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KARINA  作者: 和砂
本編
13/51

竜と草原の少女2


 結論からいえば、少女は此処から歩いて3時間程度の場所にある村から、わざわざ水を汲みに来たという事だった。どうやら生まれが特殊であり、さらには目も見えないという事で、村から爪弾きにされている様子である。だからこそ、その細足で苦労してこの場まで来、誰も知らない秘密の池で水を汲んで生活しているという事だった。

 ―――――――――苦労してんのね。

「怪物になってしまった貴女の話ほどじゃないと思うけれど」

 話をしてみれば、彼女は繊細な細い体をしているものの、中身は女系家系の彼女の家族と同じく、図太い、いや芯の強い性格をしていた。目の不自由さの代わりに、村で敬遠される理由である”魔の法”で、人には感じれない様々なモノを視ているという。目が見えないから耳が鍛えられ、ゲームで負けなしという外国人もテレビで見た事があった彼女は、そんなものかしらと少女の言葉に頷いた。

 ようやく彼女の言葉を聞き取る事が出来る人物と会い、正直なところ、彼女は浮かれていた。全く何も知らない、わからない状態で森の中に立っていた時とは違い、少女の知りえる限りの知識が手に入るのだ。話を聞けば、ここには三つの大陸があり、それぞれ、一の大陸には虎が、二の大陸には甲虫が、三の大陸には影と成れる、”上帝”という存在がいるらしい。それらは神の使いとされ、人に害を及ぼす”異形”という存在を追い払っているという。”異形”は、黒いぐにぐにした、影のようなものらしく、これに関しては、前の住処で冒険者の男を襲っていた存在ではないかと、彼女は思った。

 ふと、その男の事が思い出され、彼女は少女に冒険者などのお悔やみの情報を尋ねるが、此処は一の大陸に属するものの二の大陸との続きであり、もっと東側の都の事や、さらに東の田舎の事などわかりはしなかった。都の噂でさえ、下手をすれば半年以上更新されないというから無理な話だ。ただ、あの時彼は瀕死であったが、傍に人が居たのも確か。もしかすれば生きているかもしれないと、彼女は希望を持つ。もし、人の姿に戻れたら、きっとわかりはしないだろうが、あの時、雷を使う魔法使いから庇ってもらった時のお礼が出来るだろうか。

「知り合いがいるの?」

 質問ばかりしていた彼女が急に黙り込んだせいか、少女が尋ねる。少しだけ以前の住処方面、東を拝んでいた彼女だったが、その声に「くるるるぅ」と笑った。知り合いというほど親しいわけではないが、確かに他人と捨てきれはしない存在だ。何とも言えない、恩人のようなものと、彼女は困ったように返事をする。

「そう」

 それほど興味は引かれなかったのか、少女はそう言い、次に彼女に質問してきた。曰く、何処から来たのか、家族は居るのか、今まで何をしていたのか、これからどうするのか、である。何処から来たかは、彼女にも答えようがないので素直にそう言い、帰る方法を探しているので、気になった事があれば教えてほしいと願い、家族構成については簡単に祖父母や両親、兄弟が居ると言えば、竜にも居るのかと驚かれて、元は人だと再度訂正を行う。これまでは帰る方法がわからず、生きるので精一杯で、そうして人間に追われて此処に来たのだと言えば、同じだと笑われた。

 ―――――――――そういえば、人でないとわかっていて、私が怖くなかったの?

「今更ね」

 少し大人びた顔で少女が微笑む。どこか少女らしからぬ様子に、彼女より余程苦労しているなと、ちょっとした脅威まで感じた。ぽつりぽつりと少女が言うには、人であろうとも”異形”であろうとも、どちらでも良かったらしい。

「………どっちでも、良かったの」

 ぽつりと呟かれた言葉の冷たさに、彼女は少女に死ぬつもりがあったのではと考えて恐ろしくなった。どんな村に住み、どんな扱いを受けているというのだろう。沈黙が落ちたそこで、池の魚が跳ねて水音が立った。そういえばと、彼女は少女が持ってきた桶を口に咥えて、器用に水を汲む。一度桶を置いて、少女に声をかけた。

 ―――――――――途中まで送っていくわ。どうせ、しばらくは此処にいるもの。

「本当?」

 僅かに声の上擦った少女に、竜である彼女はどんな顔になっているのか気にしないで笑みを浮かべる。まるで舌なめずりをする猛獣に似た笑みであったが、誰も見ているものはおらず、指摘するものもいない。短い腕で、玩具の様な桶を取り、尻尾の上に少女を座らせて、彼女は東へ、藪を踏んで通る。尻尾部分で少女が振動に歓声を上げているところをみると、少女の子供らしさが見れて喜ばしい。

「貴女、不思議な匂いがするわ」

 尻尾につかまっていた少女が呟き、彼女はぎょっとして足を止める。虎から竜に成って数日程度。そういえば水浴びもしていない。視線を左右に彷徨わせた彼女は、意を決して尋ねた。

 ――――――水浴びしてないの。臭う?

「んーん。……何だろう。花? うぅん、お日様かな」

 ――――――干した布団か…。

 尻尾にしがみつき、ごろごろしている少女を見、彼女は突っ込みを入れるように呟いた。だが、やっと子供らしい動作をする少女に、彼女は苦笑するよう息を吐いて、さらに東の方へ足を向ける。少女の話だと、崖に沿って東に歩けば、途中、ここいらには珍しい大きな木があるのだという。

 ――――――それにしても、靄が晴れないわね…

 「ぐるるぅぅ…」と独り言が漏れ、憂鬱そうに彼女は呟いた。このまま湿った空気にいれば、体に苔でも生えるのではないかと心配する。黄色と黒の縞模様の竜というだけでも笑い話であるのに、それに苔でも生えればますます野生の獣の呈をすることだろう。軽石でも探しておこうと密かに決意する彼女だが、道中でそれらしきものは見つからず、藪を抜けて、崖が途中で切れた場所まで来て立ち止った。不自然に一本立つ木を見つけて、少女に声をかける。

 ――――――此処?

 少女は声をかけられ、ゆっくり尻尾から降りると、木の位置を声で教えるよう言い、案外慣れた風にそこまで歩いてみせた。ぺたぺたと木の表面を撫でて、頷く。

「桶を返して」

 ちょっと見当違いの方向に手を差し出されて、彼女は笑いを堪えながら少女の足元に桶を置いた。とすっと草を倒す桶の音で場所を捉えた少女は、それを両手で持つ。

 ――――――――見えないけれど、村は近く? もう少し持ってあげましょうか。

「うぅん。後ろの崖に切れ目があるでしょう、そこを通れば村なの」

 気がつかなかったので彼女が振り返れば、確かに少女が通れるだけの隙間がある。秘境といった風の村なのかと思うと同時に、そんな閉鎖的な村に帰して大丈夫なのだろうかとの不安が強まった。何とも言えずに唸ると、少女は「大丈夫」と言って笑みを浮かべる。よくよく考えれば彼女も衣食住の問題があることだし、少女を養う事は無理だ。だから、彼女は「そう?」と無理やり自分を納得させて、先ほどの池の方角へ足を向けた。

 ―――――――――それじゃあ、私は戻るわ。またね。

「えぇ。また、ね」

 ドスドスと竜の巨体で足音を響かせながら、一度彼女が少女を振り返ると、少女は木の前に立ち、軽く手を振っていた。何だかくすぐったいなと彼女は笑い、「くるるぅうる」と歌うように、新しい友人に挨拶を送った。


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