プロローグ
---異世界---
「早く後を追えーーっ!」
人ではない、確かに黒い羽を持つそいつは仲間の奴らに叫んだ。
闇の中、森の中を、木から木へと飛び移る。そいつらに追いかけられる、息を切らしながらも絶対に捕まってはいけない。と何度も頭の中で繰り返しながら足にはもう走り過ぎて感覚がない、
だがこの子だけは守ってみせる。
女の顔の眼には、恐怖と疲れで消えかけた光とその奥に覚悟という光があった。
途中、木々の裂け目から街が見えた。
外の闇のなかを視界の4分の1程を照らす赤い灯り、大きな揺らめくものがあった。
一国の王女である彼女は自分の城が燃えさかるのをその目で見た。
----ッ
後ろから追いかけてくる連中に燃やされたのは知っている。その屋敷に住んでいる家族、メイド、騎士たちがいないのも知っている。皆、避難したり戦闘に出たりしているのだ。
ただ、そのほぼ燃え尽きて炭と化している自分の城が燃えているのを見るのは衝撃だった。そして、現実に引き戻された。後ろにいる奴らに怒りと悔しさを覚えた。
夫である国王は無事なのか?周りには護衛隊が4人程しかいなかった。
外の戦場はどうなっているのか?騎士たちを信じて祈るしかないのだが。
メイド達は逃げ切れたのか?逃げ出した直後に襲撃にあった為見つかってなければいいが。
家族である夫、騎士団、メイド達が走馬灯の様に頭を駆け巡り心配になっただけで王女の顔が歪み、涙が零れた。
その、走っている間に見えた一瞬の景色だけで、さらに彼女に覚悟ができた。
自分に課せられた使命、子供を守るために戦う事こそが今絶対にしなければならない事だと。
「おい、そいつを我らに渡せ!」
その声は聞き覚えのある騎士団長の声だった。
彼は国を裏切り、敵の使いとしてスパイに送り込まれていた。