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第二章 離別告白

空が暗闇にすっかり包まれて、街に明かりが灯る頃、千歳津季のケータイに1本の音声着信が入った。

「もしもし、黛兎?何の用?」

それは交際半年になる津季の恋人、鬼塚黛兎からだった。

「話があるんだけど、今大丈夫?」

「全然OKだよ。何、デートとか?私はいつでもOKだけど。」

「そうじゃねぇんだ。」

「え、じゃあ何?」

黛兎は脳天気な津季に少しいらつきながら静かに言った。

「別れてほしい。」

「え…。」

津季の顔から血の気がひくのが、電話越しでもわかった。

「ど、どうして…?私のコト、誰よりも好きだって言ってくれたじゃん!!」

「…お前より好きなヤツができたんだ。」

「そ、そんな…。私は認めない!!別れるなんて許さないから!!」

「今まで楽しかったぜ…、ありがとう…。」

黛兎はつぶやくようにいって、電話を切った。

「そんな…、何で…?どうしてなの!?私より好きなヤツって誰よ!!?」

津季の、長くて当分明けそうにない夜の始まりだった。


「これで良かったんだよな…。」

黛兎自身、不安で仕方がなかった。

でも、自分が決断したコトだから、迷いはなかった。

こうするしかないんだ…。津季のためにも、俺自身のためにも…。

黛兎が立ち上がろうとすると、ベッドの下からのぞいているアルバムが目に入った。

そう、それはこの前遊びに来た柚綺が見つけたものだった。

ページをめくるたびに溢れてくる思い出。

黛兎はそれを部屋の隅に置いた。

あとで捨てようと思ったのだ。

もう不安はなくなっていた。

アルバムが置かれたその部分だけ、光が届いていないかのように、暗く沈んでいた。


次の日。

部活に津季の姿はなかった。

もうすでに学校は夏休みに入っている。

黛兎は少し痛む胸を押さえながら、練習に集中しようとした。

「黛兎先輩、津季先輩はお休みなんですか?」

休憩時間、ドリンクを運んできた柚綺が尋ねてきた。

「…ちょっと話があるんだけど、いいか?」

「えっ、あ、はい。」

黛兎の表情の固さから、深刻な話だろうと、柚綺は悟った。

「おい、お前ら!!休憩は終了だ。今度はそれぞれポジションについて試合形式で練習してろ!!マネージャーはドリンクの補充、柚綺は、今度の試合の打ち合わせがあるから部室に来い。」

「はい!!」

それぞれが大きく返事をすると、それぞれ自分のやるべきコトをやり始めた。

部室についた2人は向かいあって立ち尽くした。

「先輩…、元気ないですけど大丈夫ですか?」

しかし黛兎は柚綺の言葉を無視してこう告げた。

「柚綺…、別れてくれ…。」「え…。」

柚綺は思いがけない言葉に戸惑ったが、穏やかに言った。

「わかりました。短い間だったけど、楽しかったです。」

黛兎はその態度に心を打たれた。

津季とは全く違う…。

俺は、俺は…コイツが…。気づくと、黛兎は柚綺を抱きしめていた。

柚綺の堪えていた涙が溢れた。

「俺と付き合ってほしい。今度はちゃんと俺の女になってほしい。」

「えっ…。」

柚綺はまた驚いた。

そっか、さっきの『別れてくれ』は、彼氏じゃなくてちゃんとした彼女になってほしいってコトだったんだ。

「私は構わないですけど、というかすごく嬉しいですけど、…津季先輩は大丈夫なんですか…?」

黛兎は柚綺から体を離して言った。

「なんだよ、この前のデートじゃ、そんなコト気にしてなかったじゃねーかよ。津季とは別れた。俺さ、わかったんだよ。アイツにとって、俺は自慢の道具でしかなかったって。アイツとは半年付き合ってたけど、どんどん好きになるってコトはなかった。でも、柚綺ちゃんとは、短い間でもすんげー楽しかったし、こう上手く言えねーケド、柚綺ちゃんが俺の中でいつの間にか一番大事な存在になってたんだ。」

「先輩…。じゃあそれがショックで津季先輩休んだんですか?」

「かもしれねぇ。津季には悪いコトしたと思ってるよ。でも自分のコトを心から想ってくれてねぇヤツと付き合う必要なんかねーし、自分も相手のコト好きじゃねぇのに付き合ってたら失礼だろ?」

「え、そ、そうですけど、やっぱり…。」

柚綺はなんだか津季が気になって仕方なかった。ホントに黛兎先輩を自慢の道具にしてたのかもしれないけど、でも、フラれて部活休むくらい黛兎先輩のコト想ってたんだよね…。

と、その時、黛兎は手を柚綺の首の後ろに回して引き寄せてキスをした。

「…ッッ。」

「俺が一番好きなのはお前だ。」

顔面が一瞬で赤くなる。

柚綺はどう反応すればいいのかわからなかった。

ただ照れながらも、つぶやくように声を出した。

「はい…。」

「あっ…、…突然変なコトしたりしてゴメン…。俺のコト、…嫌いになっちまった…?」

頬を赤く染める黛兎。

しかし、柚綺はにっこり微笑みながら言った。

「いいえ、今まで以上に好きになりました。」

黛兎は横を向いて、恥ずかしそうに笑った。

照れた黛兎先輩…。

「先輩、カワイイっっ。」

柚綺はつま先立ちして、黛兎の頭を撫でた。

「ちょっ、やめろよっ///もう俺はお前の彼女じゃねーんだからっっ!!!」

「いーじゃないですかっ!私のカレなんですから。あっ、それより、早く部活に戻らないと!次の試合ではゴール決められなくなっちゃいますよーっ。」柚綺は笑いながらドアを開けた。

「余計なお世話だよっ!」

部室の外に出た2人。

グランドに戻る途中、黛兎が少し恥ずかしそうにしながら口を開いた。

「あのさ…、さっきの話とかは、内緒ね。恥ずかしいから…。」

赤く染まった黛兎の頬は夕日に照らされてますます真っ赤に染まった。

「いいですよ。でも、さっきのキス、嬉しかったですっっ。」

柚綺は誰も近くにいないコトを確認してから、わざと大きな声を出した。

「言ってるそばからっっ!」「すみませんっっ。でもホント、私誰にも言いませんよ。だって、あれは、黛兎先輩との2人だけの時間だから。」

黛兎は肘で柚綺をつついた。

「いーコトゆーじゃねーかよ。」

柚綺は幸せな気持ちで一杯だったが、頭の隅の方では、津季の存在がまだ残っていた。

これでおしまいな訳がないと、言っているかのように…。


ちなみに試合は、黛兎が3点を決めて見事勝利した。

一方津季は、その後も部活に来るコトはなく、冷え切った生活を送っていた。

そんな津季のコトを考えてしまう柚綺。

―黛兎先輩のちゃんとした彼女になれて嬉しいけど、私の幸せのために、津季先輩が犠牲になったんだ…。

柚綺の心は揺れ始め、心境はますます複雑になっていたが、黛兎の笑顔を見るたびに軽くなるのを感じた。

それは今までには見たコトのない笑顔を見せてくれるから…。


好きな人の影響力ってスゴイ…。

善にもなるし、悪にもなる。

どっちにしろ、自分を大きく変えているコトに変わりはない。

《第二章・終》

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