七百二十日目~
七百二十日目
死刑反対論とかは(今まで散々殺してきた)俺の首絞めるだけなんだが、まぁ俺の首よりサラ子さんの立場ってことで大神官さま(巨乳)のところに言って話してみるけど、そもそも罪人がどうこうって話。精霊融和系の人だけど人に害為す精霊は悪霊扱いだしなぁ。国教にしなくてほんと良かった。
善行を積みゃ徳があがるけど、サラ子さんって実は俺並に徳が低いのよ。つか魂喰いの属性持ってるから大天使さま曰く、業(カルマ、とか、まぁ、悪行ポイントみたいな)ばっか溜まってるってさ。
あー、こりゃ無理か。
休憩時間が終了しそうだったんでいったん謁見の間に戻ることに。
議論と平行して考える。マルチタスクとかホント苦手なんだが、やらにゃならん。
そもサラ子さんって国民からそこそこ人気は高かったわけだ。奴隷系の人たちの世話はあの人だし。人事の大部分を任せてたからあの人のおかげで出世した人多いし。そも国名の人だし。元々から俺に仕えてたし。
だから、まぁ、実質、国の大半を握ってたサラ子さんに対して、俺の腕を喰ったぐらいで死刑論が出てくるのがそもそもおかしいんだよなぁ。うむむ。
つーか、嘆願自体がほとんど無かった。風男君辺りに聞いてみたけど、風男君にもなかったっぽい。あー、そりゃ隠してたから知る人はそんなにいなかったからそりゃないかもしれんが、一切ってことはないはずである。
プラスの意見が出ないのが辛い。というより、なんで俺が決めたことに未だに口を出してくるのか。ほら、漫画とかだと王様が無理言えば苦言のひとつかふたつが出て、大臣が苦い顔して終わりじゃん。なのになぁ、結構日にちが経って、処分も決まってるのに未だに言われるんだぜ。
つか、終わったあとのこともたまに言われるし。近くで使うつもりですかー、とかさ。そら、使うでしょって言ったら苦い顔されたし。命を奪われても構わないのかって聞かれたら、まぁ、頷くしかないっしょ。好きなんだから、つか、遠ざけたところで嫌われてるのはわかってるんだからせめて近くに置いといて、サラ子さんを眺めたいという俺の気持ちを理解してくれないだろうか、とか言うわけにも如何かったが。
まぁ、全てはサラ子さん次第。火竜王国で暮らしたいのがサラ子さんの願いなら。俺はそれを全力で叶えるしかないんだぜ、と。
というわけでサラ子さんに不利になることは全力で却下してかんと。王様失格? いやいや、王様になってよかったって思うのが、強権発動が容易いこと。限界はあるし、国政を疎かにするとサラ子さんに怒られそうだからそんなにできんが、サラ子さんが戻ってきても再びここで暮らせるように力を尽くせるのがいい。下っ端だったら即行サラ子さん10000年ぐらい幽閉か、死刑だからな。
いや、俺が王様だから起きてる問題なんだよなぁ。だったら普通に大量の罰金及び200年ぐらいの幽閉で済んだんだろうが。いや、そもそも俺が被害届け出さなきゃ良いわけだから罪にすらならんだろ。
うっわー、やっぱ王様面倒だ。即座にやめりゃよかったんだよ。うぅー。サラ子さんが戻ってきた即行退位して二人でどっかに引きこもろうかな。風男君に大陸の端の洞窟でも用意してもらったりしてさ。で、魔石一杯用意して、二人でのんびり暮らせればなぁ。
ああ、そういや、サラ子さん、俺のこと嫌いなんじゃん。
はぁ、ままならんなァ。
七百二十一日目
神霊石が届いた。サラ子さんに向かって敬礼って感じで無事を祈ってから昼食を食ってまた議論。大体の骨子は決まってるらしいし、テンプレというか、議論のやり方もわかってきてるからあとはそれを繰り返してさっさと法律を布告するのみである。
予定じゃ今日明日全力で取り組めば終わるから。その後は布告して、で、その数日後ぐらいにサラ子さんについての発表と、神霊石による召喚を執り行う。
その結果とか、それらをやって俺がどれだけサラ子さんに罰を与えたかを公表する。魔王軍の脅威についても天馬王国の智者を少しだけここに連れてきてるから少しは広まってるだろう。
ああ、少しだけ元天馬王国の学者が仕官している。というより反乱軍への参加を断った人たちは行くところがないので王女様(智)の元で働きたい、という結果なんだが。
重鎮の多くがサラ子さん死刑派の現在、中立が全然存在していない。だからこそ、彼らを使って死刑派の影響を薄くするべきなのである。
既に決まってることなのに。どうしてそんなにサラ子さんが嫌なのか。わからん。
休憩時間に岩本さんと会う。サラ子さんについてまた言われた。この人もなぁ、それ以外なら俺に優しいのに。神霊石やら魔王のことで宥めるが、茶番だって言われた。
まぁ、そら茶番ですが、ね。
ただ、また洞窟から始めたっていいんだぞって言われた。それは、まぁ、サラ子さん抜きでってことなんだろう。サラ子さんに火竜王国をくれてやって。俺はこの人とまた国造り、みたいな、そういう意味か。
俺が望んでないのをわかってていってるくせになぁ。卑怯だ。卑怯だが、つまり、まぁ、俺のことを第一に考えてくれてるってことはわかる。わかるし、嬉しいんだが、サラ子さん抜きとか正直勘弁。
それを言ったら、この国を創る前に娘をくれてやりゃよかったって言われた。
岩美ちゃんは現在、ゴーレム研究所で働く美人さんで優秀な技術者だ。たまに会うし、時々はお茶する。器量も良いし、岩本さんが玉のようにかわいがる岩本家の末娘だ。だから、それを俺の結婚相手に薦める岩本さんの気持ちだけはよく伝わった。
しかし、自由恋愛が一番大事だと俺は考えるんで、きっぱり断っといた。まぁ、サラ子さんが戻ってくるまで操を立ててみるのも悪くはない。いや、嫌われてるんだが。そんなのも乙である。
冗談めかして言ったんだが、やっぱ娘をくれてやりゃ良かった、とか言われて話はおしまい。
明日に備えて王女様(智)と遅くまで話した。
サラ子さんの弱みになりそうなものを見逃すのはいかんからな。さすがに全て排除できるわけではないが、弱い影響なら俺の権力で排除できる。
俺、ガンバって感じで王女様(智)とともに頑張ることに。
なにやら熱心に見られてると思ったら王女様(智)が俺のこと見とった。わけわからんけど、まぁ、真面目な娘だよね。この娘もさ。
七百二十二日目
とりあえず腕は完全かね。魔力も完全に通ったし。とか思ったけどやっぱり今日のご飯も石入りなんだぜ。いらねぇって言うと神医辺りが苦い薬を寄越してくるんで黙って食う。いや、慣れただけですが。
王女様(武)が今日は一緒に飯を食うことに。やっぱ今日も説教かねって思ったけど、とりあえず腕のことを話す。サラ子さんについての公表も話す。さすがに事前に話しは通しておくべきでもあるしね。
そんな感じで飯を食ってると、腕について一言いわれて終わる。
説教はなかった。ただ、少しだけ悲しそうな目だか顔だかしとった。
いや、ね、君らを軽んじてるわけじゃないんだぜ。というわけにもいかず。ただ、俺はサラ子さんを好きである、とだけ言っといた。
そんで、まぁ、あれだ。
あなたのことも好きだと、それだけは言っといた。
随分前のような気もするけど、この人と過ごした時間は悪いもんじゃなかった。ただ、めぐり合わせというか、俺が悪かっただけなのだ。
俺が王様じゃなきゃできなかった関係だしなぁ。王様で始まったことが王様で終わる、か。とにもかくにもホントままならんぜ。
今はサラ子さんが大事だから一番に気にかけてるけど。貴方に危機が迫ってるんなら、同じように手を尽くすだろうって言っとく。いや、命まではくれてやれんが、それぐらいは言っとこう。
ああ、無表情で席を立ってしまった。はぁ、嫌われたかねぇ。中途半端だって。
とりあえず、今日で議論とまとめが終わる。明日朝っぱらから布告やね。あとは印刷して各地の街とか村に配らんと。国家法というか、めんどくさいんで王女様(智)の名前付けて布告ってことにしとく。
どっひゃー、やー、疲れた疲れた。
段取りを角少女に指示して俺は執務室に。
サラ子さんサラ子さんどこですかーって待ってた風男君に近況を聞いて、安心しとく。
で、それ何? って風男君に聞いたら魔王領各地に放ったゴーレムが回収してきた魔剣? だと。
あー、いらなくね? とか思ったら魔王の愛剣だって。なんでこんなんあるのって聞くと、魔王の長男が俺だってできるんだぜと魔王に誇示するためにこっそり持ち出したんだと。子供の精一杯ないたずらやね。で、それをうちのゴーレムが強奪したんだって。
ちなみにゴーレムに破壊された奴はいないって。少数の部隊に奇襲を掛けて、その後増援が来る前に逃げたんだと。機密保持最優先だから、そんなもんなんだと。
はぁ、って頷いて禍々しい剣を受け取った。うげぇ、なにこれ、気持ち悪いなぁって思ったけど、いい機会なのでこっちで確保しておこう。
そういや魔王の長男は? って聞いたらミンチだって。あー、南無です。
七百二十三日目
で、法を布告しておきました。適当に君の名前付けといたよって王女様(智)に言っとく。賢いお姫様とか言われてるから俺の名前よりありがたいでしょ。とか思ってたらぽろって涙流してんの。あくびでもしたかね。まぁどうでもいいです。とりあえず皆で一杯話し合ったし。ちょっと近代っぽいから最初はみんな戸惑うと思うけど、これをベースに今後は法律が作られてくそうです。
まぁ、今のところは法全書を各部族に無料配布してるし、学舎の法学の教材の一部に指定したから、なんとかなるでしょう。孔明(偽)が涙を流して肩を落としてたけど問題なし、にしとこう。
で、俺は三日後のサラ子さんについて考えんと。とりあえず公表後に神霊石のデモンストレーション。使い道はないけど厨様が説得したというか、こっちに来てもよいとの返事を貰ったので問題はない。神殿やら住居とかももう作ってるしな。契約金(高級・高純度魔石)も用意してある。
魔王軍に対する戦時同盟みたいのも隣国中心にできている。風男君の店でうちの五世代ぐらい前(精霊鍛えの鋼鉄の武具)の武具を隣国に納品してもらってる。武器庫に埃被ってた奴だし問題あるまい。あと古い魔具(鋼鉄の剣と同じ程度のレアリティ)も優先的に流してもらってる。とりあえずそこそこの儲けにはなってるけど、本来の目的は人間の戦力をあげること。人材も元神聖王国や精霊王国、魔導王国の人間を優先的に確保(火竜王国がやってるってバラさずに)して海洋王国の新会社のついでに発足させた傭兵集団に流している。こいつらのトップには魔王軍に家族を皆殺された薄幸の元王子(どっかの小国)を使っている。旧家臣もあんまり残ってないけど参謀とかに送っといた。というか、風男君がやってる質屋に質を持ってくるのは大概がそういう連中なので捕捉が楽で助かります。どっかで山賊やってる連中もいるけど、元王族とかを捕獲して、適当に儲け話を吹き込んだり、仇が魔王軍だとか流言ながすだけで敵対行動とってくれるし。時々まだ残ってる小国に義勇兵として入ってくれるしなー。
ううむうむうむ。いい感じです。
七百二十四日目
っシャー!! フィッシュー!! グッドだ。よくやった風男君。
褒めとく。すげぇ褒めとく。いやぁ、てへへ、みたいな顔は初めて見たかも。で、風男君はそのままに、王女様(智)を呼ぶ。
すごい素早さで来た。隣に控えてたのかはわからんけど、ベル(俺の部屋は基本防音。鳴らすと秘書室のが鳴って誰か来る)鳴らしたら静かに素早くやってきた。秘書の鏡ですな。
で、天馬王国の王子が見つかったから、そっち行かないか? って聞いてみる。風男君がすごい驚いてるけど、理由が俺の個人的なもの(仕事が増える)だから言わない。とりあえずどーよ? と聞いてみる。
で、こっちの内情も晒してやる。どーせ記憶は飛ばすし問題ない問題ない。
で、現在魔王領内の天馬王国残党に支援中。奴隷として売られている元兵士・元騎士・元魔術師・元神官・元文官などなどを積極的に大陸各地で保護し、送っている(金? 風男君が大丈夫って言ってるから大丈夫でしょう。いや、国家予算も余ってるし。金がないならないで、最悪、奴隷商人を暗殺するから問題なし)。また資金・食料・武器なども支援中、と。
王子様も一番勢力の大きい集団に送ったから行ってもいいんだぜ。とにこにこ笑顔で聞く。
復讐ちゃんだぜ。この子。行くに決まってんでしょ。わはははは。
なんて楽観視してたときもありました。
い、いかない? ……って、え、行かないの? 家族だよ? 敵は魔王だよ? ほら、復讐とか。家族愛とか。領民とか。いろいろあるじゃん行く理由。
陛下はお優しいですねって、ちげーよ。ぜんっぜんちげーよ。お前は邪魔なんだよ。俺がのんびりしたりサラ子さん支援したりするのによぉー。ちょ、風男君からも言ってやってくれよ。行けって。行った方がいいって。
何故行かないのですか、って理由はどーでもいいんだよ。どーでもいいんです。いらないの!! 俺には優秀すぎる部下はいらねーの。風男君も優秀だけどなんかこの女はベクトルがちげーの!!
とか言うわけにもいかず。俺も青筋は隠して黙って聞くことに。
えー、自分が未来を見てないことに云々。(国民を守ること。他国を侵さないこと。慢心せずに仕事に励む。部下の能力を最大限に引き出す。あー、俺には難しい言葉だったので理解できなかった)陛下に感服した云々、とか。
俺に感服ってことは、えっとゴロ寝教に入信希望ですか?
なんてくだらないことが言えねぇ。風男君もうんうんって頷いてないで。頼むから。こいつを、どこかに……。
なんて思ったこともありました。
いや、何がどう転んだかわからないんだけどさ。
王女様(智)が風男君と組んで大陸各地の内乱に裏から支援とかそういうのの指示を出してくれる、とな。
えっと。あれ。俺の仕事、というか。サラ子さん支援を俺より賢い人がやってくれるわけですか?
殺しすぎても、やりすぎてもいけないんだぜ? あくまで、人間側の国家主導で勝たせなくちゃいけないんだぜ? わかるか? なんて聞くと。頷いてくれた。もちろんって。
つまるところ、火竜王国が支援していることを人間諸国に理解させずに、また火竜王国が暗躍していることを魔王に理解させずに、絶妙な力加減で魔王を倒すべし、ですね、と。
お、おおおお、すげー。
なんか軽く考えただけで100以上の策が出たって。すげー。
うちの軍を使っちゃいけないんだぜ。うちの連中に戦争に加担させちゃいけないんだぜ。
わかってます、だって。
おー。王女様(智)、あんたって娘は、あんたって娘はー。
雇ってよかったって初めて思った。
で、サラ子さんに苦労かけずにすむぜーって思ったら涙出てきちゃって。王女様(智)を抱きしめてた。
わぁい。パワハラですねって思った。こういうのするから部下に嫌われるんだよなぁ。
あと、風男君。なんか俺の智謀に云々とか目線で言ってるけど、こいつ巻き込めたのは偶然の産物、なんだぜ?
七百二十五日目
まぁ、とりあえず内乱というか魔王軍への対処は王女様(智)に任せておく。なんか感激しちゃって、風男君を直で使えるようにと、諜報の族長への紹介も終えた。あの娘にも独自に予算を扱える(でかい場合は俺に報告する必要はあるが)ようにしたから、とにかく魔王問題にはあまり対処せずにすむだろう。
そういや、これだけ支援してもまだ魔王軍とは互角なんだよなぁ。ううむ、あとは何ができたかね。サラ子さんが全部の神霊石を集め終わるぐらいころには魔王軍の勢力がいっぱいいっぱいだといいんだが。
そのころには人類連合の支援を控えめにして、えっと、うーむ。サラ子さんの介入時期がなぁ。戦場でこっそりってのかなぁ。それとも仕官して正面からざっくりなんだろうか。ううむ。わからん。
もしあれだったら資源調査用のゴーレムをこっそり渡すってのも。あー、サラ子さんが断るか。ううん、どうしよう。
ああ、違う違う。とにかく、魔王軍を弱体化させる方法なんだが。なにかあったかな。
あ、角少女だ。そういや、こいつも魔王の種もらって生まれたんよね。
じー、って見てたらなんじゃと爺言葉で言われたので、適当な部屋に連れ込んでみる。
いろいろ聞かれたけど無視して弄くることに。弱点? 弱点~? ねぇよなぁ。
暴れそうになったけどゴーレム腕はマゾくだかM族だかのパワーより優秀なのだよ。ワッハッハ。
色っぽい目で見られた……。あれ? この雰囲気って、やばくね?
気づいたらお互い裸で、いちゃいちゃしてた。あれ? ちょ、俺なにやってんの!!
ナニですよねー。て冷静に突っ込んでしまう俺。サラ子さん俺を守ってくれ、とか心で叫んでみたけど、そういや俺嫌われてたんじゃん。ガックシ。
つか、最近徹夜多いし、仕事忙しかったから、抜いてないし魔が差したのかねぇ。
ぼけーっとピロートークしてみた。あ、一応、情報ゲット。魔王軍を弱体化させたいなら、とりあえず魔王領内の井戸に聖水流せばいいって言われたよ。
あー、精巣(そう聞こえた)ですか。ちょん切れですか。わかります。
聖水だー、って耳引っ張られてやっと理解。あと、自分はいいが、衛兵に捕まるので他の女官にはやるなって言われた。
そら、お前以外に(弱点探り)しねぇよって言っとく。そっか、身分の差が比較的ないから強姦したら王様でも捕まるよな。こいつが寛大でよかったぁ。
安心してちょっといちゃいちゃ。
あ、角って性感帯だったんやね。って、言ったら噛みつかれた。マジ痛いです。
七百二十六日目
うー、ラブい相手がいるのに性欲の権化になってしまった己に罪悪感。いや、浮気は男の甲斐性。ラブと性欲は直結? いやいや、ラブいから性欲があるってことにすれば問題が……あるか。
まぁ、角少女も許してくれたし。問題は……あるんだよなぁ。
そんなことを考えながらサラ子さんのやったことを国民に向かって怒鳴りつける。
びりびりと、俺の怒りが伝わるように。だけど感染はしないように細心の注意を込めて。俺に恐怖を持ってもらえるように。暴政。うん、暴政が一番だ。この人に逆らってはいけない。そう思わせるように言葉を叩きつける。
サラ子さんへの怒りではなく、サラ子さんを哀れんでもらえるように。俺がどれだけ逆らうものに容赦がないのかを伝える。
愚かなサラマンドラは俺に逆らった。民を哀れみ、暴政を敷かんとする俺の腕を持っていった。だが、奴は捕らえた。民よ。逆らうな。俺に従え、と。
そんなことをありもしない怒りと共に告げていく。
そうして、告げる。サラ子さんに何を課したのかを。サラ子さんに与えた罰を。
魔王討伐。
軍は何もサポートしない。国家は何も援助しない。サラマンドラは二度と戻ってこないだろう、と。戻ってくるのは魔王を殺したときのみだろう、と。
静かに、激しく告げた。
国民の顔に哀れみを見つけ。頷く。成果は出た。悪政だが、これでサラ子さんを受け入れてもらえる。サラ子さんは帰ってくれば民のために偉業を達成した英雄となるだろう。
くくく、くはは、ははは、はははははは!!!!
大声で嗤う。嗤いながら神霊石を持ってくる。サラ子さんに課した更なる重罰を教えるために。
そうして、召喚を終え、風の神霊なる美人な精霊を国民の前で召喚し。契約し。宴席を設けて、歓迎の宴を開いた。
これで、国民はサラ子さんへの罰が重過ぎると思ってくれたはずだ。頼むぞホント。
俺は久しぶりに寝室へと、戻った。そういえば、もう今日から石の混じった食事もなくなったらしい、な。
それは、まぁ、よかったよ。存分に吐ける。
ゲボゲボとトイレで吐き、よろよろとベッドにもたれかかる。そら、辛いわ。サラ子さんの悪口とか、正直勘弁だ。
だが、国民に怒りとかもきちんと発せた。感情の読める精霊さんにもきちんと伝わったはずだ。俺の怒りが。ただ、主に自分へ向けたもんだったが。心理は複雑だから問題ないだろう。
だるい身体を持ち上げて、椅子に座る。酒やらに逃げるわけにもいかんか、これは。
つか、そっか、昨日の角少女とのアレは、逃げだったか……。
あまりの無様さに額を押さえてしまう。そっか、逃げか。あー、情けねぇ。サラ子さんに悪口言う演説が我慢できなかったってことかよ。つか、角少女に見透かされてたんかよ。
あー。情けねぇ。情けねぇ。なんて言ってる場合もなく。あらかじめ運んでおいた書類を片付ける。どうせ今日は仕事にならんとか思ってたけど、少しでも進めとかんと。サラ子さんが帰ってくるまでに、こんなんきっと何度かあるから、そのたびに落ち込むとかできねぇし。
捨てられない重荷、か。
そんなことを呟いて、ちょっとだけ仕事をして。それで、それが来た。
王女様(智)か。あー、あー、なんだ、俺が色恋でやってるってばれたかね。だが、こんなん退ける問題じゃない。だから反乱軍いけって言ったんだよなぁ。
なんだ?って聞いとく。で、仕事する振りをする。
ちょっと黙った王女様(智)は、サラ子さんについて聞いてくる。大事な人なのかって。だから、愛してることとか、俺の命をくれてやってもいいってことだけ伝える。
対魔王戦略についても聞かれる。で、正直に伝えた。もともと関わるつもりもなかったこと。サラ子さんが戻ってくるときに都合の良いやり方がそれしか思いつかなかったこと。魔王に対してサポートしてることとかが国民に内緒なのもそれなのだと。もちろん、この国が他国にばれないってのもあった。
だが、第一はサラ子さんだった。だからそれだけわかってもらえばいい。
それで、改めて聞く。俺についてくるかを。
もちろん、騙したことは謝らない。騙された方が悪い、とか今更だが言う。その上で、言った。俺についてくるのかを。
もちろん、サラ子さんのために働け、とは言わない。そこまで俺は傲慢になれない。だから、俺のために働けるかだけ聞く。俺のために? 俺のためにだと!? あっははは、いや、そんな思考が簡単にでてくるとは思わなかった。だけど、今の俺には、この国で唯一サラ子さんを護れる俺には、それが必要だった。
あ? 必要だから? 必要だからか? それでは、それでは、あの洞窟の中でサラ子さんを呼び出したときと一緒じゃねぇか? 必要だからあの人を呼び出して。そうして苦しませてしまった。あの、優しい人を。
ぐきり、と歯が鳴った。だけど、心の動きを捻り潰して立ち上がる。そうして、王女様(智)を抱き寄せた。
ついてくるか、と聞く。いや、ついてこい、と告げる。俺のために働け、と。罪だとか罰だとかは全部背負ってやる。こっちにあるかわからんが地獄にも堕ちてやる。だから、お前の命を俺のために使えと告げる。
もちろん、断られたら断られたら、だ。こんなんで俺に傾く確信なんぞもない。だから、正直なところだけを伝えたのだ。
俺に仕えろと。魔王は殺す。望むなら天馬王国の復興もやってやる。そして、お前がこれから殺すことになる全てもおっ被ってやるとも。だから、俺のためにその知性を使え、と。それらの全てを込めた言葉を。
そうして、暴力で蹂躙した。あー、正直……強姦、だな。そうして、抵抗する間を与えることなく性欲の全てをぶつけていく。唇を合わせ、胸を揉みしだき、性器をぶつけ、抱き寄せた。
何か言っていた気もする。でも聞かなかった。俺には、俺は、……どうすりゃいいかわからない。
サラ子さん、俺の腕は、あなたの力になってるんだろうか。あなたが俺を嫌った理由が少し自覚できた。でも、こんな、弱さ、とか、辛さに耐えれない心、とか。もう、俺の本性じゃねぇかよ。
治せないものを嫌われてるってのは……辛い、なぁ。
俺の隣で眠る王女様(智)の頬に涙が流れてた。怖くなって逃げ出したくなって。でも、逃げ出す先なんてないことに気づいて。俺は小さく呟く。
サラ子さん、と。
眠る王女様(智)をベッドに残し、王城の中を歩く。歪みやら弱さやらもぶつけたせいか、演説直後より身体の動きはいい。そうして、ふらふらと歩いた先、城下街が見渡せるテラスで、王女様(武)が待っていた。
彼女は、いつか、どこかで会ったときと同じ顔をしていた。寂しさの同居した笑顔。そして、俺の有様を見て、少しだけ驚いた顔をする。性臭にでも気づいたのだろうか。
己を嘲るための笑みが浮かびそうになるのを堪える。こんなもの見せても意味がない。俺が揺れて、こいつに弱みを見せてみろ。玉座から、落とされ、ああ、くそ、今更か、今更王権に固執かよ。ああ、無様だ。俺はいつからこんなになった。
昔の軽さ。いや、数ヶ月も前だ。軽かったのは。だから持ちたくなかったんだ。糞ッ。
王女様(武)の対面に座る。座り、言われた。随分堪えてるぞ、と。だからまぁ、そんなもんだ、と言っておく。
そうして、サラ子さんについて、やっぱり言われた。英雄にしたてあげたところで罪人には変わらない。以前と同じ立場には立てない、とも。
そんなことはわかってる。公職には就けないだろう。だが、俺の隣に立たせることはできる。いや、する! してみせる!! それだけを少しの焦りと共に告げた。……参ってるな。声を荒げるとか、俺のキャラじゃねぇし。
頭を冷やす。ビークールビークール。ああああああ、無理、ちょっと無理だな。たぶん死に掛けてる目で王女様(武)の話を聞く。
曰く、王の傍に罪人が立つのはいけないみたいな話を長々と。だから返す。そんなんで説得されるぐらいなら元々こんなんなってないと。そうだな、と苦笑いで言われ、そんで少しだけ、真面目にぽつぽつと二人で話し合う。
だからか。どうしてサラ子さんにそんなに固執してるかを聞かれたときに、俺の、出生というか、この世界の人間ではないという話を、まるで冗句のように、いや、悪い冗談、笑い話のように俺は語っていた。
やっぱり、俺には、この人を疑って暮らしてくことができなかったのだ。ただ、泣かせてくれたこの人を思えば、もうぶちまけちまいたかったのだ。
そうして、サラ子さんのために働いていたら、いつのまにか国ができていたことを、静かに語っていた。
その上で、王位も、サラ子さんの問題について片付いたらくれてやってもいいと伝える。俺が王様じゃあ、この国の人はゆっくり暮らせないだろうから。
哀れむような顔で俺を見る彼女は、そうして俺はどうするのか、と聞いてきた。俺は、ただ、ゆっくりとこの世界を見て廻るのもいい、とだけ伝えておいた。どうせ戦乱の世だろうが、風男君の店にでも厄介になりつつ、適当に彷徨って生きる、と。言ってみると、そこそこ面白いかもしれない。いや、いいかもな。サラ子さんも、英雄となって帰ってくれば国民が護ってくれる。ああ、適当に街を任せてみるのもいいかもしれない。そのときには俺はもういないけど、きっと国民想いの良い領主になってくれる。国民も彼女が領主なら、きっと幸せになれるだろう。
そしたら、内緒でってことでその街で暮らしてみるのもいいかもしれないなぁ、なんて考えていると。ぽつり、と王女様(武)が何かを言った。
その旅に、一緒についていっても構わないか、と。
だから、笑って、じゃあ、誰が王様をするんだって突っ込んどいた。そんで、まぁ、民主制もな。王族や、王様が大事ならやらなくてもいい、とだけ告げて、俺は部屋へと戻ることにする。
あー。うん。喋ったらすっきりしたわ。やっぱり、そうだな、みんな敵じゃないんだから、そんなに構える必要はなかったっぽいねぇ。
最後の寂しそうな表情があれだったが、まぁ、初めての男に対する微かな愛情だと思えば心地も良い。
で、俺は寝室に戻って後悔する、と。あー、先に王女様(武)に会っときゃよかった、みたいな。
七百二十七日目
意外や意外。王女様(智)は俺に仕えると言ってくれた。いや、さすがに振られるっつぅか軽蔑される、とか思ってたから、冗談じゃねぇのとか疑いつつ。少しだけ話をして、彼女が俺に仕えてくれることを確信する。
人を見る目がない俺だけれど、王女様(智)の性格、というか性質はそこそこの付き合いで把握している(つか、美人さん(貧乳)の人物評は確かである) 。王女様(智)の性質は餓狼だ。一度嫌えば二度と懐かない。こうしてここにいることが忠誠の証明なんだろう。
この娘の魔王軍への攻勢を見て、納得しただけである。徹底的な攻撃。執拗な殲滅。弱所を見つければそこに戦力を集中するよう誘導。人間諸国でもほとんどの国が対魔王戦へと誘導され始めている。俺が、彼女に手綱を渡して未だ二日程度の日にちでだ。それだけ彼女の怒りがでかい、いや、性質が攻撃に優れていたのかもしれないが。
だからこの娘が俺の力に対して屈服しただけならば俺は今この瞬間にも彼女のミンチか、俺の死体を見なければならないはずである。
俺の目の前で、膝をつき、俺個人に仕えると、火竜王国の王ではなく、俺自身に仕えると語ってくれた少女は、それだけ誇り高いはずだった。
そうして、俺は初めて、俺個人の部下というものを手に入れる。風男君は友達だしね。
信頼の証、というわけではないが、こっちの素性も早々にバラしてしまう。信頼できると確信しているなら話しても構わない。いや、隠す必要すらない情報。そうして、何故俺がサラ子さんに固執してるかもこれでわかるはずだろう。
俺が、この世界に来て、何もわからないときに支えてくれた人。その人の幸福のためならば、命ぐらいくれてやってもいいと思える。その感情が。
もちろん、それ以外でくれてやれるほど俺は情に篤くはない。こっちで生きるって決めたんだ。だから、俺の命は、そんなに軽いもんじゃない、と。
それを伝えて俺と王女様(智)は政務に戻った。
七百四十日目
そこそこ日にちを飛ばしておく。というか、政務政務政務政務政務政務政務と気持ち悪くなるほど新法の影響で忙しい。具体的には裁く方が未だ法律覚えてないんで仕事がちょっとだけ滞り始めているだけであるが。
俺も時々現場に直接行ったりしたりもするが基本的に召喚が復活したのでそっちをやらなあかん。つか、なんか魔力が調子いいんだよなぁ、とか思って聞いてみるんだけどサポート役の精霊さんとかわたしゃ知りませんよーって感じで別の方向見てるし。たまに会う厨さまとかはどうでもよさげに対応してるし。あん? 魔力攻撃完全無効? あらゆる属性の高純度精霊石を毎食の食事に混ぜた? わけがわからない。いつ俺の身体を改造しろっつったんだよ!! とか叫んでみるけど柳に風、糠に釘です。
あー、俺が攻撃許すのなんざサラ子さんだけなんだからそんなん無用の心配だっつぅのー。
なんて言えるわけもなく、はいはいそーですねわかりました改造人間ですねイーッ!ですねーってやる気なさげに呟いてから召喚に戻った。
いや、これでもショック受けてるんだが、まぁ、召喚が以前より早くなったからまぁいっか、ということにしておく。
七百四十五日目
とりあえず隣国があらかた諸国を飲み込んで現在勇者を前面に立てながら魔王軍と戦闘中です。魔王軍もあらかた諸国を食った後。残ってんのってホントに隅っこにある海洋王国ぐらいじゃね、とか思いつつ。支援支援です。
魔王領の井戸という井戸、水源という水源に聖水をぶちまけてあるし。戦場の水源にも聖水を混ぜている。高位の魔族というか、魔物どもは腹を下すぐらいであり、魔王なんざケロリとして平気そうである。しかし、まぁ、人類も一戦で魔王を倒せるとは思っていない。だから今回は配下を徐々に削ってるらしいです。っつぅのが三日前の報告。
今回は、えっと、負けた? 負けたんですか? 人間が?
糞ッ、役立たずどもめって罵ってみるけど。王女様(智)と風男君が敗因を教えてくれた。
えっと、はい? うちの国? 火竜王国が精霊を大量に保有、というか、国民にしてるから?
えー、もともと自力の低い人間さんは、精霊魔法やら精霊を使役することによって魔物とか魔族とか、幻獣とか、そういう怖い生き物との戦闘力の差を埋めてたんですって……。あー、俺のせいですか。そうですか。
でも、まぁ、俺だって、普通に魔物ぶっ殺してたし、人間だって鍛えりゃなんとかなるんじゃね?
ならない? 俺の身体が優秀だっただけ……。あー、はいはい。そうですか。
って、どうすんの? え、だって魔物側ってすげぇ体調不良で、人間側はなるべく絶好調だべ? そんなんで負けてるのに差が埋まるの?
って聞いてみたけど。あー、お手上げ侍すか、そうすか。って、ほんと、どーすんでしょ。
ゴーレムだって、魔王軍にバレずに運用できるのが今の限界数だぜ。これ以上はサイレントキリングできねぇのよ。ばれるのよ。どっかででっかい軍が動いてるとかさー。今なら、まぁ、人間側のちょっと強い特殊部隊ぐらいに考えてくれてるけど、今以上の戦果あげちゃうととにかくあれだ。なんか怪しい奴らがいる。え、どこなん? あっちが超怪しいぜ? 無視できないから調査すっぺ、とか言われちゃうんだぜ。あー、どないしょ。
ちなみに、今はもう隣国の部隊は国境に来ていない。難民とかはたまに来るけど、ミンチはもう哀れすぎてあれだったんで、転移トラップしかけてあって、大陸の端に飛ばされるようになってる。もちろん、そこそこモンスター的なあれで危険だけど、人間勢力が広まってない、らしいから開拓し放題だよ。正確な場所を決めたわけじゃないんでよくわからんけどね。
うーん。魔王軍の主力武器って、鉄だったよな。あと己の肉体とかあふれ出る魔力とか。
んじゃ、ちょっと地脈を操作して魔力場を短期でいいから狂わせて、魔王軍の武器をさびさせてみれば……。あー、できるけど、だめなんよね。やったら、いけない。大陸のバランスが狂うっつぅか。精霊さんは基本戦争不参加だしなぁ。
うーん。どうすっかねぇ。
とりあえず今日はおしまい。数日の猶予はあるのでその間に適当に考えてくれって言われた。