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黒き神と、願いの星  作者: 相田 依人


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第三章

 隊員たちは、撤収作業に追われていた。


 自衛隊のヘリが数機、上空で旋回している。


 負傷者は次々と担架で運ばれ、装甲車が通りを封鎖していた。


 特異隊の援軍が到着した時には、既に負傷者の回収作業が行われていた。


 零は、瓦礫の街をもう一度見渡す。


 破裂した妖魔の残骸。


 紫色の体液。


 そして――あの男の姿は、どこにもなかった。


東雲しののめ隊長、戻ります」


 宮岡が声をかける。


「ああ…」


 零は小さく頷いた。


 だが頭の中では、さっきの光景が何度も繰り返されていた。


 あの速さ。


 あの力。


 そして――


 妖魔が、風船のように破裂した瞬間。


……何者なの?




 数時間後。


 特異隊本部。


 零はデスクに向かい、端末を操作していた。


 報告書の画面には、戦闘記録が並んでいる。


 発生日時。


 被害状況。


 妖魔の数。


 部隊の損耗率。


 そこまでは、普通の報告書だった。


 問題は、その次だった。


 零はキーボードの上で指を止める。


――どう書けばいいの?


「正体不明の男性一名が戦闘に介入」


 それは事実だ。


 だが、その先をどう書く。


 妖魔を、素手で破裂させた?


 一人で殲滅せんめつした?


 そんな報告書が、信用されるのか。


 それでも、零は入力した。


『正体不明の男性が戦闘区域に侵入』


『妖魔複数体を単独で撃破』


『異能の使用は確認できず』


『極めて高い身体能力を確認』


 入力を終え、零は深く息を吐いた。


 ……これでいい。


 メールで送信する。


 事実を書いただけだ。


 数分後。


東雲しののめ隊長、中隊長室に来てくれ」


 机の上のスピーカーから声が入った。


 上司の声だった。


「了解しました」


 マイクのボタンを押して答える。


 やっぱり、納得してもらえないか…


 零は端末を閉じ、立ち上がる。


 特異隊中隊長室。


 重い空気が流れていた。


 東雲しののめ れいの上司である第4中隊長の加藤が、報告書の画面を見つめている。


 腕を組み、しばらく黙ったままだった。


東雲しののめ隊長」


「はい」


「これは……君の報告書だな」


 モニターを回転させ、れいの方に向ける。


 零は内容を確認し、


「はい」


 と告げた。


 加藤中隊長は画面を指で叩く。


「正体不明の男性が妖魔群を単独で殲滅せんめつ


「はい」


 沈黙。


 やがて、加藤はため息をついた。


「映画の話か?」


「……事実です」


 加藤はため息をつく。


 零は静かに答える。


「現場にいた隊員も全員、同じ証言をしています」


「聞いている…現場にいた隊員全員が、男が一人で妖魔の群れを殲滅せんめつしたとな…。自衛隊の方でも、報告書の内容で、揉めているそうだ…」


「そうですか…」


「……」


 加藤は椅子に背を預けた。


「異能ではないのか」


「確認できませんでした」


「武器は?」


「ありません」


「……素手か」


「はい」


 再び沈黙が落ちる。


 加藤はしばらく天井を見上げたあと、小さく呟いた。


「信じろと言われてもな……」


「正直な話。私自身…自分で見たことが信じられない状況で…」


 無理もないが、零自身も、自分で見たことが信じられない状況なのだ。


 あれは何だったのか。


 人間なのか。


 それとも――。


 わからない……。


 加藤は画面を閉じる。


「とりあえず、この件は保留だ」


「はい」


「上には私から報告する」


「了解しました」


 零が敬礼して出て行こうとした時、加藤が呼び止めた。


東雲しののめ


「はい?」


「その男……」


 加藤は少し考えてから言った。


「君はどう思う」


 零は少しだけ迷った。


 そして答える。


「……わかりません。…しかし…」


「しかし?」


「隊員の中では、ヒーローと呼ぶ者も出てきています」


 加藤は一瞬、呆れた顔をした。


 だが、すぐに苦笑する。


「ヒーロー……子供みたいな呼び方だな」


「隊員内では、そう呼ぶ者もいるというだけです」


「そうか」


 加藤は小さく頷いた。


「ヒーロー…か」


 中隊長室を出ると、廊下で宮岡が待っていた。


「どうでした?」


「信じてもらえなかったわ」


「ですよね」


 宮岡は肩をすくめ、その反応に納得する。


「でも、見ましたよね」


「ええ」


 二人は顔を見合わせる。


 そして宮岡が笑った。


「ヒーローでしたよね」


 零も、小さく笑う。


「……ヒーロー……だった…」


 それは、死を覚悟した現場の者達から見た、男のイメージだった。


 ヒーロー。


 その呼び方に零は少し不安を感じていた。


 あの男…


 私が求めていたヒーローなのだろうか?


 もし…本当のヒーローなら…


 黒いジャケットの男のことは、まだ一部の者しか知らない。


 だが、その日から。


 特異隊の中で、正体不明の黒いジャケットの男は――


 ヒーロー。


そう呼ばれるようになった。


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