七百日目~
七百日目
風男君から報告を受ける。
魔王は真面目に内政をしていないらしい。徴税は村が滅ぶまで、徴兵は街が滅ぶまで。欲しいものがあれば国を攻め滅ぼし。美女がいると聞けば国を攻め滅ぼす。そんな感じなんで大陸ではすげぇ忌避されている、と。
もちろん、大陸中に恐怖が知られているから人間にとって魔王に唯一対抗できる加護だか付与だか血筋だかのある勇者ってのは人類共通の幻想だか信仰らしいんだと。
ふーん、と聞きながら俺は国民への発表を考える。もちろん、大神官さま(巨乳)は罪人であるサラ子さんに対してバックアップというか、後押しはしてくれないだろう。俺の名前だけになってしまうが、やらないよりマシだ。
うむうむ頷いていると風男君になんでそんなに熱心なのかって聞かれたから言っておいた。
愛だからさ、ってね。
呆れられた。で、風男君にあーんって飯食わせてもらった。畜生ふぁっく男だよがっでむ。
七百一日目
元天馬王国の国民で奴隷になっていた連中。それも低年齢だけではなく、そこそこ大人も買い取るように指示。なるべく吟遊詩人とか芸術家とかそういった連中。
内政がしっかりしてきてるし、ネームガードもきっちりしてるが、滅んだばっかの国の魔術師は怖いし。騎士とかもいらない。政治家? いや、教育が出来てきてるからもっといらんわ。とにかく魔王に蹂躙された国の奴隷を買い取って、いずれサラ子さんが魔王退治してきたときの布石を打っとかんと。
ちょっと角少女が露骨じゃよーって突っ込んできたけど口笛吹いて誤魔化した。
あ、まだ腕が完全ではないので召喚はできません。神医に止められましたー。
とか思ってたら飯に変な石が混ざってきた。神医が食えって言ったから食ったけど。これなに?
七百二日目
魔王領内の反魔王勢力にミスリル製の武具を流す。もちろん対魔王属性はなし。こっちにあるとか知られたらいかんからな。ミスリルだけでも強力だし。うちじゃ三世代ぐらい前の兵器だから問題ないよねってことで倉庫に余ってた奴をどんどん送ってく。ついでに食料も。で、やっぱり買うことに決めた元騎士の奴隷とか元魔術師の奴隷とかも送っていく。
財政は俺と風男君管理です。ついでに風男君が安く買い叩いてるんで問題ないっしょ。わはははは。全身ミスリル部隊がんばれー。
で、今日も石の混じった飯を食う。ねぇ、毒っぽくないし。神医が言うから食ってるけどなんなの? ねぇ、なんなのこれ?
七百三日目
サラ子さんがいなくなったために秘書課は角少女中心。でも人材が足りんってことですな。ううむ、唸っててもしょうがない。どうにかしなければ。
とか考えてたらなんかついでだからと勇者奪取のときについでに捕まえた元天馬王国の王女様が送られてきた。なにこれって思ったけど好きでしょ? 美形王女って風男君に言われると否定できん。
うむむむって唸ったけど思想は過激でないし。今なら亡国したばっかだから忠誠値上げやすいって言われた。
俺ってそこまで外道じゃないと思うのよ。
あ、今日も飯に石が混じってて首を傾げた。ついでに一緒に王女様と飯を食ったけど彼女のには入ってないっぽい。神医にいいから食えって言われて首を傾げながら食った。たぶん、薬だよなぁ。
七百四日目
天馬王国は智の王国、なんて言われる国なんだと。非常にどうでも良かったけど王女様(天馬)が感慨深そうに俺の隣で言ってます。内心じゃあ次はどの手を打とうかって考え込んでるけどマルチタスクができんのでちょっと対応が雑かもしれん。ううむ、サラ子さんは今何をしてるんだろうかっと思いつつ。王女様(天馬)に街を案内。ついでに(前よりパワフルかつ肌の艶が良いので)かっこよくなった俺の両腕を国民に見せびらかす。
わははは。どうだ。かっこいいべさ、と内心高笑いしながら町並みを案内して、建国の理念とか説明すんだけどちょっと柳に風っぽい。聞いてないってわけじゃないんだが反応が鈍い。
でも、風男君が言うにはこの人は、天馬王国でも賢人だか賢い姫だか称えられてるっぽいのでぜひ勧誘しろってさ。で、どうだろう、うちで働いてくれないか、なんていうんだけど。反応はよろこばしくない。だめっぽいよこれ。
つか、なんか、すげぇ冷たい顔っつぅか。この前のサラ子さんっぽい。
で、えっと、駄目なの! いいの! どっちなの! って思ったけど、じぃっとこっちも見てやった。で、なぜか怒られた。
えー。これだけの国力をもってるなら対魔王戦に援軍の一人もなんで送ってこなかったのか、とかそういうのを。なんか婉曲かつ面倒な表現で罵倒されつつ。食料でも、武器でも、なんでもいいから送ってほしかったって。
あー、でもさぁ、直接的な被害を喰らってたわけでもねぇし。つか生かしてたからこそ、魔王くんが今役にたってるっていうか、とかいうわけにもいかんから他国より自国の安全をとって何が悪いって意味の言葉をこっちは直接言ってやる。つーか、実は拮抗して貰わないと困るから天馬王国へはちゃんと食料を格安で売ってたんだぜ。お前ら飯に困ったことなかったべさ。なんて、言ってやる必要もないっつぅか。把握してたらすげぇよなぁ。でも把握してない人間を雇ってもなぁと今度はぐらぐらと揺らぎます。正直、雇いたくないっつぅか。いや、たぶん国が滅んだばっかに戦の兆しすら感じられない町並みを見せられて動揺してるだけだと思うんだが。ううむ。
で、今度は魔王の危険性を切々と説かれる。危険だの、凶暴だの、いつかはここに来るだのなんだの。さっさと討伐のための軍をおこせ。隣国とともに手を携えろだのなんだの。
うががががががが。うるっせぇーーーーーーーーー!!!!
簡単に軍をおこせたら問題ねぇっつーの!! 魔王なんざ三日で殺せるんだよアマァ!! なんのために、なんのためにわざわざサラ子さんを、サラ子さんをぉぉぉおお!!
なんて、怒りを吐き出すのは簡単だが、内心のみに収める。ちょっとサラ子さんが心配で涙が零れたけど、流れるままに。つか怒りとか吐き出してぶつけたところで意味無し意味無し。とりあえず対外的な言葉で誤魔化すべ。なんかあんまりこの人には興味ないし。
えー、魔王を圧倒的な軍でぶっ殺したら次に恐れられるのはわが国である、と。つーか、正直なところせっかくこの国ばれてねぇんだし。魔王を倒した後にある空白期に国民を人間同士の争いに突っ込ませるのは本意ではない、と。
建前です。仕事が増えるのを嫌った俺の建前です。軍が動かせないのは、軍を使ってサラ子さん援護した結果、サラ子さんが認められなくなる、という本末転倒な事態が起こるのを嫌ったとかそういう理由があるので、彼女に語ったのは八割以上建前です。
ほら、呆れて黙ってるし。魔王を倒した後の国民のことまで云々とかわけわからんこと言ってるしさぁ。俺頭悪いんだからやめてくれ、知的な話は。
とりあえずここ数日の記憶をすっ飛ばして、この人には隣国に行ってもらおう、と思ったんだがなんか非常に焦った、というか、さっきと違って人間的な表情で妙なことを聞かれる。
魔王を殺せるのか、って。だから全軍使えば三日で殺せるよって答えた。で、ならどうして使わないのか、って聞かれるから。国民を魔王を倒した後の戦乱に巻き込むわけにはいかんでしょって本音っぽい建前を。つか何のために引きこもってると思ってるんだか。
で、なら魔王は放っておくのかって聞かれたから、そんなこともないよって答えた。魔王に対抗できる天馬王国が滅んでしまったからうちから一人、優秀な戦士(サラ子さんが厨様以上かもしれない存在ってのは、まぁ、聞きたくもなかったけど本人の口から微妙に聞いてはいるんだが、結局最後まで正体については話させなかった。いや、サラ子さんが話さない以上は俺が無理やり知っていいことじゃないべ。サラ子さんはサラ子さんだからぶっちゃけ何者だろうがどうでもいいし)を送り出してる。ついでに反魔王組織に援助してるし。天馬王国の騎士やら魔術師やらも奴隷から引き戻して、送ってやってるって、実にどーでもよさげに答えてやって。
で、どうして間接的な手段まで使ってそんなことをしてるのかって聞かれたから。もうほんとにどーでもよさげに答えてやった。
領土とか、権力とか、どうでもいい、と。魔王は殺したいが、軍を動かせば徒に国を危険に晒す、と。
サラ子さんのことを言ってもしょうがあんめぇ。ただ、やっぱ涙が。うぅむ。サラ子さん離れができん。つか、恥ずかしいとです。ぐしっと涙を啜ってから。じゃあ記憶飛ばすんでついてこいーっと言おうと思ったんだけど。
強者ゆえの苦しみね、みたいな深いこと言い出した王女様(智)が仕えさせてください、みたいなことを言い出した。
えー!? もうやめてくれよぅ。さっきの内容は一応みんなには内緒なんだからさぁ。
さぁ、仕事をくれぃって感じで目をキラキラさせてるこいつをどうしようかとか思いつつ。サラ子さん寂しさにため息をつく毎日です。
あ、今日も石が飯に混じってた。神医も無理矢理食わせない食わせないッッ。ちゃんと食うからさぁ!!
いや、うん、退けてないよ。退けてないよ。皿の端によせてないよって。
料理人、どっかから連れてこようかねぇ。
七百五日目
角少女が怒鳴り込んでくる。で、ちょうど風男君と悪巧み(他の人に知らせられない、という意味で)してたところだから焦った焦った。風男君も一瞬で消えちゃうし。俺は風男君が消えた衝撃で飛んだ書類の回収に忙しいし。
な、なんざんしょって聞いたら。なんだ。王女様(智)が云々。え、なに、もう問題? やっぱ雇うのはいかんかったか。つか、下っ端に配属させたよなぁとか思いつつ聞いたら。なんだ。さっさと昇進させろって怒鳴られる。
コピー取りとか便所掃除とかに使う人材ではない、と。あー、あれ、そんな指示だしたっけ、というか、よーやってるね、元王女様。わはははは。
笑ってる場合ではないようです。
青筋立てた角少女に雑用以上にしてもいいよ、と指示を出しておく。まぁ、翻訳係ぐらいでーとか言ったらさっさと課長補佐にしろって、あ、課長は今こいつです。つかサラ子さんがいないんで人事を扱う人材にでっかい穴があいたままなのです。あー、人事どうしよぉ。
うぇーん、と内心泣きながら、出てった角少女を見送ってため息を吐く。ホント、どうなってんだか。
消えた風男君が戻ってきたので再び悪巧みを開始した。
で、サラ子さんの消息も聞く。各地の神霊石まで一直線に向かってるらしい。魔石ちゃんと渡してるかって聞いたら、サラ子さんの進行する地点に天然の魔石をたらふく食わせた凶暴な幻獣を誘導してあるそうで、安心です。
元気だといいんだが、って思ってたら。王女様(智)を一日で勧誘したのかって驚かれた。
ポンコツじゃねぇかって突っ込んだら、いずれ価値がわかりますって真面目に言われてちょっと困った。
いや、復讐キャラじゃねぇの? あいつ。
七百六日目
送られてくる仕事の量が減った。あれ? 俺の解雇フラグかなってわくわくしてたんだけどそうではないっぽい。まぁ、サラ子さんが自由になるまでは俺も仕事やらなきゃいかんしねぇ。
とか思ってたんだけどなんか妙に嫌な予感がする。ああ、あと人事をサラ子さんがやってたんでその穴に適当にコンクリでも詰めとかんと。えーっと。誰かいたかねぇ、と頭抱える。風男君はオーバーワークとか気にせずに仕事してくれそうなんだが、さすがになぁ。
人材、人材、と。まだ余裕はなかったかなぁとか思いつつ。奴隷買い込みをさらに指示。とにかく人を増やさんと。
教師系を増やせば自然と人って育つよなぁとかうんうん唸ってたらなんか、新しいゴーレムができたって報告が来た。
えーと、なにこれ。とか研究所で見る。つか、今までのとどう違うんでしょって思ったけど。美人さん(貧乳)が面白くもなさそうな表情で説明してくれる。不機嫌なのがわけわからん。
えっと、大地とか太陽とか自然の魔力を取り入れて半永久的に動く? えっと材料は金属だけど自然にある物質で自己修復? 下級精霊を加工した人工知能を搭載してるから命令をするとある程度は独自に動く? はぁー、すげぇなぁ。つーか予算どんだけ使ったんだよ、とか思いつつ。で? って聞いた。いや、兵器増やしたって使わないっしょ。無駄じゃねって意味だったんだけど美人さん(貧乳)は何もいわねぇの。ただ、工場は稼動してる、とか、紋章は入れてないから隠密に動けるとか、そういうこと言われた。
えっと、えっと、なんだろ。自爆装置もある? ?? よくわからん。まぁ、いいか。できたんなら。
そんな俺を可哀想な子供を見る目で見てから、軍には報告してないから適当に使っていいって言って。美人さん(貧乳)はどっか行ってしまった。
えっと、つまり、俺の今までの行動ってバレてたんだろうか。なんて呟いたら、王女様(幼)が寄ってきて、ほらって感じで地形調査要求とか言うバリバリ怪しい書類を渡してくる。
魔王領内の精霊力の調査とか、そういうことが知りたいっていう名目の書類だ。でも、それが、明らかに魔王軍の行動範囲内に入っているのである。で、ゴーレムを仕様テストもしたいみたいなことが書いてある。
これは、あー、って応援してくれてるのかなぁとかちょっと感動してたら、足元で王女様(幼)が私は罪人は好かない、みたいなこと言って、去り際に認めているわけではない、みたいなことを言って、去ってしまう。
だけどさ。これは、ちょっとは手伝ってやってもいい、とか思われてるんだろうなぁ。
七百七日目
サラ子さんから神霊石が届いた。つーか早ぇー。でも戻ってくる名分があるんだから戻ってきてくれればいいのに、とか呟く。俺だけの権限でも歓待ぐらいできるんだぜ。まぁ、ちょっと白い目はあるけどさ。
風男君の経営してる店は大陸各地にある。同じ店名でなく、いろんな店名があるらしく。それを裏で統括しているのが風男君である。また多岐かつ多種に渡るために風男君の店同士の潰しあいとかもあるんだと。まぁ、どうでもいいが。
で、サラ子さんはその店を使って神霊石を送ってきてくれたのだ。で、これは風の奴だとは思う。まだ召喚はできないし、神霊クラスは軽々しく呼べない、とのことで風の厨様のところに送っておく。
そんで昨日渡されたゴーレムとゴーレムの工場は風男君の民間会社に引払う。資源開発用云々で国外へと運び、国外に俺の名前で会社を創ってもらい、口の堅い精霊さんに(軍学校卒はホウ統の子飼いになっちまうからバレるのだ。つか軍も人材少ないからなぁ)使ってもらうことに。とりあえず調査結果のみこっちに送ってもらって、調査で得た資源(鹵獲品とかそういうの)はあっちで処分してもらおう。調査地域の魔王軍はミンチだな。戦力の移動もあると思うが、少しは相手が消耗してくれると助かるんだが。主にサラ子さんが。
流石にサラ子さん単体で魔王軍全軍や魔王城に突っ込ませるわけにはいかん。何があるかわからんしな。
反乱軍やらなんやら使って削ってやらんと。やっぱ魔王殺したらあっちで英雄扱いになるのかなぁ。いや、まぁ、その辺もそのうち考えんといかんな。
七百八日目
最近の石の混じった食事をして、隣国の情勢を聞く。森から大分離れたところにある隣国は周辺諸国を降伏させながら勢力を拡大。同じく魔王軍も天馬王国の属国を蹂躙しながら拡大している。そのうち両者はぶつかるだろうってのがこっちの見解だ。
勇者も今は目が覚めている(助けたときは昏睡状態だったらしいよ)らしい。で、勇者系装備じゃないけど、そこそこ強力な武具を求めてるんだとか。ううむ、そういや俺の武器ってそこそこ強力だったよなー、ということで隣国に出店してる風男君の店に俺の元武具を流してもらう。宣伝もするし、たぶん目端の利く人がいりゃ買ってくだろーさ。
え? 俺はもう剣とかとらんのかって。いや、機動兵器が現在主力のうちの国で接近戦とか。狩りでもなきゃねーっつの。あと勇者にはなるべく強いもの持ってもらわんと。一応、対魔王属性をちびっとだけ付与してもらってあるんで、気合入れて戦えば腕の一本ぐらいは落としてもらえるかもしれん。
魔王が死にもせず、生きてもいない状況まで追い込まれてくれればいいんだが。バランスがなぁ。とにかく今のままだと隣国でも危ないってのがホウ統からの報告書にあった。ううむ、言わなくても出てくる辺りがなんとも。でも解説もついてないからやっぱ反対されてんのかな。
双子ちゃんも、助けるなー、とか釘差すくせに、昨日なんかは嗜好品っぽい高級魔石を手土産にここ来たし。なんかちょっといらついた表情で口尖らせてたけど。
腕もようやくまともに扱えるようになってきたしな。来週には召喚も再開できそうだ。
七百九日目
海洋王国とかいう国があるんだと。聞くと海の只中ある孤島っぽい洞窟に神霊石があるとかなんとか。そういや今更だけど、なんで把握してるんって風男君に聞いたら精霊でも高位の連中にとっちゃ手に取るようにわかるんだと、そういうのは。
あれ、それじゃ俺の命令意味なくねー、みたいな感じでちょっと涙目なんだけどさ。サラ子さんはその洞窟で長期間足止め(さすがにサラ子さんにはあっちで便利に動ける身分とかない上に、神霊石のある場所はあっちじゃ神域として信仰されてる。だから船は雇われてくれない上に火の精霊は海の上とか超苦手だから力任せにも行けない)されるかもしれないんだと。
ただ海のが取れないとサラ子さんも魔王退治を優先するかもしれんから、海洋王国内に貿易用の会社を創りたいってさ。そういや風男君に要求されんのは久しぶりだなーってことで許可を出しておく。
つぶれかけの商人はどこにでもいるから、それを元手になんとかやるんだとさ。
さて、俺もいろいろとがんばらんと。
しかし、書類も以前より大分少ないな。いやいや、あの王女(智)を雇って正解だったかねぇ。
七百十日目
失敗だったかもしれん。
目の前にはちょっと理解できん量の書類の山。つーか、そっか、今までは準備期間だったのか。嵐の前の静けさかよ。
うげぇ、とか思って聞いてみるとここの法律はところどころ抜けている、と。だからそれを埋めるための法律を大量に作ったんだってさ。うげぇ、治水に農業に警察に、うげげ。しかも各責任者の名前が連名であるってことはそいつらの許可とったんかよ。
王女様(智)は寝不足っぽい目でぎらぎら目を光らせてるし。えーっと、なんでそんなにやる気あるのーみたいな気分で沈んでたら。さぁ、陛下さっさとやりましょう、みたいな感じでせっつかれた。
はい。一日中政務です。
七百十一日目
急に布告しても国民が対応できない。というわけでもないが、系統をわけて第何条何項みたいな形式にしていく。つか、いままでは俺とか上級の役人がなぁなぁとかどんぶり勘定で対応してた奴を俺の隣でバシバシ仕事してる人が基準つけてやってるっぽいのです。
つーかさりげに秘書課の権限を拡大する法っぽいのも混ざってたし。寝不足の頭で朦朧としながら王女様(智)の説明にはいはいどーぞと適当に頷いておく。
だから知的な話をさせるな、と。
気づいたら王女様(武)とか王女様(幼)とかが混じって法律について議論してた。俺があー、って感じで口を出したら今寝てただろって目で見られた。
いや、そんなこたぁないです。そんなこたぁ。
七百十二日目
サラ子さんから神霊石が届く、が。対応してる暇がないのでサラ子さんありがとう、と東の空辺りを見てサラ子さんにエールをおく……る暇もなく議論に巻き込まれ、はいはいいーですよまかせますそれじゃあとかできんのでこれこれこういう理由もあるからじゃあそれはやめようならこれでみたいな感じで消えたり増えたりしてく法の素。もともと俺が現代日本で身近だった法律の良いとこだけをとってきたもんだからどっちかというと再構築というよりは創造に近くなっている。
何百何千と法律を作ってるこいつはなにもんなんだろーかとか王女様(智)をぼけーっと見てたら隣にいた王女様(武)に頬をつねられてさっさと次をしろと言われた。あー、わかってますわかってます。
ちなみにもとから天馬王国にこういう法律があったんじゃなくて王女様(智)が俺の作った日本の法律の概念に刺激を受けてしまったらしいのよね。
というわけで人が増えたせいで作らざるを得なかったなんとか大臣みたいな連中が、謁見の間に運び込んだ巨大机で怒鳴りあいながら法律作ってます。
国づくりだねぇ。
食事を取りながらも議論は続く。サラ子さんがいなくなってから、ちょっとだけ火の消えたっぽい国だったからなぁ。やってることは正直(俺には)迷惑だが、国には良い刺激になったのかもしれんねぇ。
あ、王女様(智)には俺のイメージ的に、ということでビシネススーツ一式を創らせてプレゼントしといた。なんかすごい感激されたが。もしかして、懐かれてる?
七百十三日目
隣に座った美人さん(貧乳)が死んだ魚の目をしながら俺に愚痴る。智の国の学者は餓狼みたいなもんだと。わけがわからないと朦朧とした視界で未だに元気な王女様(智)を見る。獅子累々が多い中、彼女だけが元気である。ああ、ちなみに精霊さんのみ元気、というか、彼ら彼女らも疲れてはいるが肉体の疲労は絶無なので精神の疲労のみである。
睡眠時間はそこそこ取れているのだが、四六時中頭を使っているので死にそうなのだ。いつのまにか飲めるようになったコーヒーに砂糖を大量にいれて飲む。糖分うめー。
で、なんで餓狼、みたいなことを聞くと。天馬王国出身の学者ってのは、頭が良いのだが基本的に国外に仕えることはない、とのこと。だから幼い頃に傑物か名君に出会って忠誠でも誓わん限り国外で働かないんだとさ。そういや天馬王国がつぶれたあと、天馬王国出身の学者で無事に逃げた連中とか結構在野にいたなぁ。まぁ、大体そういうのは生活に困ってたんで、拾って反乱軍に押し付けたけど。
んで餓狼ってのはこっちの世界の魔物のことで、一度嫌った奴には何があろうと懐かないことで有名な犬だ。ただ懐けば有用なので人とも関わりのある数少ない魔物の一種類である。
餓狼は一度嫌ったなら餓死しようがそいつからは餌は貰わない。だけど主人として認められればそいつの為に忠実に働く。
で、あれがどうして餓狼なのかって王女様(智)を見ながら美人さん(貧乳)に聞くと、俺に懐いてるぞって言われた。能力全開で働いてるのがその証拠だとさ。
正直、勘弁して欲しい。
ちなみに、あの姫様は各国の国王が領地や国宝やらを交換条件に出してでも嫁に欲しいと言われた賢姫だとか言われたけどそんな糞情報いらない。普通に仕事が減る程度にそこそこ優秀な人がよかった。仕事増えてんじゃん。
がっくし、って感じで俯きかけたら、王女様(智)にさぁ、陛下、次ですよって感じで無理矢理議論に参加させられた。
これって、あと、どれぐらいで終わるのだろうか。
七百十四日目
獅子累々が多い中、やっと休憩というか、インターバルを挟むことに。これから執務室に戻って普通の政務に戻ります。サラ子さん関係も進めないといけない。
一応下が、そこそこ人が揃ってきてるからほっといてもまだ大丈夫だが、基本的に暇のない人が多いのでこの法律も自分の区分だけ参加して、あとは任せたって人もいる。俺? 強制的に全参加ですが何か? 議論中も他の仕事させられたのは俺だけじゃねぇの?
執務室に戻る途中で王女様(智)がついてきた。秘書課は執務室の隣だからまぁ当然だろう。角少女? 謁見の間の片付けだろ。たぶん。あいつも頑丈だから元気だったけどな。
王女様(智)がなんか独り言っぽく。俺に感謝みたいなことを言ってくる。まだまだ若輩の自分にこんな大仕事を、みたいな。陛下が率先して手伝ってくれるから皆従う、みたいな。ついでに視野の狭かった自分に、とか。立派な服をみたいな。いや、確かに服にはついでだってことで厨様に強力な付与してもらったけどなぁ。それ以外はこいつに付き合わされただけだし。
あー、普通は却下なんだろうか、とか思ったけど薮蛇嫌いだから黙って偉そうに頷く。そういや便所掃除とかしたんだろうかって聞いたら、やる前に角少女がやってたんだと。課長のくせに何やっとんだあいつ。で、そのときにいろいろ話したら角少女から陛下がこれこれこういうわけでみたいなことでいきなり課長補佐にされたんだと。あー、あー、補佐? 補佐、じゃねぇよな。なんか大規模なプロジェクトになってるし。服がひとりだけ違うのも認めてくれたからですよね、みたいなこと言われた。んー? なんか、尊敬? されてるのか。
ちょっと罪悪感。とにかく偉そうに頷いて、好きにやっていいよって言っといた。
風男君の方が王様に向いてるんじゃないだろうか。とか思いつつ、とりあえず仕事仕事。
なんとか魔王領内部での反乱を大きくして。いろんな奴隷を買って送って装備も充実させて。で、天馬王国の王子とか優先して探すようにする。うまくすればあの王女様(智)も反乱軍に送れるかもしれん。さすがに国の復興なら戻るべさ。
うむうむって頷いて、サラ子さんの無事を祈ってから仕事に戻った。
七百十五日目
で、また法の議論ですよー。今までの議論で出た結果を王女様(智)がたった一日で纏めて、それをさらに議論です。まぁ軽々しく布告すんなって意味なんだろうが。念入りすぎる。飽きた、あと頼む、とか非常に言いたい。が、言ったらたぶん真面目にやってる連中がすげぇ目で見るだろうし。サラ子さんが戻ってきたときに庇えないかもしれん。ならきちんと制定するべし。
王様関係? もちろん出たがきちんと却下した。俺は俺でしかないんだから法律で身を守る必要はないし。次代に王はいないんだから必要なし。世襲の慣例は絶対に作らないぞ、と。
ただ日本と同じく、議員だか公職だかには別に適応される法律を作っておしまいにした。きちんと彼らも裁かれるべきであるし、ということである。サラ子さんは……あー、恩赦狙いだし。とりあえずこれからの法律に、以前の法律で刑の執行されている罪人を裁くことはない、とだけ言っておいた。うん、サラ子さんは執行中だから除外なーっていろんな人を睨んでおく。流石に、現在裁かれてる人を裁きなおすのはいかんぜよってことでな。
甘いっちゃ甘いけどそんなこと言ってると既に裁いた人間まで裁かなきゃいかんでしょってことでさ。
七百十六日目
よしよし。腕もしっかりしてきたし。神医が言うにはあと一週間ぐらいで召喚始めてもかまわん、とな。神霊石も調整してるからちゃんと召喚できるって。でもさ、召喚する必要はねぇべさって呟いたら厨様に楽しみにしてるんだからそういうこと言うなって言われた。
ちょ、楽しみってなんよ、とか思ったけど賢い俺は突っ込まない。とりあえずあのピカピカ光る人みたいに眩しくなきゃいいなぁぐらいに考えてるんだが。王女様(幼)が王国の外に神殿っぽいものを建てろって言ってたから恐らく凄いのが召喚できるんだろうなぁ、とか思いつつ。やっぱり今日も謁見の間で一日中お仕事です。
法律まだーとか言いたくなるわい。
七百十七日目
そういや俺の腕って身体の設計図である魂ごと喰われたから魔法で再生できないんだと。いや、たぶんなんで再生しないのーみたいな質問があると思って言ってみた。
今日もとにかく仕事です。
で、サラ子さんの無事を祈っとく。俺の腕がちったぁ栄養になってるんなら良いんだが。
七百十八日目
ただいま議論中。
あと、王女様(武)と久しぶりにご飯を食べる。
そういや、あの後から真面目に話してなかったなぁ、と思いつつ。人が回りにいなかったので少しだけ話もした。
王女様(武)と(本音というか、正直に、というか)真面目に話す、ってのはあまりなかったか(エロスはホントどうでもいい話だったし)。
ずっと前にこの人が自分の国のことを話して。で、あとはチェスとか、お茶会ぐらいだったな。まぁ、真面目な話題とかそうポンポン出てくるもんじゃないからそんなもんだろうが。
さて、どんな話になるのだろうか。
そんで、まぁ。少し話した。
彼女の言い分は、俺が理解できない、というよりは。裏切り自体が許せない、ということらしい。そういやこの人って内乱とかそういうのを理由に国力が下がったところを隣国に滅ぼされたはずである。
そのせいもあってか、未だにサラ子さん死刑派の中心はこの人だ。だから、サラ子さんがこの国で暮らすなら、この人を説き伏せなければならない。そして、擁護してもらうまではいかなくても不干渉や中立になってもらわなければならない。死刑派の多く、というよりは国の重鎮の多くが初期の段階で集めた人材であるから、彼らの国に対する愛情は理解できる。そして、それを邪魔する俺がどれだけの我儘を言っているのかも。
頭を掻きながら、責任代わりに俺が退位したらどうか、と半分ジョークで言ってみるが、まぁ、無駄だろう。そもそもの論点が違うし、俺が退位したところでサラ子さんの味方が失われるだけで意味はない。
王女様(武)の目もうっすらと嫌味が篭もった。そら普通の国じゃ死刑確実の人なんだから、わかるんだが。
あー、ジョークジョーク、と言っておく。王女様(武)も理解してくれたのか、そう、そんなに嫌なら王位から引き摺り下ろしても構わんぞ、とか言ってくるし。
あー、これ本気の目だ。
よくわからんけど。とにかく魔王殺しなんて前人未到の難行を課したんだから許してやろう、と笑顔で言ってみるけど、見透かした目で、難行か、って鼻で笑われる。
サポートばれとるし。
サポートばれとるし。
大事なことだから二回言っといた。
まぁ、ばれずに行こうなんて思ってなかったしなぁ。はぁ。
王権強化すりゃ問答無用なんだが、サラ子さんが大事にしたがってる国で無茶苦茶やるわけにもいかなかったから、自業自得かねぇ。
とりあえずこのあとも議論を重ねて、政務もして、ため息だけが増えていきます。
サラ子さん、怪我してなきゃいいんだが。
七百十九日目
もちろん、俺だけが暗躍しているわけではない。
精霊さんたちの方が国の中で数が多く、役割としての重責を担っているものも多い。もちろん俺がトップであるし、国に一番広まっている宗教の影響やらなんやらもある。
とにかく、人間と精霊の影響力が均等になるように苦労し続けてきた結果が火竜王国の精霊と人間の立場が同等であるという常識にも似た認識と、誰でも政治家や軍人になれるという風潮だ。
そんななかでわざわざ国の根幹である精霊さんたちの悪口を大きな口で叩けるものではないし、そんなことをしても俺が殺すか拷問するだけであるというのは結構、周知なのだ。
とはいえ、そんな国だからこそ、個人というものが尊重され始めてきた中にあって、個人としての評価なんぞも広まってしまうものである。
議論の途中休憩の際に風男君から渡されたアンケートっぽいのが、そのひとつだ。
渡されたのは火竜王国内の新聞のひとつで、王女様(武)やら国の重鎮が新聞社の経営やらなんやらに関わっていたはずである。国営の新聞社もあるにはあるが、それとは関係のないもので、国民の一割ぐらいがとってる奴だったか。
で、と指のさされた部分を見て、ちょっと頭を抱える。国王という神輿やら身分を尊重する彼らだからこそ正面から刃向かってこないと思ってた。だから、まぁ、当然といえば当然なのだが、新たな秘書課長の角少女や課長補佐に王女様(智)の写真を大写しで一面に載せてたりする一面やら、その裏の記事にある。なんつーか、あからさまな俺についてのアンケートみたいなもの。
政治に満足していますか、みたいな奴は問題点が出たら即解決のこの国では尊ばれる考え方だ。というより最初に疑わない人間が多かったために俺がもう少し考えようぜ、みたいな言い方で広めていった考えでもある。俺も止めなかったから、美徳まではいかないが推奨される思考である。
だから、アンケート自体に問題は、ない。だが、それらから推測されるものがある。
政治に満足している。現在の国王を尊敬している。いつまでもこの国の王には健やかでいて欲しい。
そんな美麗字句が並ぶこれは。
あー、俺の立場やらなんやらの強化かこれ。そんで秘書課の写真云々もそこから推測すると暗にサラ子さんはどこにいった、という疑問にも繋がってしまう。
うーむ。俺を評価することによって、相対的に今まで傍にいたサラ子さんに焦点を当てて落とす。嫌なやり方だ。
俺の腕が義手になってるのも問題だしな。気づく人はすぐにきづいちまうぜ。
サラ子さんが俺の両腕を喰って、だからいなくなったってのはな。
そんでそれを隠したところで噂が広まったら意味はない。噂を消すことはできないしな。
サラ子さんが魔王退治に向かったって事実を公表するべきなんだろうか。だが、それを公表するならサラ子さんの罪状もださんといかんし。ぶつけどころもなぁ。おれ、サラ子さんに傷ついて欲しくないのだが。
なんて思ってると風男君が、サラ子さんの強さを信じてないのか、みたいなことを言ってくる。いやいや、信じてる信じてない云々の前に、好きな女にはなるべく傷ついて欲しくないのが男なんだが。
うがぁぁぁ、まぁ、望むようにさせるのも男の甲斐性ってやつかね……。
とりあえず公表する、か。タイミングは神霊石で召喚できるころ、だな。なるべく成果で黙らせないと。あと俺が庇うんじゃなくて、既に罰を与えたって形にしないと。
の、前に神霊石の重要性を上げとかないと。罰を考えたころから知識層から国民に情報を落としてるけど、伝説ってのがあんまり重要視されてるんだかされてないんだかわからんし。たぶん一部の族長や呪い師とかがありがたがるくらいじゃねぇの? 国家の役に立たせて、どれだけサラ子さんが偉業と難行を達成してるかにしないと。
しかし、そうなると俺の行動失敗してるな。最初っから公表しときゃよかったんだが。ううむ、これが俺が政治家に向いてない所以って奴だなぁ。
とりあえず風男君にサラ子さん関連のいくつかを指示して、俺は議論へと戻ることに。
はぁ、ままならんなぁ。
そういやいつまで石の入った食事を食べりゃ良いんでしょうか?