最悪な出会い ~1~
「声優と仲良くなる」
それが俺達の目的だった。
桜の花びらが舞う季節。
高校二年になった俺は学校の下駄箱近くに貼り出されている、新しいクラス割の紙を見ていた。
「俺の名前……名前は……あった!」
※二‐四 出席番号二十七番 日笠春夏〈ひかさ はるか〉
自分の名前を見つけてホッとする。と同時に知っている奴が同じクラスにいるか確認してみる。
……ほとんど知らない。仲のいい奴らはことごとく違うクラスになっていた。
俺のクラスには友達どころか、話した事がある奴が二~三人いる程度。
「はぁ~マジかよ……」
深い溜め息をつく。新学期早々テンションがガタ落ちです。
でもここでくよくよしていても仕方がない。なんとしても秋までにはたくさん友達を作らなければならない。何故なら秋には修学旅行が待っているからだ!
修学旅行の頃までにはクラスの中に友達を作っておかないと、孤独でつまらない修学旅行になってしまう。高校生活最大のイベントをそんな悲しい思い出にしない為にも、秋までには絶対に友達を作る。それが俺に課せられた(自分で今勝手に課せたけど)使命だ!
でも俺は結構なレベルの人見知りだから簡単にはできないだろうな……正直不安だ。
高二のスタートからつまずいた感はあるが、楽しい修学旅行を迎える為にもこれから気合いを入れて頑張って行こう!
そんな事を考えていたら後ろから、
「お~い、そろそろチャイムなるから早く自分のクラスに入れよ!」
先生の声に急かされて、俺を含めたその場にいた生徒達は各々のクラスへ向かった。
新学期初日は始業式とホームルームだけで終わるので、午前中に帰れるから嬉しい。
普通ならここで友達と、
「今からどっか行く?」
「なら、カラオケ行かない?」
「おおっ! いいね、カラオケ行こうぜ!」
「俺は何を歌おうかな~、アニソンとか歌っちゃいますか!」
「またアニソンかよ、たまには演歌とか歌えよ」
「何故演歌? 高校生で何故演歌チョイス?」
とかなんとか言いながら楽しく帰って行くんだろうな。
だがそんな話ができる友達はまだこのクラスにはいない。
俺が話した事のある数少ないクラスメイトは、俺の知らない奴と楽しそうに話している。
そこに割って入って会話に参加すれば、友達を作るいいきっかけになるのだろうが、人見知りの俺が初対面の相手に話しかけられる度胸などあるわけがない。
こうゆうのは焦るものじゃないし、ゆっくり時間をかけて友達を作っていけばいいのだ。
そう自分に言い聞かせ教室をあとにした。
他のクラスにいる友達と一緒に帰ろうと思ったが、友達がどのクラスにいるのかまだ覚えていないので今日は一人で帰る事にした。
廊下を歩きながら周りを見ると、友達同士で楽しそうに会話している生徒達の姿が目に入る。皆楽しそうだ。
「べ、別にうらやましくなんてないんだからね! 俺にだって友達はいるんだもん。ただクラスが違うだけで今日は一緒に帰らないだけなんだからね! クラスが一緒なら今頃お前達みたいに友達と楽しそうに帰ってるんだから!」
自分を慰めるように、ちょっとツンデレ口調で呟きながら下駄箱を目指す。涙目になっているのは秘密だ。
廊下を歩いていると気の早い一部の部活が、一年生勧誘用のポスターを壁に貼り出していた。
カラフルな色彩で描かれたポスターや可愛いイラストが描いてある物。中にはイラストなど一切なく文字だけの、まるで何かの呪文みたいな意味不明な物まである。
「部活か……」
俺も一年の時は一応サッカー部に入っていた。だが元々運動神経があまり良くない俺は練習について行けず、わずか一か月で辞めてしまった。もしあのまま部活を続けていたら今よりもっと友達がいただろうし、新しいクラスになってもこうして一人寂しく帰る事もなかっただろうな。
まぁ、だからと言って今更また部活に入ろうとは思わない。何故なら今入ったところで一年と同じ扱いを受けるだけだし、どうせ練習について行けずにまた辞めるに決まってる。
よって俺には帰宅部がお似合いなのだ。
下駄箱で上履きから靴に履き替えて外に出る。
ちょっと喉が渇いたので南校舎裏の自転車置き場にある、ジュースの自動販売機に行く事にした。
俺の通う私立南星崎高校には二十台を超える自動販売機が置いてある。ジュースの自販機以外にもパンやアイスの自販機、そしてたこ焼きや焼きおにぎりの自販機まである。色々な自販機があるのは嬉しいのだが、全校生徒が八百人ぐらいしかいないのにこの自販機の数はちょっと多い気がする。どうやら校長と業者との間に大人のつながりがあるらしく、その結果この学校には自販機が多く設置されているらしい。そして今も増え続けている。
下駄箱の近くのにも自販機はある。だが最近の俺はジュースを買う時は毎回自転車置き場の自販機に行っている。何故わざわざ下駄箱のある北校舎から、かなり距離のある南校舎裏の自転車置き場の自販機まで買いに行くのかと言うと、そこには俺が今ハマっている「トロピカーナ・マンゴー&ピーチ炭酸水」が売っているからだ。学校内の自販機でこのジュースを売っているのは、自転車置き場の自販機しかない。
だから遠くてもここに毎回買いに行くのだ。あの甘美で魅惑的な味を一度体験してしまったら、他のジュースなんて口にできない。
あぁ~……、あの味を思い出すだけでも心が躍りだす!
早く飲みたい気持ちを抑えながら、俺は一路自販機を目指す。
小銭を財布から取り出し、買う準備万端で自販機の前に立つ。だがそこには俺が予想もしなかった驚愕の光景が待っていた!
「な、なんじゃこりゃ!」
空き缶用のゴミ箱に大量の紙屑が捨ててあったのだ。
「誰だよ、こんな事をする奴は!」
普段細かい事を気にしない俺だが、ゴミの分別ができない奴や平気でポイ捨てするような奴を見るともの凄く腹が立つ。一度ごちゃ混ぜになった可燃・不燃ゴミを分別するのがどれだけ大変な事か。そんな事も分からない奴等は全員逮捕して極刑に処すべきなのだ!
俺は込み上げる怒りを抑えながら紙屑をゴミ箱から取り出す。
枚数にして約百枚はあるだろうか。そのどれもが同じ部活の勧誘用チラシみたいだ。
「どこのふざけた部活だよ! 俺が今から言って説教してやる!」
中身を確認するべくクシャクシャになっている紙屑を広げる。すると、
「声優と仲良くなれる部、部員募集!」と書いてあった。
……えっ?
俺は再度見直す。
「せ、せ、声優と仲良くなれる部だと! こんな部活があるなんて知らなかったぞ!」
自分でもビックリするぐらいの大声を出してしまった。でもそれだけ俺にとっては衝撃的な出来事なのだ!
何故なら俺は大の声優好き・アニメ好き・漫画好きの三冠王なのです! よってこのような部活があると知れば、自然とテンションが上がるのは仕方がないのだ!
そんな三冠王である俺の将来の夢は漫画家になる事。
でも今までこの事は誰にも言っていない。だってオタクと思われるのが怖いから……。
オタクという存在は世間一般から見たら今も昔も、「暗い・キモい・何考えているか分からない」といったネガティブなイメージしかない。(と俺個人は勝手にそう思っている)