聞こえない。
なんとなく隣にいる彼女に「---しあわせ?」と聞いてみた
「幸せだよ、どうしたの」と、彼女は自然に笑った
この言葉になぜだか私の胸がチクリと痛んだ。
「いいなー」と、彼女に続いて私も笑って見せる
彼女は「あんたもいい恋しなさい」と笑いながら言って、そして「私は本当に恵まれてるって最近になって思う」と言葉を続け今度は優しく微笑んだ。
「そうだね」と先ほどと変わらない声色で私は返事をして、チクリと胸の痛んだ音は聞こえないふりをする。
見て見ぬふり、聞いて聞かぬふり。こうしたことは得意なほうだと思う、
どうしたって彼女は私の手にはおさまらないということを知っているからだ
なぜ私は男じゃないの?そんな疑問は今よりもっと昔に落としてきた。
どんなに願っても彼女たちはこの手をすりぬけて行ってしまうのだから、それが普通でそれが当たり前。
彼女たちは女で私自身も女である。
顔をあげ前を見ると先ほどまで隣にいたと思っていた彼女との真っ白な後ろ姿がある、さっきまで話していた彼女は昨日のことだったかと物思いにふけている間に目の前の光景はするすると流れていく
彼女の顔にかかった白いベールがあげられる。
おめでとう、と心の中で言ってみると涙が出そうになる
伝えられずにいた気持ちが溢れ出てきそうで怖い、一緒に居るだけでよかったのに気付かぬうちにそれ以上を欲しがってしまう
「おめでとう」言葉にすればなんて簡単な言葉なんだろうか
私の手からすり抜けて行った彼女が幸せそうにしている姿を見て、私は微笑んだ。
お洒落は好き、可愛いものも好き、女友達も男友達もいる、そんな普通な女。
それでも私は彼女に恋をした
普通の恋がしたかった、心も女、好きな人も女
おかしいでしょ?
白に身を包んだ彼女が「ちゃんとブーケ取ってよ?」と私の近くまで来て笑う、
「当たり前じゃん、でなきゃ婚期逃しちゃう」と私も笑った。
もう少しもう少し、この胸の痛みは聞こえないままで居させてほしい
いつまで誤魔化せるんだろう
と思うと同時に彼女が放ったブーケが弧を描き手元に落ちてきた。
最後のブーケは皮肉ってみたのですが伝わったでしょうか。
自分はどうしてあの人じゃないんだろう、どうしてこんななの?等、誰しも思ったことがあると思います、叶わない恋をした時なんかは特に強く願ったりするものではなかろうか、と勝手に想像して書きました。
何かが伝われば幸いでございます。
たま