連れ立って 浴びる霜枯れ 身が震う
秋という少女と、雪という少年。
二人が出会ってからというもの、街中の、ひと気のないところでは、耳を澄ませればこんな会話が聞こえてくるようになりました───。
「秋さん秋さん、みてみて! 落とし穴つくったんだよ! これで狩りしやすくなった?」
「じゃま。それより、自分でおちないように──……」
「秋さーん。狩りが終わってからでいいから、引き上げてくれる?」
「見てきたよ! むこうにいたよ、今回のえもの」
「なにしてた?」
「なんかね、地面にしいたダンボールのうえにすわって、半そでの服で、〝さむいー〟ってふるえてた」
「………」
「それからね、〝おれにカイショーがないばっかりに、よめと子どもにまでめいわくかけて……だめなおとこだおれはー〟って泣いてたよ」
「…………」
「ね、どうする? いつ狩ろっか」
「……かえろっか」
「どこにいくの?」
「ちょっとここにいて」
「? かくしごと? それともお仕事? ぼく、だれにも話したりしないよ!」
「そうじゃない。いいから出てって」
「でも──」
「はやくトイレのドアしめて」
「いたい」
「ねえねえ秋ちゃん」
「なに」
「秋ちゃんは、やさしいよね」
「むだぐちたたいてるひまがあったら、さっさと手をうごかして。今日はいんぺい工作がややこしいんだから、休まずにはたらくこと」
「……秋ちゃんはやさしいけど、きびしいよね」
「雪うるさい」
「うへぇ」
* * * * *
そんなこんなで数週間が経ちました。
毎日のように、朝から晩までいっしょに過ごすようになった秋と雪は、やがて秋が隣にいるのをいやがることもなくなって、すっかりなかよくなりました。
今では雪は秋の仕事を手伝うようになって、秋も遠慮なく、雪に雑用を押しつけていました。
ここ数日はからりと晴れた日が続いていましたが、今日は久しぶりに、ぱらぱらと雪が降っています。
人のいない路地。赤と白で並んで歩く二人は、今日もひと仕事終えてきたところのようです。
「おつかれさま、秋ちゃん」
「おつかれ」
もこもこのマフラーの奥で、秋は寒そうにぶるっと震えて、くちゅんとくしゃみをしました。
「だいじょぶ?」
「だいじょうぶ」
心配そうに、雪がその横顔を覗き込みましたが、秋は気にせず足を進めます。
「ね、秋ちゃん」
「風邪じゃない。ちょっと鼻がむずむずしただけ」
「そうじゃなくて」
雪は何日かぶりに灰色に戻った空を眺めながら、
「あのおじさん、さいごに〝たすけてー〟って言ってたよ」
「そう」
秋は、特別関心もなさそうにそう返しました。
「ぼくは狩らなかったのに、どうしてあのおじさんは狩ったの?」
「雪がとくべつ。ふつうは、狩るのがあたりまえ」
「ふーん」
ちょっぴりおもしろくなさそうに、雪は道ばたに転がっていた石ころを蹴りました。
そして、また細雪の降ってくる灰色の天井を見上げて、呟きます。
「そろそろ、クリスマスだね」
「そういえば、そうね」
さみしい小道には師走半ばの寒さしかありませんが、繁華街にでも行ってみれば、今ごろはクリスマスの飾りや品物でいっぱいのはずです。そこかしこでたくさんの電飾が、ちらちらと明滅しているのが目に浮かびます。
けれど秋は、そんなところには行こうとも思いませんでした。
にぎやかで興奮したああいう空気を、秋はそんなに好きになれなかったのです。
浮かれたというか浮ついたというか、そんなきらきらした世界のなかに入っていくよりも、こうして人通りの少ない小道を歩くほうが、秋にとっては幾分か楽しく感じられました。
隣にいる雪がどう思っているかは、秋の知るところではありません。そこで、
「秋ちゃん、ぼく、クリスマスプレゼントがほしいんだけど」
「?」
不意に、雪がそんな言葉を零しました。
突然なにを言い出したんだ、と言わんばかりに、秋は隣の少年の瞳うをじっと見つめます。
雪は決意を固めるように、すうっと冷たい息を吸い込んで、
「ぼくを、狩ってくれないかな」
「まだ言ってる」
秋は雪と出会ってから、何十回目かのため息をつきました。
深いため息でした。
「言ったでしょ。わたしは、雪を狩るつもりはないの」
「どうして」
「雪がわるい人じゃないから。雪がただのうるさい子どもだから、わたしは雪を狩ることはないの。一生」
「………」
雪は、うつむいて悲しそうな顔になりました。
「どうしても、狩ってくれないの?」
「なんで、わたしに狩られようなんておもうの」
秋は質問に、質問をぶつけてみました。
「………」
雪はしばらく言いよどんだあとで、
「ううん、いい」
そう言って、どこかに走って行ってしまいました。
秋が声をかけようとする間もなく、雪の小さな背中はすぐに見えなくなりました。
秋の頭の上に降り注ぐ雪は、これからもっと強くなりそうです。
今年は久しぶりに、ホワイト・クリスマスが見られるかもしれません。