始まった同好会 ~4~
「で、同好会名はあれで良かったの?」
「長いけど許可出たよ」
「そっか。やっぱり長かったかな。でも許可出たのなら変える必要はないか」
長い? 「声優と仲良くなれる同好会」って名前が長いのか? 野球部やサッカー部と比べたら長いかもしれないが、バスケットボール部やアメリカンフットボール部とかとあんまり変わらない気がするけどな。
「でも呼びにくいかも。だって『女性の魅力と美しさを追求し探求する同好会』だもんね。略そうにもどう略せばいいか分からないし」
少し笑いながら真野が言う。
そりゃ~「女性の魅力と美しさを追求し探求する同好会」って名前は長いわな……ってなんだその名前!
予想もしていなかった名前に唖然としてしまった。今まで黙って二人の会話を聞いていたが、どうゆう事か全く意味が分からないので慌てて三石に質問する。
「ちょ、ちょっと三石さん、どうゆう事? 何? 今の名前?」
「何って私達の同好会の名前だけど」
三石は当たり前のように答えるが俺は更に混乱する。
「いやいや、違うやん! 俺らの同好会の名前は『声優と仲良くなれる』だろ! なのになんだよ、その『女性』なんとかって名前は!」
状況が全く飲み込めずテンパる俺の目を、ジッと見つめて三石がゆっくりと語り出す。
「春夏、あんたは本当の名前で恥ずかしくもなく申請できるの?」
「えっ? ど、どうゆう事?」
「考えてもみて。『声優と仲良くなれる同好会』と本当の名前で申請したら、私達がアニメや声優オタクと世間にバレてしまうでしょ?」
「そ、それはそうだが……」
「春夏は昨日の勧誘の時の話をもう忘れたの?」
三石はゆっくりと窓の方に歩き出す。表情は真剣そのものだ。真野も表情が硬くなっている。新入部員勧誘の時の会話は、昨日の今日なのでしっかりと覚えている。だがそれと同好会の名前の件とどう関係があるのだろうか?
「もし本当の名前、『声優と仲良くなれる同好会』なんて看板掲げたら、ここを通る生徒達全員に私達が声優オタクだってバレるのよ。勧誘活動ですらあんなにやりたくない私達なのに、もろオタクって分かる名前の下で活動なんてして行けると本気で思っているの? まだ同じ趣味の人達に知られるならいいわ。だって同志だから。でもアニメや声優に全く興味がない者にまで知られるのよ。それでも春夏は平気なわけ?」
「そ、それは……」
た、確かに言われてみればそうだ。馬が合わない俺と三石だが、アニメ・声優好きを一般の人に知られたくないという思いは共通している。
でもだからと言って、まるで女性専用の同好会みたいな名前をつけるのは納得できない。
だってそんな名前をつけられた日には、男の俺がいる事自体おかしな話になってしまう。
「三石さんの言いたい事は分かったけど、だからって違う名前にするにももう少し別の名前があったでしょ?」
「なんだよ。夕実ちゃんの決めた名前に文句あるのか?」
俺の抗議を聞いた真野は、不機嫌な表情で言い寄ってくる。
「だって考えてもみろよ。『女性なんとか』って名前だと男の俺がいる事自体おかしくなるだろ? 声優オタクとは思われないが、違う偏見を俺は受けると思うのだが……」
俺は正論を言ったつもりだ。いや、間違いなく正論だ。だって三石達の言った名前では、完全に女性の為の同好会になる。だからそんな名前の同好会に男がいたら、絶対に変な目で見られるに決まっている。よって俺の言った事は絶対に正論なんだ。でもそんな正論など三石にかかれば一蹴される。
「春夏がどう思われようが私達には関係ないのよ。私達が声優・アニメオタクってバレない為に、梓と二人で必死になって考えた名前なんだから文句言うんじゃないわよ! そもそも春夏が入る前から決まってた名前なんだから、春夏に文句言われる筋合いは全くないのよ!」
そう言いながら三石は俺を睨みつける。二人にとって俺が周りからどう見られるかって事より、自分達がオタクとバレないようにする事の方が圧倒的に大事なようだ。しかしここで名前の変更を諦めてしまったら、俺が友達に同好会の名前を聞かれた時に、
『お前同好会に入ったんだって? なんて名前の同好会だよ?』
「え、えっと……『女性の魅力と美しさを追求し探求する同好会』だよ」
『はぁ? なんだその名前! お前男なのになんでそんな女の為みたいな同好会に入ってんだよ! キモい……キモすぎるぞお前!』
って感じになって絶対に変な奴って思われてしまう。こうなったら俺の高校生活は完全に終わりを迎える……。
そうはさせん! そうはさせんぞ三石め!
俺は勇気を振り搾り三石に必死で食い下がる。
「もう少し考えようぜ。他にもオタクってバレないような名前があると思うんだ。男がいても大丈夫な名前考えよう……」
「うっさい! 男嫌いの僕がいるのにそんな名前つけるわけないだろ! もしそんな名前つけて男が入部したいって来たらどうすんだよ! ただでさえバカ春夏がいるだけで気持ち悪いのに!」
真野が怒気を含んだ声で俺の話を遮った。名前にすらそんなに敏感に反応するとは、こいつの男嫌い半端ねーぞ。
「男嫌いとこれとは話が別だろ。どう考えたって男がいるのにこの名前はおかしい……」
真野の発言に反論しようとした時だった。今度は三石が俺の話を遮る。
「大丈夫よ。男の春夏がいても全く問題はないようにしたから」
不敵な笑みを浮かべる三石を見て本能的に危険を感じた。恐る恐るその言葉の真意を確かめてみる。
「あ、あの三石さん……どう問題ないのでしょうか?」
「春夏をあっち系の人にしといたからなんの問題もないわ」
…………んっ? あっち系?
俺の頭に「?」が浮かぶ。あっち系ってなんの事だろう?
あっち系……あっち系…………ってまさか!
「み、三石さん! あっち系ってもしかして……」
「そうよ、春夏を男好きのオネエ系にしといたの。簡単に言えばホモね。これで女性の為の活動をする同好会に春夏がいても、なんの問題もないわ。だから安心して」
俺が男好きなオネエだと―――――――――――――――――――――――っ!
安心できね~よバカ!
あまりの衝撃に俺はしばし放心状態になる。
「では具体的な活動についてお話しよっか梓」
放心状態で今にも倒れそうな俺をよそに三石はミーティングを進める。俺は慌てて三石の話を止める。
「ちょ、ちょっと待てよ! まだ話し終わってないだろ!」
「どうしたの春夏。そんなに慌てて」
「い、いや、普通に慌てるだろ! だって俺オネエにされてんだぞ!」
「それがどうしたの?」
俺の文句の意味がよく分かってない感じの三石に、俺は更に声を荒げて猛抗議をする。
「ど、どうしたって俺は健全な男子だ! 俺の恋愛対象は男じゃなく女だ! ……そ、そりゃ未だに女性恐怖症だけど……。でも俺は間違いなく女好きの普通の男だ!」
「この際もう本当にオネエになったら? そうしたら梓も嫌わなくなるんじゃない?」
「そうだな、男は嫌いだけどもオネエならまだマシかも」
「ほら梓もOK出したんだし、今ここでオネエ宣言しなさいよ春夏」
「しね――よバカ!」