表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KARINA  作者: 和砂
本編
1/51

異邦人

何がきっかけか忘れましたが、突発的に思いついた話です。

この熱意が続く限り投稿してみようと思いますが、完結するかは、わかりません。

 例えば、何処ともしれない木立の間に立っていたとして。

 次にやることと言えば、何になるだろうか。


 自分の場合、とりあえず足元を見た。美しくはないものの、機能美に溢れたビニルの草履。足首は細いが、それから上は日常の中見計らって鍛えた筋肉、存外脆い構造の膝、父親譲りの脂肪の付きやすい腿。下半身はどうでも良いジャージに覆われているが、確かに自分の足であると断言できる。ともすれば、場所と同じく自身も何かしら変化があるのではと思ったが、そんな気配はさっぱりだ。

 周囲は穏やかな風と、生々しい植物の青臭い香り。年々降り積もる落ち葉が朝露に濡れ、少し足先に体重をかければ、親指より長い人差し指に湿った感覚があった。ついでに細かな枝がゴミのようにつき、不快に眉を寄せる。上を見上げれば、葉摺れの音と木漏れ日。さっとよぎる影は鳥のようだ。姿は見えないが鳥の囀りは延々途切れることなく、気配など感じたこともない自分でも、森の豊かさや生命感を全身に受けていた。

 そう、昔こそ砂利野原と竹藪のみであり、今では住宅地として立派に発展し、隣町にその景気が移りゆく、落ち着いた歴史のあるご近所では絶対にありえない、たいそう豊かな森の中だ。そんな中、気がつけば適当に着たTシャツとジャージ姿で突っ立っていたとなれば、パニックにならないほうがおかしいだろう。思考が停止したままの自分は、呆然と呟くだけだった。

「どこだよ…」

 幸いにして、慣れない獣道を歩き数時間程度で大きな人口の道に出られた。やわらかいクッション材が入っているはずの草履も街道の凸凹を教えてくるような荒い石畳であろうとも、人の手が入った道、である。開けた場所を予想させる空気の広がりに軽く涙した自分は、道の端、変に窪んだ雨の日の排水路のようなものの傍で、一度座り込んでしまった。脆弱な尻は、荒い削りの石の、狭い凹凸に鈍い痛みを訴えたが、もはやそれどころではない。緊張と急な運動のせいか、足が痺れるように痛む。大きなため息を吐いて見上げた空は、最高のピクニック日和を告げていた。皮肉か。

 右手側は石畳の両側を森が、左手側は一方が草原のようになっている。人の気配はない。石畳を叩く音も感じない。人が居るという事実を確認できただけの場所であったが、それはそれで都合がよかった。まかり間違っても自分の知っている場所のはずなく、常識なども通じない可能性がある。人を見たら泥棒と思えとは言いすぎだが、こんなわけのわからない場所で見知らぬ人間に会うのはごめんだった。だが、人が居ないとするのも、社会性の強い種族なためか、不安だったのだ。

 こんな乱雑な道の作り方、発展した文明とは言い難いだろう。けれども、森の中に道を開いて流通を作るほどには理知的である、と。そんなの自分の乏しい知識では、大陸の中世ぐらいしか思いつかない。住む人間は、野蛮であろうか。定住民は、時に発狂したように残酷な事をする、と何かの本で読んだ。冗談ではない。最低限、何日かは原住民の様子見と、自分の衣食住を確保しなければならないのだ。そんなサバイバル能力など、真面目に会社員をしていた自分には、ない。痺れる足から血が戻る感じを受けながら、乾ききった喉を嚥下した。喉の奥、血の味がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ