第七章
翌日。
「検査の結果は、異常ありません。退院しても、大丈夫でしょう」
午前中の検査結果を見ながら、医師が退院許可を出した。
「ありがとうございます」
零は軽く会釈をして、診察室を後にする。
病院を出ると、午後2時を回っていた。
すぐにでも、宮岡の見舞いに行きたかったが、最近は、お見舞いに行くのも難しくなった。
受付で、名前と連絡先を記入しなければならない。
先に特異隊に寄って、退院の報告と、身分証明書くらいは返してもらわなければ…。
あと…
タクシーが特異隊の前にとまる。
零は身分証明書が無いため、受付で入館手続きを終え、建物に入る。
直属の上司である加藤に退院の報告に行く。
「もう大丈夫なのか」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
零は頭を下げる。
「迷惑なんて…。自衛隊指揮官から感謝の連絡があったよ。」
「そうですか…」
「宮岡の見舞いには行ったのか」
「これから、行ってきます。その前に退院の報告と、身分証明書を…」
「あと…ハンカチだろ」
零の心臓が一瞬速まる。
「装備課に聞いたら、ポケットの中のものは、全て保管してあるそうだ。よかったな」
「ありがとうございます」
零は勢いよく、深々と頭を下げた。
「明日までは、休みにしてある。明後日の体調を見て、出勤しろ。いいな」
「はい。了解しました」
零は敬礼で答える。
「宮岡は大学附属病院だ。」
「ありがとうございます」
零の顔が明るくなる。
「それとな…例の黒ジャケットのヒーローな…」
「は…はい…」
零の心臓が跳ねる。
「今朝も現れた」
「……」
零は、加藤の言葉を聞き逃すまいと、真剣に耳を傾ける。
「封鎖線内での戦闘で、また一人で妖魔を殲滅させたと報告があった」
「……現場には、誰がいたんでしょうか」
「平井と渕の隊だ」
「…」
「どうした…気分でも悪くなったのか」
「い、いえ…。それで男の身元は…」
「いつも通りさ…。相変わらず、消えてしまったらしい。」
「そうですか……。わかりました。ありがとうございます」
零は、加藤の部屋を出る。
装備課に向かいながら、胸の奥がわずかに痛んだ。
あの男は、私を助けに来たわけではない。
ただ、そこに妖魔がいたから倒した。
それだけだ。
……それなのに。
なぜか、胸の奥に小さな棘が残ったままだった。
私は、何を期待していたんだ…。
零は『期待』という言葉が出てきたことに、自分でも驚いた。




