第十章
マンションまで、あと十分ほどの場所で、スマホから「妖魔避難情報」が流れた。
零は、スマホに表示された場所を確認する。
車で20分くらいの封鎖地区だ。
近くを歩いている人も、スマホを確認している。
中には、慌てて電話をかける人もいる。
休暇中の私が出る幕じゃない…
特異隊と言えども、休暇は必要だ。
隊の規則でも、休暇中は非常招集か個別の緊急呼び出しがない限り、出動義務はない。
しかし…
最近の妖魔は強い。
いや…
強い妖魔ばかりが、出てきている。
実際、黒いジャケットの男がいなければ、封鎖線が突破され、コード・レッドが発令されていた事案もある。
……様子を見るだけなら。
零は道路脇で手を上げ、タクシーを止めた。
「○○地区まで」
行き先を聞いた運転手の顔が、すぐに曇る。
「そこ、今……妖魔の避難情報が出てますよ。封鎖されてるはずです」
「わかっています。行けるところまでで構いません」
零は首から下げた身分証を見せた。
特異隊の紋章を見た運転手が、目を見開く。
「……ああ、あんた隊の人か」
少し迷ったあと、運転手はため息をついた。
「封鎖線の手前までなら行きますよ。それ以上は無理です」
「ありがとうございます」
タクシーは静かに走り出した。
数分後、後方からエンジン音が近づいてくる。
自衛隊の大型トラックだった。
タクシーを追い越していく。
幌の隙間から、迷彩服と黒い銃身がちらりと見えた。
完全武装の部隊だ。
現場は、かなり危険な状況らしい。
やがて、道路の先に赤色灯が見えてくる。
警察車両とバリケード。
封鎖線だった。
零は料金を払い、車を降りる。
警察官がすぐに近づいてきた。
「この先は立ち入り禁止です」
零は身分証を差し出す。
警察官の表情が変わった。
「……特異隊」
「封鎖線まで行きます」
警察官は少し考えたあと、静かにうなずいた。
「お気をつけて」
零は軽く会釈し、封鎖線へ向かって歩き出した。
テントの中では、特異隊と自衛隊の隊員がモニターを囲んでいた。
地図の上には、赤いマーカーがいくつも置かれている。
「春田さん!」
零が特異隊の人間に声を掛ける。
「東雲隊長?どうしたんですか」
「近くを通ってたら、避難情報が出たから。様子を見に…」
「様子を見に…って…。入院していたんじゃ…」
モニターに光が点滅し、アラー厶が鳴る。
春田は、インカムをセットし、
「妖魔反応出ました。数…6。向かってきます。気をつけて」
零もモニターを凝視している。
「どこの行動隊が出てるの」
「千々和隊長の第9小隊と渡辺隊長の第6小隊です。」
零は二人の異能を思い出していた。
千々和は風の異能を使う。
強風で妖魔を吹き飛ばしたり、かまいたち現象を起こし切り裂くこともできる。
渡辺は、電気系の異能を使う女性隊員だ。
女性同士ということで、零とは、公私共に付き合いがある。
あの二人なら…
「妖魔来ます。戦闘準備!」
春田がインカムに叫ぶ。
あの二人なら問題ないはずだ。
……それでも。
胸の奥に、嫌な感覚が残った。




