第九章
病院から出た零は、小隊長の仲間の平井に電話をかけた。
コール音2回で電話に出る。
「東雲?お前、もう大丈夫なのか」
平井は、零の先輩であり、元上司だ。
口は悪いが、零が頼りにしている仲間だった。
「平井さん、今朝の件なんですけど…」
それとなく探りを入れる。
「ああ…今朝の戦闘な」
平井の声が少し沈むのがわかった。
「こちらの戦力と、妖魔のことを知りたくて…」
零は建前を言った。
「こっちは、2個小隊。俺の13小隊と渕んとこの14小隊だった。相手は中級クラスかな。10以上いたぜ」
「そんなに…」
「ああ。おかげで、ウチも自衛隊にも負傷者が結構出ちまった。……渕とも話したんだが、最近は中級クラスばかりで、数も増えてきているんじゃないかとな」
「確かに…。いくら境界が裂けたとはいえ、相手は次第に強くなり、数も増える一方というのは、偶然とは思えませんね…」
「だろ?こちらの戦力を見て、送り込む妖魔を選んでるような気がするんだ…」
平井の言い方に、嫌な予感が全身を走る。
「まさか…。妖魔に知性があると…」
「いや…全ての妖魔にあるとは言わん。しかし…」
「上級妖魔には…」
「あるいは…。まあ…俺の思い過ごしだと思うがな」
零は、しばらく考え込む。
今迄の妖魔は、動物的本能で人を襲ってきたが、妖魔の力、増える数を考えると平井の意見が信憑性を持ってくる。
「ありがとうございました。勉強になりました」
零は、平井に礼を言う。
「宮岡が退院したら、みんなで酒でも飲もうぜ」
平井も宮岡を心配してくれている。
「はい。」
「……まあ、それよりだ」
「?」
「例のヒーローな」
零の心臓が跳ねる。
「また出たんだよ」
「……そうですか」
「10体以上いた妖魔を一人で片付けた」
零は言葉を失う。
「やはり…異能を使わず、素手で…ですか」
「ああ…。正直、噂は聞いてたけど…、信じちゃいなかったんだがな。目の前で見せ付けられたらな…。おかげで特異隊の者も何人か助けられた…」
零は胸の痛みを思いだす。
仲間が助かった。
それは、素直に嬉しいし、男に感謝すべきだとわかっている…
でも…
「平井さん…。あの男…どう思います?」
平井はあっさり言う。
「どうって…、決まってるだろ。」
胸がざわつく。
平井は…男について、何かわかったのか……。
「人間じゃないな」
零は、身体に雷が落ちたような衝撃を感じた。
人間じゃない…
「そう思わないか?あの速さ。あの力。どう見ても人間に出せる力じゃないぜ」
そうだ…
確かに、そうだ…
人間に出せる力じゃない…
普通の人間には…
「ありがとうございました。飲み会、楽しみにしてます」
零は隊員としての言葉を返す。
「おう。またな」
平井は、電話を切った。
零は、マンションに帰りながら、平井の言葉を考え続けた。
ーーもし、平井さんの言う通り、妖魔の中に知性のあるものがいたら…
ーーもし、そんな妖魔が現れて戦闘になったら…
あの男は…人間じゃない。
普通の人間では…
じゃあ…いったい何者なの……
空にはいつの間にか、薄紫の絨毯に敷かれ、星屑が散らばっていた。




