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藤原ゴンザレス短編集

悪夢のGW2

間違えて短編で登録しちゃった……まあいいや。後編です。


放火の翌日。

途方に暮れる母。家よりもNHKBSの時代劇の録画を気にする父。

夫に子供を預けてとんぼ返りした姉。手の火傷で病院送りになったI。

そこには何をしたらいいかすらわからない。

そんな空気が立ち込めていました。

消防と警察の聴取が何度も繰り返されます。

念のために入院することになったIのところへも何度も警察の方が来たそうです。

誰が犯人なのか?

先日も東京北区で連続放火があったそうです。

そういう無差別な犯人なのか?

それとも……というほどはミステリー的な展開はありませんでした。

犯人はわかっていたのです。


実は数年前にIの隣家が放火される事件が発生しました。

電話で火事を知らせてくれたあの隣人です。

手口は玄関ドアにサラダ油を撒いて火をつけるというものでした。

当然、食用油ですから容易には燃えません。

そうしてあたふたしているところを発見され現行犯で逮捕された……

という事件です。

その事件の犯人はIの隣家の向かいの家の住人。

当時68歳の初老の男性でした。

犯行動機は男性が65歳のときに起こった火災。

消防署の調査により漏電が原因とされた火災。

それを隣家の住人が火をつけたからだというのです。

殺される前に殺すのだ!

取り押さえられたときもそう彼は叫んでいたそうです。

隣家の住人はその事件以来、家の周りをぐるっと囲む防犯カメラで常に撮影をしていました。

デジタル撮影で5台のハードディスクに1週間分の映像を取り溜められるそうです。

お値段なんと50万円也。

また放火されたらと思うと怖かったのでしょう。

その一台のカメラが撮影した映像がありました。

それは、今回の事件当時に撮影された映像でした。

そこには灯油のポリタンクを持ってIの家に入っていく老人の姿が。

例の家の住人です。

犯人はほぼ確定です。

この映像から警察もすぐに犯人を特定。

任意で聴取しました。


ええ……なぜか任意だったのです。


理由は複数あったようです。

犯人が72歳と高齢で糖尿病の持病があった。

ヤツラに殺される前に殺すんだと意味不明の主張。

3.11の地震もヤツラのせいだと警察署で大暴れ。

どうもぼけているようだと思ったのかもしれません。

ぶっちゃけ警察も関わりたくなかったのです。

明らかにおかしいのですから。


翌日、Iが退院しました。

火傷は思ったほどは酷くなかったようです。

そこに別件ですが、私(藤原ゴンザレス)と共通の知人が死んだという連絡が入り、入院どころではなくなってしまったのです。


※この時点で私には友人の死亡の連絡が入っていませんでした。Iからの電話で知りました。この件については別途の機会に書こうと思ってます。


でも、その日はそれどころではなかったのです……

なにせ焼けた玄関とリビングの掃除があったのです。

Iは悲しさを感じることができなくて逆に良かったと言ってました。

空元気というやつでしょう。


さらに翌日、私が駆けつけました。

私はリビングの掃除要員としてというより法律的なアドバイスのために呼ばれたようです。

ただ法学部を出ただけの私には明らかに荷が勝っていましたが。


質問は多岐にわたりました。


1.放火の量刑の相場は?

2.示談は必ずしなければならないのか?

3.保険手続き

4.行政からの各種補助はあるのか?

5.裁判員裁判ってどうなるの?


私は持ってきたノートPCでグーグル先生で判例などを検索しながらなるべく噛み砕いて質問に答えました。

とは言っても私程度ではそれほどの力にはなれません。


1.最近の地裁判決見たら求刑5年懲役3年執行猶予付きみたい。だけど怪我人出てるし殺意あるし反省してないから、たぶん実刑つくよ。ただ老人だからどう転ぶかわからない。

2.しないと相手が不利になるだけよ。相手がお金を用意できるうちに取ることを選ぶかどうかってとこよ。

3.詳しくないナリ。

4.犯罪被害給付金は重傷以上ね。あの程度の火傷だと無理かと。

5.ぶっちゃけ好きか嫌いか。まあたぶん相手がアレすぎるから犯人の不利なほうに転ぶと思うよ。あえて言えば老人というのが問題かと。


まあこの程度です。

私にできるアドバイスなんてこんなもんです。

二時間ほど相談に乗って私とIは葬儀に間に合わなかった友人宅へ。


Q.二時間の話ってほかに何したの?


どこが落としどころなのか。

それを話し合いました。

少しリアルな話をしましょうか。

糖尿もちの72歳が5年間刑務所にいるということ。

生きて出られる可能性はどれくらいでしょうか?

出てきてから仕返しをする体力が残っているでしょうか?

それと慰謝料込みの賠償金を払ってもらった。

少なく見積もっても1000万円近くの借金を背負います。

それで同じ家に住み続けられるでしょうか?

住み続けられるほどの財産は果たして残っているでしょうか?

なぜそんな話になったのか?

事件後すぐに犯人の親戚から連絡がありました。

内容は示談の申し込み。

なぜこんなに早く来たのだろうとIの両親は不思議がっていました。

それに対しては明確に答えられました。

例えば、勤務先で『親戚が放火して賠償金も払わないぞー!』チラシ撒かれたら破滅じゃん。と。

日本は一見個人主義のように見えますが、犯罪に対しては連帯責任を要求する文化がまだ根強く残っていますから。

別に私はそういう行為を推奨してるわけではありません。

数多くある選択肢の一つを教えただけです。

実際、納得していただけました。

賠償を優先するか?厳罰を望むか?それはこれからの選択です。

どちらかを選んでも、必ず望む結果が出るわけではありません。

不確定要素が多すぎるのです。


さて……結局犯人はどうなったのか?

逮捕されました。

しかし、つい最近の事です。

逮捕されたあとも殺される前に殺そうとしたんだと怒鳴っていたそうです。

ヤツラは悪魔だとも。

某宗教団体の陰謀だとも。

(Iの家族は例のアレではなく、曹洞宗の寺で先祖を供養していて、近くの神社の氏子だったりもしてるくせにクリスマスにはケーキを買う宗教に無頓着な平凡な日本的家庭です)

なんでこんな人間が犯行後も放置されていたのか?

一ヶ月も放置されたのか?

それがこの事件で一番恐ろしいところなのです……


人生の末期を迎え、根拠もなく人を憎むことで結局破滅を招いた。

人を呪わば穴二つ。

よく言ったものです。

最初に掘る穴は自分の墓穴だということでしょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 平穏は当たり前の物では無く、いつか崩れるものなのだと改めて痛感しました。 流石に放火は無いと思いますが、戦時中の歴史資料を収集したりしているので火事だけは人事ではありません。 昔消防関…
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