泡雪の 終い愛宕に 鐘は鳴るB
こんにちは、桜雫あもる です。
今までにない軽い足取りで、『紅い木の葉が、泡雪に埋れてしまわぬように』次話投稿です。
残すところあと一部、なんとかクリスマスまでに頑張れ筆者。
サブタイトルの川柳ですが、一応季語とか気にしながら書いてます(拘らないことをモットーにした今作も、そういうところは凝っています)。
クリスマスって、二十四日の夜から二十五日の途中までなんですね、調べていて初めて知りました。
ちなみに、「終い愛宕」とは十二月二十四日の行事(?)だそうです。
『艦これ』にも愛宕さんっていますけど、元々は神道の神様(山神)の名前なんですね。インスピレーション湧きました。
まだまだ人付き合いや勉学で忙しいというか、寧ろこれからもっと忙しくなるというか。
だけど挫けず書き続けます。
よろしければ声援をお願いします。
それでは、引き続き『紅い木の葉が、泡雪に埋れてしまわぬように』をお楽しみください。
〝狩り〟の時間になりました。
秋はコートのポケットにある、秋の手のサイズに合った小さな匕首を確かめます。
ひと気のない公園でした。
敷地はとても広く、たくさんの遊具やベンチが、蛇行する散歩道のわきに散らばっています。
普段なら子どもでいっぱいになっているでしょうが、さすがにクリスマスの夜です。秋が見渡すかぎり、いたのは一組のカップルだけでした。
そのカップルも、秋が来てすぐにベンチから立ち上がって公園を後にしました。
静まりかえった公園の芝生の上に、雪が降りしきる音だけが聞こえてきます。
秋は、手近にあったベンチにちょこんと腰かけました。
獲物の到着を待つためです。
周りに気を配りながらも、秋は地面につかない足をぷらぷらと振って、静かな景色に見惚れていました。
* * * * *
秋の足元に、降り積もった雪が薄く層を重ねたころでした。
白く染まりつつある景色の隅で、黒いなにかが動きました。
「!」
秋はすぐさまそれに気づいて、ぱっとベンチの後ろに身を隠します。
ベンチの陰から、顔だけをわずかに出して様子をうかがいます。
降りしきる雪にはばまれて見えづらいですが、秋から離れたところにあるアーチ状の遊具のそばに、たしかに人影がありました。
暗い夜に紛れるように黒いコートを着た男は、足でも悪いのか、おぼつかない足どりで公園の中へと入ってきていました。
深く帽子をかぶっているので、人相はわかりません。
ふらふらと体を後ろに横に揺らしながら進む男は、やがてその遊具に手をかけると、そのまま背中を預けて止まりました。
動く気配はありません。
秋は、遊具にもたれた男の動きに注意しながら、ゆっくりと、男の後ろから回り込むように体を屈めて走り寄りました。
* * * * *
時折木や遊具の陰に隠れながら、秋は黒いコートの男のすぐそばまで近づきました。
男はあれから、ぴくりとも動いていません。
男がそこでなにをしているのかはわかりません。が、それが自分の獲物であることが、秋にははっきりとわかりました。
顔はよく見えませんが、依頼を伝えてくれた男から事前に聞いていた特徴そっくりです。
黒いコートと帽子の大男。見つけました。
そこからは、一瞬の出来事でした。
秋はコートのポケットに手を入れて、そこにあった匕首を取り出して逆手に持ち、小さな足をすばやく動かして雪を蹴りました。
音もなく、男の背後まで距離をつめた秋。
その次にたん、とアーチ状の遊具の骨に足をかけて蹴り上がり、軽い体を高く高く跳躍させながら、遠心力を得るためにひゅるりと回ります。
男はまだ、頭上に迫った秋に気づかないようです。
翻って、翻って、翻って。
秋の体が黒いコートに近づき、秋の手元はその首筋に狙いを定め。
──その手に握られた紅い柄の匕首の刃先が、男のうなじを触れ、撫でるように、斜めへ払い落としました。
雪の上に、なにかがぼとりと落ちました。
そして。
「………なに、してるの」
吐きだすような、自分でも驚くほど冷たい声が、秋の口から飛び出しました。
雪の上へと足を下ろした秋は、じとりとした目で剥がれたコートを睨みます。
秋が一刀に引き裂いた大人用の黒いコートと、よろけて崩れたハリボテの体の中から出てきたのは──、
「………ごめんね、秋ちゃん」
白い、フリースつきのコートを身につけた、秋と同じくらいの背丈の少年──雪でした。
予報どおり、雪雲の層は薄くなりました。夜空にはうっすらと星座が映ります。
夜空から降る雪が、淡くやわらかに、はらはらと舞うようになりました。