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【毎日8:10更新/9章:クライマックス開幕!】きみが死なない、その朝まで  作者: 夜行(やこう)
第九章

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9-4『一頭の羊』

金属の擦れ合う不快な音が双方の耳朶を打った。

大剣の重量に圧され、魔王の直剣はわずかに外側へと軌道を逸らされる。だが、若き王の体は微塵も揺らがなかった。


魔王は押し込まれる刃の接触面を滑らせるようにして、直剣の身を引いた。抵抗の消えた大剣が虚空を裂いて流れる。そのわずかな隙を逃さず、魔王は身を翻すと、将軍の甲冑の継ぎ目、剥き出しになった脇腹をめがけて刃を突き出した。

刃は正確に将軍の脇腹を捉え、衣服を裂いてその肉へと深く突き刺さる。確かな手応えが直剣の柄を通じて魔王の掌に伝わった。


しかし、将軍の体は止まらなかった。

肉に刃を突き立てられたまま、将軍は口元を歪めて笑った。傷口から血が滲むのも構わず、肉を割る痛みをむしろ歓迎するかのように、さらに一歩前へと足を踏み出してきたのである。浅い。魔王の放った一撃は、将軍の分厚い筋肉と、その奥にある骨を断つには至っていなかった。


将軍は大剣から右手を離さぬまま、空いた左手を固く握りしめた。白銀の籠手に包まれた拳が、大木のごとき太さで、至近距離にいる魔王の腹部へと直接突き出される。

鉄塊と化した拳が、魔王の胴を真正面から打ち抜いた。


鈍い衝撃音が響き、魔王の体は地面から足を離して後方へと吹き飛んだ。数歩分の距離を猛烈な摩擦と共に滑り、城壁の石床に膝を突く。口内から溢れた鮮血が、冷たい顎を赤く汚した。


「良い突きだったぞ」


将軍は脇腹に刺さったままの直剣を、左手で無造作に引き抜いた。肉が鳴り、鮮血が白銀の甲冑を汚していく。将軍はその直剣を足元へ放り捨てると、ふたたび右手一本で大剣を構え直した。


魔王は石床に膝を突いたまま、昏い眼差しで将軍を見上げている。その手から武器は失われていた。


将軍は容赦なく追撃の足を踏み出した。大剣を大きく薙ぎ払い、無防備な魔王の首を刈り取りにかかる。魔王は辛うじて上体を後ろへ反らせて刃を躱したが、勢いは止まらない。将軍は息もつかせず、具足を振るい、魔王の胸甲をまともに蹴りつけた。凄まじい衝撃を受け、魔王の体は城壁の端を越えて、外側の虚空へと弾き出された。


城壁の直下には、石造りと木組みの家屋が密集する居住区が広がっている。落下した魔王は、一軒の民家の傾斜した屋根に背中から激突した。激しい破砕音とともに、何枚もの石瓦が砕け散り、屋根の木枠がへし折れる。魔王の自重と落下の勢いはそれだけに留まらない。二階の床板をも踏み抜き、そのまま一階の土床へと突き抜けた。


立ち込める砂埃のなか、魔王は背を打った衝撃に喘ぐこともなく、床に足を着くと同時に跳ね起きた。天井の穴から、すぐに次の影が降ってくる。将軍が、大剣を真下へと突き立てるように落ちてきた。


魔王は横へ身を転じた。刃が耳元をかすめる。直後、将軍の大剣が土床を粉砕し、地中の土を剥き出しにする。

着地の衝撃を膝で殺した男は即座に大剣を横へ薙いだ。民家の太い主柱が叩き折られ、支えを失った家屋が轟音を立てて内側へと崩れ始める。


二人は崩落する家屋の壁を突き破り、表通りへと飛び出した。


素手である魔王に対し、将軍は容赦なく大剣を突き出す。

そのとき、崩れかけた隣家の窓から、一人の魔族の男が身を乗り出した。男の手に戦斧がある。かつて鉄騎隊に所属していた男は、自らの得物をいつも磨き、再び何かを守るべき時がくるまで壁に掛けていた。男は将軍の威圧に怯まずに、全力で相棒を投じた。


「陛下ァ!」


空を舞う戦斧の柄を、魔王は正確に掴み取った。

低く腰を落として息を吐き、体を深く捻る。その回転のまま将軍の大剣を迎え撃った。二つの鉄塊が衝突するたびに、通りの両脇に軒を連ねる商店の荷台が砕け、民家の土壁に深い裂け目が走った。将軍の力任せの連撃は、周囲の建物を容赦なく巻き込んでいく。


激しい火花が散る中、魔王は戦斧の刃を将軍の剣の鍔へと強引に噛み合わせ、力任せに引き絞った。強固な体勢がわずかに傾ぎ、将軍の巨躯がよろめく。「ふはッ!」心底楽しいと言いたげに男が口を開ける。

魔王は、狂暴な踏み込みだけでその均衡が強引に引き戻されるのを見た。即座に振り抜かれた大剣の腹が戦斧の柄を捉え、中央から真っ二つに叩き折られる。


再び徒手となった魔王が大きく後退した瞬間、周囲の家々の扉や窓が次々に開いた。

姿を見せた住民の顔には、一様に緊張が張り付いていた。血気盛んな彼らとて、力量の差を測ることはできる。将軍の圧倒的な武威の前には、彼らが束になって立ち向かったところで一瞬で骸にされることは明白であった。それでも、彼らは自らの王を死なせるわけにはいかなかった。


「これを使われよ!」

「我が王!」


開いた窓から、あるいは物陰から、槍が、古い直剣が、次々と魔王の足元へ向けて投げ込まれた。石畳の上に金属音が幾重にも重なる。将軍は鳥の囀りに笑むように穏やかに言った。


「拾え。まだ遊び足りんのだ」


将軍の踏み込みと同時に、視界の端で一筋の長槍が空中を走った。魔王は将軍を凝視したまま駆けだし、その柄を空中で掴み取る。

掴んだ勢いのまま、迫り来る将軍の突きを柄の後端でいなす。さらに足元の古い直剣を具足の爪先で蹴り上げ、宙に浮いた柄を左手で捕らえる。二つの武器を同時に操って将軍へ連撃を浴びせた。






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