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ボッチートなヤンキー魔女がバトルします

作者: 野兎がるる先生

 あたしの名前はペチカ・レンダーヘン。

 年齢はたぶん17才前後だと思う。師匠はそう言ってた。だってあたしは元孤児だ、師匠ですらあたしの正確な年齢は知らなかったし。

 あ、そんな訳でレンダーヘンってのは師匠の名前ね。


 えー、ところでその師匠なんだけど昨日死んじゃった…。


 死因は老衰だと思う。

 介護とかも大変だったけど、師匠の事は好きだったから正直泣いた。そんで一日泣いてあたしは決意した。


 一人ボッチは寂し過ぎるから新しい友達を見つけようと!。


 そう、あたしと師匠は人里離れた山奥で、たった二人きりで生活していた。

 そんな訳であたしは長年住んだ山小屋を畳んで家を出る事にした。師匠の居ないここにはもう戻る事もないだろう。


 そして友達を一杯作ろう!、そう心に決めたのだった。







 家を出て約20日、ようやく大きな街に到着した。


 つかその間テクテク自力で歩いてたんだけどさ…。なんかモンスターはともかくとしてさ、盗賊にムッチャ遭遇したんですけどコレ何?!。

 師匠にも外界は危険だから気を付けろ、とは言われてたけど、どんな世紀末だよ?、まったく!。

(一応ならず者には目には目を、歯には歯をの精神で対応した。意味は分かるな?w)



 そしてついに到着しました。

 そんな大都市がここ!、ズラックス王国のドライアイって街だ!。


(ま、人生初の都会なので彼女的には大都市だが、実は特になんの変哲も無いちょっと大きい街だ)


 うっはー!、ここどんな所なんだろ?。住み心地いいかなぁ?、みんな気さくでいい人ばっかならいいなぁ!。


 とか街門の前でのんきにボーっと突っ立っていたらゴンッ、ドカッと突き飛ばされる…。


「邪っ魔だよ、ボーっとしてんな!」


「ッんだとコラッ!?」


 いてーなこのヤロー!。


 て、びっくりして振り向いた時には、あたしにぶつかった奴は言うだけ言ってさっさと通り過ぎて行ったし…。


 チッ、早速なんかヤな感じだな!。


 しゃーねーから気を取り直して街門をくぐろうとすると検問で止められた。そんなのあるんだ?。


 ま、まあ大都市だからね…。


「顔を見せろ。ん?、お前女か?。まあいい、それよりその荷物は何だ、商売用か?」


 そう言って門兵のおっさんがあたしの前に立つ。


 ちなみにあたしは師匠譲りの男物の大きなフード付きコートを着ていた。まあ雨風とか凌ぐにはこう言うのが最適だからね、女の子っぽくないけど。

 それと荷物は浮遊石で出来た浮き台ポートに家財道具を結構積んで来たので、確かに商品を運ぶ商人にも見えなくはない。

 面倒臭いがそこら辺を丁寧に説明し、荷物を広げて見せると門兵もすぐに納得してくれた。


 そして移民局に連れて行かれた…。


 なんか、街に住むには審査が必要らしい。お金とか資産とか、あと伝手ツテとか功績だとか?。なんか生々しいな…。

 と言うのもモンスターの脅威から身を守ってくれる外壁には限りがあるので、無制限に人を入れられないらしい。


 ところが、あたしが魔法使いだと知ると対応は一変した。


 どうも魔法使いは貴重な存在で、能力のある魔法使いは無条件で移住OKらしいのだ。ラッキ〜!。

 ただ、やはり魔法使いにも色々いるので、ある程度の能力、もしくは才能を見せる必要があるとの事。


 つまりテストだ。


 うわ、テスト?!。

 なんかやだな…、大丈夫かなぁ?。


 そんな訳で、ハンターギルドに連れて来られました、速攻で…。

 ぶっちゃけここに至る道順とかもう全然覚えてないし!。もう実質迷子の一歩手前だよ。しかもあたしを連れて来た役人のおばさん、なんかツンツンしてて話し掛けにくかったし。


 とか思ってたら、すみやかにギルドの職員へ引き渡されるあたし。そして流れ作業的に個室へと誘導。


 ギルドカウンターでならず者たちとのいざこざとか、テンプレイベント総スルーですか?。


 そして個室へ放り込まれたら即取り調べタイム。

 何処で魔法を習った?とか、師匠は誰?とか、倒したモンスターの種類とか?。そんな事を機械的に答えさせられる。


 ちょ、ちょっとめまいが…。


 そしてそれが終わったかと思うと、今度は中庭っぽい所で実技試験?。展開早いな!、これがお役所仕事って奴?。


「えー、それじゃあ攻撃魔法であのマトを狙ってみてくれる?」


 また別のお姉さんが、中庭に鎮座する大きな壁を指差した。その壁の前面にはマトを示すマークが印されていた。


「えーっと、全力でやっていいの?」


「ええいいわよ?、どうせ壊れないから」


「ふーん、ほんとに?。よし、じゃあ壊してやる!」



 よし、壊してやるぜ!。



「心の声なんだろうけど漏れてるわよ…、しかも口の方が先に…」


 残念な子なのかしら?、職員のお姉さんは思ったと言う。しかしあたしはそんなの気にせずに詠唱を始めた。



 ぶっ壊す!。



 いや、これテストだからね?、壊すのが目的じゃないのよ?。(←お姉さん)


 さて、この場合詠唱を邪魔する相手は居ないので、あたしは目一杯時間を掛けて呪文を練り上げた。


 師匠の名にかけて!、テメエを(壁ね)、ぶっ潰す!。



「死ねッ、『流星雨』!!!」



「オラオラオラッ!、死ね死ね死ね爆爆爆ゥッ!」


 ハアハアハア…。


 う、全然壊れなかったよ…。ガクッ。



「いや、それはそうよ?、だってこれ絶対魔法防御アンチマジック防護加工コーティングされてるし…」


「それを早く言ってよねっ!」(←笑)


 む、無駄な努力しちゃった…。


 ぜーはーと荒い息を吐きながら、あたしはひっくり返る事のないこの世の摂理を思い知った。

 うん、一つ賢くなった。別に前がバカだった訳でじゃないよ、ただ前より賢くなっただけ!。


「えっ!、オツムの中身はともかくとして魔力は凄いじゃない!、今の物理ダメージ『上級』よ?。しかも限りなく『王級』に近い『上級』!。スゴいスゴい!」


 お姉さんはマトに入ったダメージを端末で集計して驚いた。

 ちなみにダメージランクは、初級→下級→中級→上級→王級となっている。そのさらに上に神級があるが、それはほぼ存在しないレベルらしい。


「そ、そうなの?。でもホントに誉めてる?、なんだかバカにしてなかった?」


「ウッソぉん?、スッゴい誉めたよ〜w」


 なんかイラッとする…。


「く…、とりあえず、お姉さんの名前教えて貰えますか?、今後の為にも(色んな意味で)」


「え?、あー、あたし山田花子よ〜、よろしくねっ!」



「「………」」と横たわる沈黙とその羊たち?。



「ん!、ナノンここに居たか?、待たせたな」


 と、そこへ普通にハンターな感じのおじさんが現れた。

 ちなみにこの中庭にはちらほら他にも人が居たが、現れたおじさんがあたしたちに用があるのは一目瞭然。


 よって。「えー、山田・ナノン・花子さんでしたか…。あっ、それとも氏名詐称の方がよろしかったですかね?」


「や、やだなー、ジョーダンに決まってるじゃないの!。わたくしナノン・ティザレッド23才です、以後お見知り置きを〜!」


「え?、ナノンお前25じゃなかったっけ?、なんかこの前無理やり誕生日のお祝いをさせられた記憶が…?」


「えー、では年齢詐称も加えさせて頂きますね…」




 閑話休題(ちょっと一息入れるね?)。




「やれやれ、まったく失礼しちゃいましたわ。ホント冗談もほどほどにしなきゃですわね?。

 さてペチカさん、お待たせしました、こちらが今回あなたのお相手をしてくださるファイザック・ヒュームさんです。

 彼は防御に特化したスキルを所有してらっしゃるので大抵の攻撃は防げます。なので思いっきりぶつかって行って結構です。

 ただしさっきみたいな長詠唱の魔法なんかは完成前に潰されるでしょう。かなり実戦に近い戦いと考えてください。

 何か事前に質問はありますか?」


(えー、ヒュームさん?。このナノンて人はいつもこんな感じなんですか?。もしかしてあたしバカにされてる様な気が…)


(あー、ペチカちゃんだっけ?。すまんこの子はいつもこうなんだ。職員の中でもちょっと…、いや、かなり、なのかな?。確かに浮いてる。

 でも意外と頭はいいんだ、ただちょっとブレーキが壊れてるって言うかさ?、アクセルしか付いてないって言うか?、すぐに調子に乗ってやり過ぎる所があるんだよね…)


(それって結局バカなんじゃないの?)


(う…、結果的にはそう取られても仕方ないかな…)とひそひそ話。


「ほらそこっ!、早く戦うのよ!。ほれファイッ!」


 この女絶対世の中ナメてんな?。そう思いつつあたしとヒュームさんは距離を取って向かい合った。


 私の為に二人は戦うのよ!、とか言ってるし…、花子が。

 ただ、このヒュームさんとは仲良く出来そうな気がする。まあおっさんだから恋人としては無理だけどね。


 さて、そんな訳でヒュームさんはたぶんいい人だと思いますw。だが、戦いとなるとまた話は別だ。



「全力でぶっ潰す!」←またか?。


 ぶっ潰すッ!。(←こっちは心の声w)



「ほんとこの子、気合いの入ったヤンキー魔女ねえw」


「ろくな女出て来てねえぞ今の所…」


「ペチカさん、こやつにトドメを刺すのです!」


「……………」



 あたしは身体強化魔法『瞬発』を唱えた。あたしの全身を淡いオーラが包み込む。これで約10秒くらいの間、かなりの身体能力向上が見込まれる。

 10秒なんて短すぎる、と思うかも知れないが、実戦なんて余程実力が拮抗してない限りだいたいすぐに決着はつく。一対一の戦いなんかは特に。


「ところでヒュームさん得物は?」


「俺は要らん。だが遠慮は無用だぞ」


「ふーん…」


 ただまあヒュームも目立った武器こそ持ってないが防御面は万全そうだ。

 まあいいでしょう。

 あたしはコートを脱ぎ捨てると、試験用に刃の無い模擬刀を振り回した。



 るる〜〜〜ん♪。



「おお?、本気で魔法使いが接近戦を挑むってのか?!」


 あたしはゆっくりと素でスキップしてヒュームとの距離を詰めた。

 一方ヒュームはベタ足で、完全に受けに徹する構えだ。


 ところで『瞬発』の効果時間は約10秒だが、なるべく『瞬発』効果を小出しにして省エネ利用すれば効果を保持していられる総時間はもう少し延びる。

 とは言え流石は試験官、なかなか隙の無い構えだ。モタモタしてるとすぐに時は尽きてしまうだろう。


 なのであたしは躊躇なくマジ攻撃を開始した!。


 ヒュームの目の前で挑発するかの様にフェイントを刻むと、突然の『瞬発』加速で目の前から消える。

 この急激な速度変化に、大抵の人間は付いて行けない。

 まあ、かく言うあたしもこの『瞬発』のスピードを制御出来る様になったのはつい最近の話だw。


 ヒュームを軸に回り込むと、流れる様に剣を叩きつけた!。しかし後ろに回されたヒュームの手指がそれを弾く。


 ギイィーーン!。


 いくら刃が潰されているとは言え、人の手と接触したとは思えない金属音が鳴り響いた。


 ヒュームの持つスキルは『鉄拳』。両手を鉄のごとく硬化させる能力だ。

 だけどこの時点であたしはまだその能力を知らない。でもだいたいの想像は付く。もしも体全部を硬化出来るのなら手で弾いたりはしないだろう。つまりそう言う事だ。


 あたしの師匠は魔法専門の人だったので、スキルについてはごく一般的な事しか教わらなかった。

 ただ大雑把に言うと、スキルは魔法より即効性が高い分その能力は限定的。要するに大抵は見たまんまって訳なのだ。

 なので初撃を防がれたあたしはその能力分析をさらっと終えると、続けて連撃を加えた。


 一気に『瞬発』効果全開。手当たり次第に剣撃をお見舞いする!。


 あたしはヒュームの周りを小刻みかつランダムに回転、逆回転を繰り返し、上下左右に斬り付けた。

 流石にこのスピードで切り刻めば被弾は免れないのだが、ヒュームも手練れだった。手で追えない攻撃は装甲で上手く受け流しやがった。


 チッ。


 あたしは一瞬にして最高速の攻撃を連打し終えると、すぐに距離を取って離れる。『瞬発』の効果が切れたのだ。


 うーーーん、やるね。


 この人、師匠の次に強い!。

 つってもあたし、師匠かチンピラしか相手した事無いからアレなんだけどw。ってこれあんま比較にならないな。


 だが、一方ヒュームは驚愕していた。


(そもそも相手は魔法使いだと聞いていたのだが?!。

 まあ確かに魔法を使ってはいるけどさ!、こんなに剣を使いこなす魔法使いは初めてだ。て言うか要するにこいつ魔法剣士なんじゃないか?。


 魔法が使えるには適性が必要だ。そんなただでさえ使える人間が限られていると言うのに、さらに魔法言語学的な知能も要求される。

 つまりたまたま適性があってもバカでは大成しないのだ。


 一方、剣の腕前は身体的な修練に比例する。

 そして剣も魔法もどちらも同じくらい地道な努力と時間的な束縛を要求されるのだが、剣と魔法その両者が求める資質はまさに対極と言ってもいいだろう。

 そんな剣と魔法、文武を両立させるには最低でもどちらかに飛び抜けて優れた資質、つまり努力の要らない生まれ持った才能が必須。


 いわゆる天賦の才。それが魔法剣士だ。


 とは言え、ヒュームはこれほどの魔法剣士と戦うのは初めてだった。

 剣と魔法両方を自在に使いこなす?。話には聞いた事があったが、今まで大抵はどっち付かずの半端者だったので正直ナメてた。

 そんな思いを今、ヒュームは撤回したいと思う。


 これが本物か。


 まだこんな年若い少女がここまで出来るとは恐れ入る)



 一方あたしの心は傷付いていた。

 長すぎる脇キャラの心中描写もそうだが、師匠以外でこの攻撃を防いだのはヒュームが初めてだったからだ。


 しかも結構余裕で!。


(いやいやいや、ムチャクチャ際どかったぜ?。特に初見だったのもあったし、防げたのはたまたまと言っていいくらいだ!)とヒューム。


 確かに『瞬発』はそれほど高度な魔法ではない。だがそれはある意味研究し尽された結果と言い換えてもいいだろう。そんなこの魔法は、いわば研ぎ澄まされた魔法の剣。

 そしてあたしが最も得意にして決め手としている戦術の核だった。


 つまり、本気の攻撃だ。


 だから、それは、許せない。


 あたしのプライドが!。



「じっちゃん…じゃねえや、師匠の名にかけてヒュームさん!、あんたを殺すッ!!!」



「許可しましょう」とナノン。


「ちょっと待て!、お前は許可する前に仕事しろっ!」


 悲運の男ヒュームさんは思った。

(テストで殺人予告を許可するなよな!、と。

 と言うか、そもそもここは「殺す!!!」とかじゃなくて「倒す」くらいの所だろ!。テストで人の命を奪うってどんなサイコさんだよ?!。

 それに個人的なプライドで師匠の名を持ち出すのは弟子としてどうなんだ?!)


 ヒュームはこの不可解な状況を嘆いたw。

(なんでテストの試験官で命狙われなあかんねん?)


 さてさて、あたしは体力的な消耗を怒りで押し退けると、手を剣に当てて魔法を唱えた。

 剣に不気味なオーラが纏い付く。武器にダメージUPの効果を与える付与魔法エンチャント『増撃』だ。


「って、まださらに上があるのかよ!」


 あたしがニヤリと笑みを浮かべ再度『瞬発』の詠唱を始める。

 するとヒュームは僅かに思案した後、大げさな構えを見せてスキル『鉄拳』を発動させた。

 今さら?、とか思っていると、ヒュームの両手がブーーーンと言う唸りを上げて光り始めた。


 先程にはなかった反応だ。


 ふふ、あんただってまだなんか隠し持ってるじゃない!。


 さあ、用意が整ったなら。


 行くよっ!。



 あたしは疾走はしった!。



 ところで、ヒュームの戦闘スタイル、それは無手と言うよりどちらかと言えば相手に合わせて様々な武器を使うやり方だ。

 ぶっちゃけ言うと特に武器に習熟してる必要はない。結局は武器で武器を相殺したり、素手の間合いに持ち込む為の繋ぎでしかないからだ。

 ただ今回は相手が魔法使いと言う事で、相手の安全を重視して無手スタートになっただけだ。

 そして今回の場合、それはたまたまなのだが不利にはならなかった。


 と言うのもこの魔法剣士ペチカが『瞬発』の使い手だったからだ。

 もし最初から武器を持っていても、どのみちそのスピードに追い付くには武器を捨てる事になっただろう。それだけ彼女の攻撃は速かった。

 そう、そしてそれはただ速いだけだった。付与魔法『増撃』さえ無ければ。



「クッソォオオオオオオオッ!」


「ウラァァァアアアアアアッ!」



 あたしは最速で連撃を放ちながら『増撃』の最大一撃を狙い澄ました。

 『増撃』は任意で撃てるが数に限りがある。あたしの増撃は4発が限界だ。なのでまだ増撃は撃たない。


 斬り付ける剣から素手相手とは思えない撃音が弾け飛ぶ。

 確かにさっきとは手応えが違う。だがスピードには大した違いはなかった。

 そこで機を見てまず一発目の増撃で右手を弾く。続けて二発目で左手を。そして三発目で強引に引き戻された右手を再度弾き、ヒュームの体勢を崩すのに成功する。


 よし、上手くいった!。そこでとどめの四発目だ!。


 無防備にのけ反るヒュームの脇腹に、あたしの剣が見事吸い込まれる。


 と、その時ヒュームの体が不自然な回避行動を始めた。がら空きの隙間が一瞬にして閉じて行く!。



「オラァアアアッ!」



 ヒュームがその身をひねり、晒した脇腹に防具の付いた膝を捩じ込んで来た。

 少し遅れて『鉄拳』が戻って来る!?。


 あたしの三発目の増撃がヒュームの体勢を崩した時。ヒュームはむしろ自分から倒れて弾かれた左の『鉄拳』で地面を突いた。

 そして強力な振動を発する鉄拳で地面を突き刺したのだった。


 完全に体勢の崩れて体が浮いた筈のヒュームだったが、がっちり手首まで突っ込んだ地面を支点に強引な回避行動に出た。

 まさかあたしもそんな動きは予測していない。

 とは言え、この時点ではヒュームの取った回避行動の詳しい原理はあたしには分からなかったが、回避行動を取られているのは事実。

 だけどここまで来て今さらやり直しなんて利かない。もうとことん行くしかない!。


 行けっ!。


 それよりもっと速く!。


 あたしの一撃が、閉じられる防御の隙間目掛けて走り抜けた!。



 ギッイイィーーーーン…。



 ひとしきり激しい撃音が鳴り止むと、辺りに静寂が舞い降りた。


 そしてドサッ、ボトッと言う平凡な物音でその静寂は消えた。

 ヒュームが尻餅を付き、あたしの剣が折れて転がる。


 あたしは折れた剣とヒュームさんを見比べた。


 手応えは…、

 正直分からない。


 なんか決まったような気もするし、防がれたような気もする。

 まあだいたい模擬戦用の剣だ。斬れないから血とか出ないし結果が分かり辛い。

 しかも相手のヒュームさんも呆然と座っているので、ダメージの程がさっぱり伝わって来ないし!。



 んーーー………。



 あたしはヒュームさんから目を逸らさず、後方のナノンさんに手を伸ばした。


「ナノンさん、新しい剣を!」


 言われたナノンは少しびっくりした。


「い、いいけど、次から壊した剣は買い取りになるからね?」


 えっ。


「セ、セコ……」


「え〜、でも数には限りがあるわ、仕方ないでしょ?」


「………」


 どうしよ?。


 ふと、俗世のしがらみに気を取られて目を離したあたしは、慌ててヒュームさんに視線を戻した。

 と言ってもヒュームさんに自分から攻めて来る気配はなかったからたぶん大丈夫だと…、って、え!。いない!?。


 反射的に反撃を覚悟したあたしがびっくりして辺りを見回す。と、中庭の出入口をスタスタ立ち去るヒュームさんの姿が?。



 呆然とそれを見つめるあたし…。



「あ、逃げたね」とナノン


 え…。逃げた?。


「まっ、とりあえずこれでテストは終了としましょ?。そしておめでとう、テストは文句なしで合格よ、これからもよろしくね!」


 その時、体力消耗と共に、ドッと汗が流れ落ちるのを感じるあたしなのであった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 心の声より先に口から言葉が出ちゃうピチカちゃん可愛い。 「長すぎる脇キャラの心中描写」という部分でつい笑ってしまいました。 面白かったです。
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