真野も言葉を被せてくる。二人してどんだけ俺を「バカ」呼ばわりすんだよ。若干イラッとするもここは大人しく「はい」と返事しとく。
「声優と仲良くなるにはまず『交流』が欠かせない。でもこの交流と言うのが最大の難関なの。何故なら交流するという事は、お互いのやり取りがあって初めて成立するものだから。だけど実際問題お互いのやり取りなんて、ファンと声優との間で簡単にできるものじゃないわ。実際に会う事なんてなかなかないし、会ったところで『仲良くなろっか! メルアド教えて、あはは』みたいな交流など起こる可能性はまずない。そこでブログの登場よ。ブログを使えば実際に会わなくても簡単に交流ができちゃうの。まさに私達が待ち望んだ魔法のようなツールなのよ!」
三石は笑顔交じりで熱く語る。まぁ言いたい事は分かる。確かに交流がなければ仲良くなれるはずがない。だがそこで何故ブログにつながるのか? まだ理解できない。
「ブログが魔法のようなツール? 意味が全然分からないのだが……」
「まぁ黙って聞きなさい。何故魔法のようなツールかと言うと、ブログには『コメント』
機能と言うのがあるの。中にはその機能を使っていない人もいるけど、その機能を使えばブログを読んだ読者が、そのブログに対して感想だったり意見を書く事ができるようになる。声優のブログに私達ファンが好きなコメントを書けるってわけ。ブログを書いている声優本人もそのコメントに対して感想や意見を書いたりできる。その機能を使う事により自然とブログを書いている声優と、読者である私達との間に『交流』が生まれるのよ」
俺は三石の言葉に衝撃を受ける。例えネットの中だけとは言え、好きな声優と会話できるなんて夢のような話だ。感極まった俺は満面の笑みで三石に対して、
「す、す、凄いよお前達! そんな機能があるなんてよく見つけたな! この機能使えば声優と俺達ファンが会話でき自然と仲良くなれる! こんな事に気がつくなんて二人とも頭良すぎだぞ! あははっ!」
この案を使えば俺の大好きな声優の木原メグミさんとも、すぐに仲良くなれるのではなかろうか! そう考えるとめちゃくちゃテンションが上がってきたぞ。こんな素晴らしい方法を見つけた三石と真野を、俺は尊敬の眼差しで見つめた。
だが喜びはしゃいでいる俺に、三石から残念なお知らせを頂く。
「あ、補足だけど木原メグミさんはブログやってないから」
「へっ? マ、マジで?」
「うん、マジで」
三石の言葉にテンションがガタ落ちになる。マジかよ……メグミさんがやってないなら俺は一体誰のブログを見ればいいのだ……。
落胆する俺を無視して三石は淡々と説明を続ける。
「この方法を使って声優と仲良くなるのが基本的な今後の活動よ。ここまでで何か質問とかある?」
もうなんかブログとかどうでもいいや。だって一番仲良くなりたい声優がブログやってないんだもん。
完全にやる気が失せた俺に三石がささやく。