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始まった同好会 ~6~

 そして次の日……。

 

「みぃ~つぅ~いぃ~しぃぃぃ~!」


 放課後、俺は怒鳴りながら部室へ入って行く。


「な、何よ! 人の事を呼び捨てにして!」


 先に来ていた三石と真野は俺の怒鳴り声の意味が分からず唖然としている。だが三石の場合は俺に呼び捨てされた事にイラッとして、すぐに普段の冷たい感じで文句を言ってきた。

 だが今日の俺はそんな事では一切怯まない。


「全部お前のせいだぞ! 何が『お前が心配するような事は何も起きないから安心しろ』だ! 普通に心配するような事が起こったじゃねぇ~かよ! どうしてくれるんだよ!」


 いつもと違う俺に驚いたのか三石は少し慌てている。


「ど、どうしたの? 一体何があったのよ?」

「何があったじゃねぇ~よ。もうクラス中に俺がオネエって事が知れ渡ってんだよ!」

「「えっ?」」


 怒りで震えた俺の言葉を聞いて、三石と真野が一緒になって驚く。


「な、なんで?」

「一体誰が言ったんだ?」


 状況が理解できていないのか目が点になる三石。真野も同好会のメンバーしか知らない俺の嘘設定が、一日にして俺のクラス中に広まった事を不思議がっている。


「誰って一人いるだろ……一人よ……」


 俺はそう言うとその場にへたり込んだ。


「ま、まさかその一人って……」


 三石はその秘密をバラした犯人を恐る恐る確認してくる。


「草尾だよ……。あいつ朝のホームルームで俺がオネエってクラス中の奴等に言いやがったんだよ」

「「えっ! 嘘?」」


 また三石と真野が声をハモらせて一緒に驚く。俺は涙目になりながら弱々しい口調で話を続けた。


「嘘じゃねぇ~よ。あのバカがいきなり、『うちのクラスの日笠君はこの度、女の子の魅力等を研究する同好会に入りました。でも日笠君は男の子、だけどどうしても女の子の為の同好会に入りたいって言うので先生は許可しました。日笠君がここまでしてその同好会に入りたい理由、皆さん分かりますか? そうです、日笠君はオネエです。簡単に言えば女の子より男の子が好きな乙女の心を持った男の子なのです。だから皆さん、日笠君の事を温かく見守って下さい。先生もその同好会の顧問として日笠君を応援します!』とか言い出しやがってよ。俺は今日一日中、『俺はオネエじゃない!』と誤解を解くのでめちゃくちゃ大変だったんだぞ……」


 俺の言葉を黙って聞いていた二人。しかしその沈黙は長くは続かなかった。


「あっはは~はぁ! ま、ま、マジで……おか、おか、おかしいよ、あははぁ!」

「だ、ダメだよ夕実ちゃん、笑ったら、わ、わる、悪い……あはははっ!」


 三石と真野は腹を抱えながら笑い転げる。


「な、な、な、何笑ってんだよ! こっちは死ぬ思いで誤解を解いてだな……」

「し、知らないわよ、春夏の思いなんて。うふふっ……でもまさかクラス中に言うなんて、本当バカだね草尾は……くっくくぅ……で、でもいい仕事するわ、あはははっ!」


 俺の辛さなんてこいつ等には全く理解できないようだ。そればかりか笑いのネタと化している。俺は悔しいのと恥ずかしいのと……その他にも色々な感情が混ざった結果、


「このバカ三石ぃ~~~~~~~~! お前の言う事さえ聞かなければこんな屈辱的な思いなんてしなくて済んだんだ! この責任どうつけてくれるんだよ! ホントお前は外見だけ良くて性格は最悪、考えてる事もクソみたいな低レベル野郎だな!」


 心の思うがままに三石に対し罵声を浴びせる。


「んなっ! は、は、は、春夏! も、もう一度言ってみろ!」

「何度でも言ってやるよ! お前は性格最悪のクソ野郎だよ! 出会った時から分かってたんだ! やっぱゴミの分別がしっかりできない奴は、人としても終わってるんだな!」

「そ、そこまで言うか……春……夏」


 俺の怒涛の口撃に三石は半ベソ状態になる。多分今までの人生でここまで誰かに悪口を言われた事はないのであろう。その証拠に上手く対応できない。その代りに真野が恐ろしい剣幕で叫んだ。


「こらバカ春夏! なんて事を夕実ちゃんに言うんだ! 謝れ! 今すぐに夕実ちゃんに謝れ!」


 真野は三石を優しく抱きしめながら俺を睨む。だがどんなに文句を言われても今の俺のには全く効かない。そればかりか俺の怒りは真野にも向かう。


「おい一年! 俺は二年だぞ、お前より年上なんだぞ! それなのに呼び捨て&タメ口で話しやがって! 礼儀知らずにもほどがあるぞ! そもそもなんだ男嫌いって! そんなに男が嫌いなら、俺が入部する時に無理って拒否しとけよバカ! 拒否もしないくせに男の俺とは話がしたくないとか、髪型がダサいとか好き勝手言いやがってよ! ふざけんな! 拒否しなかったんだから、俺の事をちゃんと先輩として扱い敬語も使えバカ! ホント三石もクソならお前もクソだな!」

「お、お前……うぐぐっ……」


 真野も俺の激しい口撃に成すすべなく反論できない。

 俺自身自分でも驚くぐらい酷い事を言っていると思うし、次から次へと文句が出てくる事に感心すらしている。だが俺はこれぐらいの悪口は言ってもいいぐらい、この二人には酷い目に合された。だから少しも悪いとは思わない。


 俺が睨みつけると真野は下を向き、三石は悔しいのか唇を噛みしめてはいるが何も言えない感じだ。そんな二人を見ていると、なんだかいい気分になってきた。

 

 まだ出会って間もない三石と真野。だがその短時間で俺はこの二人にコケにされバカにされてきた。でもその暗く辛い日々とは今日でお別れさ! これからは俺がこいつ等を支配してコケにし、バカにして笑ってやるのだ! この春夏様がな、あっはははっ!

 

 そう心の中で喜びに浸っている時だった。


「う、うう……ひっく……え~ん」


 真野がいきなり泣き出した。その展開には俺もビックリする。


「ちょ、ちょっと、な、なんで泣いてるんだよ……真野……」


 オロオロする俺。すると三石がゆっくりと俺に近づいてきて……。

 

 ドスッ! バシッ!


「あぐっ……イデッ!」


 三石からの強烈なグーパンを鳩尾に食らった俺は、苦しみながら前屈みになる。そこへ更に鬼のような威力のビンタが俺の左頬に炸裂! 俺は悶えながら倒れ込み、痛みから逃れんばかりに床上を這いずりまわる。


「バカは春夏よ! よくもそんな酷い事をか弱い女の子に平気で言えるわね! 春夏の方がずっと人として終わっているわよ!」


 顔の形がクチャクチャになるほど三石は形相を変えて怒鳴ってきた。今まで見た中で一番怖い三石がそこにいた。

 その迫力に圧倒された俺は「すいません」と反射的に謝る。


 ……冷静に考えればどんなに怒るような出来事があったとしても物事には限度がある。

 俺の発言は完全に限度を超えていた。さっきまでの威勢の良さなど消え、その場で小さくなり反省しまくりです。


「もう大丈夫だからね。ちゃんとあのバカを叱っておいたから。だから泣かないで梓」

「う、うん……ひっく。わ、分かった夕実ちゃん」



 三石は真野の頭をなでながら優しく声をかける。真野も泣きながら頷く。


「あ、真野さん、そのちょっと言い過ぎたかな……ごめんよ」


 俺は小声で真野に謝る。申し訳なくて泣いている真野の顔を直視できない。

 三石は俺の謝罪の言葉を聞いた瞬間、もの凄い剣幕で怒鳴る。


「あぁ! ちょっとだと! ふざけるな! あんたの言った事は人として最低な発言なんだよ! もっと自分が犯した罪を自覚し反省しろ!」

「つ、罪って……。確かに酷い事は言ったけど。でもこうなったのも二人にも原因があるわけだし、完全に俺だけが悪いわけじゃないんですが……」

「何? 口応えする気? 春夏は本当に性根まで腐っているのね。言い訳を並べたところで、春夏がか弱い女の子を泣かした事実は動く事はないのよ。それ自体が春夏の犯した罪なのよ! 現実から目を逸らさずにしっかり見つめなさい!」


 原因を作った自分達の事は棚に上げて、真野を泣かせた結果だけを見て俺が百%悪くなるとは到底納得がいかん! だがここでブチ切れしている三石と口論する勇気もない俺はひたすら二人に謝った。


「絶対に許さない……」


 泣き声でポツリと呟いた真野の言葉がやけに怖かった。


 その後、俺は三石に言われて二人に向けた反省文を書かされた。二人が納得する反省文を書き上げるまで提出してはダメ出しをされる、そんな作業を十八時半まで繰り返してようやく許してもらえた。ちなみに土下座もさせられた。


 今日一日で俺は三石と真野が作った嘘によりクラス中の生徒に偏見と誤解の目で見られ、そして部活では今まで以上に肩身の狭い立場になってしまった。

高二になってまだ三日。俺の高校生活はすでに終焉を迎えつつあります。


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