表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

泡雪の 終い愛宕に 鐘は鳴るB

 こんにちは、桜雫あもる です。


 今までにない軽い足取りで、『紅い木の葉が、泡雪に(むも)れてしまわぬように』次話投稿です。

 残すところあと一部、なんとかクリスマスまでに頑張れ筆者。


 サブタイトルの川柳ですが、一応季語とか気にしながら書いてます(拘らないことをモットーにした今作も、そういうところは凝っています)。

 クリスマスって、二十四日の夜から二十五日の途中までなんですね、調べていて初めて知りました。

 ちなみに、「終い愛宕」とは十二月二十四日の行事(?)だそうです。

 『艦これ』にも愛宕さんっていますけど、元々は神道の神様(山神)の名前なんですね。インスピレーション湧きました。


 まだまだ人付き合いや勉学で忙しいというか、寧ろこれからもっと忙しくなるというか。

 だけど挫けず書き続けます。

 よろしければ声援をお願いします。



 それでは、引き続き『紅い木の葉が、泡雪に(むも)れてしまわぬように』をお楽しみください。

 〝狩り〟の時間になりました。

 (アキ)はコートのポケットにある、(アキ)の手のサイズに合った小さな匕首(ひしゅ)を確かめます。


 ひと気のない公園でした。

 敷地はとても広く、たくさんの遊具やベンチが、蛇行する散歩道のわきに散らばっています。

 普段なら子どもでいっぱいになっているでしょうが、さすがにクリスマスの夜です。(アキ)が見渡すかぎり、いたのは一組のカップルだけでした。

 そのカップルも、(アキ)が来てすぐにベンチから立ち上がって公園を後にしました。

 静まりかえった公園の芝生の上に、雪が降りしきる音だけが聞こえてきます。


 (アキ)は、手近にあったベンチにちょこんと腰かけました。

 獲物の到着を待つためです。

 周りに気を配りながらも、(アキ)は地面につかない足をぷらぷらと振って、静かな景色に見惚(みと)れていました。



 * * * * *



 (アキ)の足元に、降り積もった雪が薄く層を重ねたころでした。

 白く染まりつつある景色の隅で、黒いなにかが動きました。

「!」

 (アキ)はすぐさまそれに気づいて、ぱっとベンチの後ろに身を隠します。

 ベンチの陰から、顔だけをわずかに出して様子をうかがいます。


 降りしきる雪にはばまれて見えづらいですが、(アキ)から離れたところにあるアーチ状の遊具のそばに、たしかに人影がありました。

 暗い夜に紛れるように黒いコートを着た男は、足でも悪いのか、おぼつかない足どりで公園の中へと入ってきていました。

 深く帽子をかぶっているので、人相はわかりません。

 ふらふらと体を後ろに横に揺らしながら進む男は、やがてその遊具に手をかけると、そのまま背中を預けて止まりました。

 動く気配はありません。


 (アキ)は、遊具にもたれた男の動きに注意しながら、ゆっくりと、男の後ろから回り込むように体を屈めて走り寄りました。



 * * * * *



 時折(ときおり)木や遊具の陰に隠れながら、(アキ)は黒いコートの男のすぐそばまで近づきました。

 男はあれから、ぴくりとも動いていません。

 男がそこでなにをしているのかはわかりません。が、それが自分の獲物であることが、(アキ)にははっきりとわかりました。

 顔はよく見えませんが、依頼を伝えてくれた男から事前に聞いていた特徴そっくりです。

 黒いコートと帽子の大男。見つけました。


 そこからは、一瞬の出来事でした。


 (アキ)はコートのポケットに手を入れて、そこにあった匕首を取り出して逆手(さかて)に持ち、小さな足をすばやく動かして雪を蹴りました。

 音もなく、男の背後まで距離をつめた(アキ)

 その次にたん、とアーチ状の遊具の骨に足をかけて蹴り上がり、軽い体を高く高く跳躍させながら、遠心力を得るためにひゅるりと回ります。


 男はまだ、頭上に迫った(アキ)に気づかないようです。


 (ひるがえ)って、翻って、翻って。

 (アキ)の体が黒いコートに近づき、(アキ)の手元はその首筋に狙いを定め。


 ──その手に握られた紅い柄の匕首の刃先が、男のうなじを触れ、撫でるように、斜めへ払い落としました。

 雪の上に、なにかがぼとりと落ちました。


 そして。



「………なに、してるの」


 吐きだすような、自分でも驚くほど冷たい声が、(アキ)の口から飛び出しました。

 雪の上へと足を下ろした(アキ)は、じとりとした目で剥がれたコートを睨みます。

 (アキ)が一刀に引き裂いた大人用の黒いコートと、よろけて崩れたハリボテの体の中から出てきたのは──、



「………ごめんね、(アキ)ちゃん」



 白い、フリースつきのコートを身につけた、(アキ)と同じくらいの背丈の少年──(ユキ)でした。




 予報どおり、雪雲の層は薄くなりました。夜空にはうっすらと星座が映ります。

 夜空から降る雪が、淡くやわらかに、はらはらと舞うようになりました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ