至高魔法国家ノクタリス②
朝の訓練場には、
まだ誰もいない。
俺は木製の標的を前に立ち、
静かに呼吸を整えていた。
魔法を使う時、
大切なのは威力じゃない。
制御だ。
体内の魔力を一気に流すのではなく、
細く、正確に、必要な分だけ外へ出す。
「……」
無詠唱で魔力を放つ。
空気が僅かに震え、
標的の表面が焦げる。
狙った場所だけ。
余計な損耗はない。
「悪くない」
背後から父の声がした。
「魔力の密度が安定している。
同年代では、まず真似できん」
俺は振り返らずに答える。
「まだ余裕があります」
それは、強がりではなかった。
訓練が終わると、
屋敷の庭で母とセリスが待っていた。
「お疲れさま、ルーク」
「はい、どうぞ」
差し出された水を受け取る。
セリスの視線は、
俺の指先に向けられていた。
「……すごいですね。
魔力の使い方が、もう大人みたいです」
「父さんが厳しいから」
そう言うと、
彼女はくすっと笑った。
この時間が、
ずっと続くものだと思っていた。
その日の帰り道だった。
「おい」
足を止める。
前に立っていたのは、
隣町の貴族ディオン・クラウス。
同い年。
だが、いつも妙に突っかかってくる。
「噂は聞いてるぜ。
お前、魔力が多いんだって?」
「それが何か?」
「多いだけで調子に乗るなよ」
彼は、わざとらしく肩を回した。
「ちょっと、勝負しようぜ」
周囲には人はいない。
人気のない石畳の道。
断る理由はなかった。
ディオンは先に動いた。
魔力を一気に放出。
空気が乱れ、
前方に衝撃が走る。
直線的。
速いが、単調。
俺は一歩横にずれ、
衝撃を紙一重で避ける。
(無駄が多い)
次の瞬間、
俺は魔力を一点に収束させた。
放つ。
圧縮された魔力が、
彼の足元の地面を抉る。
「っ……!」
体勢を崩したディオンに、
間髪入れず追撃。
今度は、
拡散させた魔力を壁のように放つ。
逃げ場を奪う。
「待っ……!」
彼の背後の石壁が、
砕け散った。
直撃していれば、
無事では済まなかっただろう。
俺は、そこで止めた。
「終わりだ」
ディオンは、
息を荒くしながら俺を睨んでいた。
「……覚えてろよ」
そう吐き捨て、
彼は逃げるように去っていった。
勝敗は、明白だった。
技量。
制御。
判断力。
すべてにおいて、
俺が上だった。
それを疑う余地はない。
屋敷に戻ると、
夕日が庭を照らしていた。
「教会から連絡があったわ」
「明日、授与式ですって」
母の声は、
どこか弾んでいる。
10歳の節目。
魔法適性とスキルが授けられ、
人生の方向が定まる日。
俺は静かにうなずいた。
この時の俺は、
まだ知らなかった。
自分の才能が、この国では“失敗作”と呼ばれる日が来ることを。




