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活動について話し合う ~1~

 三石達に土下座した次の日、俺は部室の前で立ち尽くしていた。 

 一応二人には反省文と土下座で許しを得ていたが、なんだか二人に会いづらい。

 特に真野とはどう接すればいいのか分からない。今までの人生で女の子を泣かした事なんて一度もないから、仲直りと言うか今後の対応をどうすればいいのか全く分からない。


「会ったらもう一度謝った方がいいのか、それとも昨日許しを貰っているから普通に接すればいいのか。どっちがいいんだよ……」


 ブツブツ呟きながら自問自答していると後ろから俺を呼ぶ声がした。


「春夏、そこで何しているのよ?」


 振り向くと三石が不思議そうに俺を見つめていた。


「み、三石さんか。な、何って別に何もしてないけど……」

「なら早く部室に入りなさいよ。今日は同好会の今後の活動について話し合う大切な日なんだから」


 ビクつく俺に三石はいつもの冷たい口調で話をする。どうやら三石は昨日の出来事を引きずっていないようだ。だが本当の大ボスは扉の中で待っていた。

 部室に入ると真野はもう来ていて俺と目が合った瞬間、眉間にシワを寄せて睨んできた。

 怒ってます! 完全に昨日の事引きずって怒ってますよ、この人!


「おはよう梓」

「おはよ――夕実ちゃん!」


 三石の挨拶に嬉しそうに答える真野。表情も一瞬で和らぐ。

 二人は今日の出来事などを楽しそうに話し出す。しかし三石と楽しく会話しながらも真野はちょいちょい俺を睨む。


 こ、これはもう一度謝った方がいいな……。

 完全にビビった俺は、真野に向かって深々と頭を下げて全身全霊で謝罪をする。


「真野さん、昨日は本当にすいませんでした! 今後あのような事は二度としませんので許して下さい! お願いします!」


 目を閉じながら頭を下げて真野の反応を待つ。すると真野が突然笑い出した。


「ゆ、夕実ちゃん、僕の勝ちみたいだね。約束どおり帰りにアイス奢ってね……くくくっ」

「くっ、まさか春夏が謝るとは……。春夏の事だから何事もなかったように接すると思ったのに……ちっ」


 舌打ちをしながら悔しがる三石と無邪気に喜ぶ真野。何言ってるんだこいつ等?


「あ、あの……なんの話をしているのかな?」

「春夏のせいで負けたじゃん! 本当に使えない奴ね! バカ!」


 怒られた。意味も分からず怒られた。

 若干イラッとしてきたが、ここはグッと堪えて二人に質問を続ける。


「俺のせいって何がだよ? 意味が全然分からないんだけど……」

「あはは、バカ春夏を使って夕実ちゃんと賭けしてたんだ」


 さっきまでと違って真野は超ご機嫌で話しかけてくる。だがその内容は穏やかではない。


「賭け? ちゃんと分かるように説明してくれよ」

「バカ春夏が来た時にもう一回僕に謝るか、それとも普通に接してくるか夕実ちゃんと賭けたんだ。僕は謝る方に夕実ちゃんは謝らない方に賭けて、見事僕が勝ったってわけ」


 嬉しそうに言う真野だが俺からしたら遊びのネタに勝手にされたあげく、全然悪くもないのに三石に怒られるという理不尽な扱いを受けて、イライラは更に増長していく。

 それを見透かしたのか、三石が俺に厳しい口調で、


「春夏、あんた何があっても二度と私達に罵詈雑言を吐かないって昨日誓ったよね? その事忘れてないわよね?」

「わ、忘れてないよ……」

 

 三石に釘を刺された俺は大人しくするしかなかった。


「バカ春夏は意外と小心者だな。僕がまだ怒ってると思ってすぐ謝ってくるなんて。可愛いところもあるな、あははっ」


 真野は楽しそうに俺をバカにしてくる。

 俺が謝ったのはお前が俺の事を睨んでくるから、まだ怒っていると思って一応謝っただけだ! 別に小心者じゃねぇ~よ! ……と言いたかったが、文句言って三石に説教されるのが嫌だったので我慢する。

 大声で笑い続ける真野はシカトして、三石に同好会の活動について話し合うように促す。


「うっさい! あんたに言われなくても今から始めるわよ、このバカ春夏!」


 真野に負けたのが相当悔しかったのか、三石は八つ当たり気味に俺を怒鳴る。

いやいや、怒鳴りたいのこっちですから……。勝手に賭けのネタにされて、負けたからって俺に八つ当たりするなんてどう考えてもおかしいだろ! だからここで怒鳴っていいのは断然俺でしょうが! …………と言っても二人が怖いから怒鳴りませんけどね。


「では勧誘担当から発表します」


 えっ? いきなり勧誘担当の発表? 今から活動について話し合うのじゃないの? それに勧誘に関しては確か三石と初めて会った日に、真野も含めた三人で話し合うって言ってたのに何故もう担当発表? まだ俺達全然話し合ってないだろ……。

 いきなり予想外の三石の言葉に戸惑う。そして悪い予感が脳裏をよぎる。


「勧誘担当は春夏さんです! 梓、拍手!」

「いえ~い! 頼むぞバカ春夏!」


 笑い終えた真野がノリノリで合いの手を入れる。


「ちょいちょいちょいっ! 何勝手に決めてんだよ! 勧誘についてはこれから話し合いで決めるんだろ! なのになんでもう俺って決まってるんだよ!」


 慌てて三石の発言に抗議する。すると三石は目を細めて、


「あの後色々考えたんだけど、やっぱり私には恥ずかしくて勧誘活動なんてできないの」

「は、恥ずかしのは俺も一緒だって! それに人数増やして部に昇格させたいのは三石さんだろ? だったら恥ずかしくてもやるしかないだろ!」

「春夏がね」


 全く勧誘する気なしの三石。結局こうなる事は薄々感づいていたが「はい、分かりました」と言えば今後面倒な事や三石が嫌な事は全て俺に回ってくるだろう。

 俺だって勧誘活動なんか恥ずかしくてしたくない。だが部の昇格を狙うのであれば、勧誘活動は避けては通れない道なのは確かだ。でも部にしたいのは三石の方なんだから、本来なら三石が率先して勧誘活動をするのが当然のはず。だから三石達も絶対に勧誘活動に参加させてやる! 


 同好会の名前では変更に失敗したが、この勧誘活動に関して絶対に引かないぞ。俺だけ貧乏くじ引けるか!

 俺はない頭をフル回転させて、なんとか三石達も勧誘に参加するように説得をしてみる。


「あ、案外俺達が思っているより世間はオタクに対して寛容かもしれないぞ。だって今やアイドル達だって公然と、漫画ファンとかアニメ好きって言っている時代だし。だから声優の同好会って勧誘しても、皆が皆引かないと思うけどな」


 俺の言葉は今思いついた言い訳でも嘘でもなく本当の事だ。現に某アイドルグループの「スマック」だって、自分達の番組内でアニメ「ツゥーピース」を取り上げ、どれだけそのアニメを愛しているか大熱弁しているぐらいだ。他の芸能人もアニメや漫画の話を色々なところで普通にしている。アイドルを出す事でアニメオタクや声優オタクに対する世間の偏見が、薄れているとアピールするのが俺の狙いだ。我ながら良策である。


「本当にそう思ってるの? だったら尚更春夏がやってよ。私はどう考えてもその意見には賛同できないから」


 だが三石からしたらそんな事どうでもいいみたいで、全く相手にしてもらえなかった。


「バカ春夏は凄いな、そんな風に考えられるなんて。僕は芸能人がテレビで何を言ってても不特定多数の人達に、自分がアニオタ・声オタなんて怖くて言えないな。こりゃ~もう肝っ玉のすわっているバカ春夏先生に勧誘全般を任せるしかないね!」


 真野は嫌味ったらしく俺を褒める。心にも思っていない事を平気で言えるお前の方が、圧倒的に凄いよ。


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