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運び屋のリズベット ②

 ハッチが吹き飛べば、加圧状態にある内部からは暴風が。

 構わず強引に内部へと侵入を果たすと、ワイヤーを貨物室の扉に放ちながら、背部バックパックに収納されていた様々な兵器を展開。第一貨物室に載っているのは、先ほど破壊された『ハンターシャーク』の船首くらいであった。

 ナノワイヤーとスラスターで船首方向に近づきながら、館内通路の扉へ腰部からの携行ロケットを放ち、レーザーでカメラ類を焼いていく。


 全高約4m。

 マトリョシカはタイタンアーマーと呼ばれる強化外骨格の一種である。宇宙においては純粋な作業用として扱われることも多いが、歩兵が運用されるような戦場、特に複雑なステーション内にて戦闘用有人兵器としても利用されていた。

 リズベットが入手したマトリョシカは元々軍用モデル。それを作業用に改修したものであり、基本性能は実際の戦場で用いられるものと遜色ない。

 ――当然、船内空間という状況下において対抗出来る戦力は存在しなかった。


 二つある艦内通路への入り口の内、上部。

 その扉をロケットで吹き飛ばすと、入り口脇にアンカーで張り付いたマトリョシカは、大口径の重機関銃を入り口に突っ込み撒き散らす。ただ無作為にばら撒くだけで敵は顔も出せない。ただの宇宙服などそこから吐き出される対シールド徹甲弾の威力からすればあってないようなものであった。

 下のドアからも数名、近場にいたクルーが顔を覗かせるものの、バックパックから展開された火器による制圧射撃で為す術もなく通路へ引っ込む。マトリョシカは歩兵などでは全く太刀打ち出来ないほどの火力を有していた。


「……誰が頭のイカレた運び屋よ」

 

 艦内放送の言葉を不機嫌そうに聞きながらコックピットを開き、リズベットはポンコツと共に外へ出る。それからマトリョシカの背面から軽機関銃を手に取りつつ、左腰に吸着爆弾を貼り付ける。

 そしてポンコツにレーザーガンと手提げのウェポンバッグを手渡すと、マトリョシカがスモークグレネードを中へと放り込んだ。


「最低限の仕事くらいは期待してる」

「はい!」


 クルールームの配置やリラグゼーションルーム、ウェポンベイの拡張などの改造を行なうものはいても、基幹部分そのものを入れ替えるような無駄な大改造を施す人間はいない。脳や心臓を手足に移動させるようなもの――仮に奇特な人間がやろうと思っても、そこには莫大な費用が掛かる。

 この『スパルタン』は最後尾から順に、貨物エリア、居住エリア、基幹エリア、コントロールエリアに分かれていた。概ね三階層で、メインジェネレーターの位置は基幹エリアの上層部、三階部分に存在する。二人の目的地も当然ながらそこ――狙いはメインジェネレーターの権限奪取であった。

 

 メインとなる艦内通路は各階層左右に二本。戦闘艦であっても、船内での白兵戦闘というものは想定されていない。そもそも秒速何千mという速度で飛び回る船にどうやって敵が乗り込んでくるのか、と利便性が重視されている。防犯用のレーザータレット程度は存在しているが、想定しているのは精々ハンドガン程度で武装した相手。完全武装の人間を制圧出来るような代物ではない。

 

 艦内へと入ると左手の壁に磁気アンカーを撃ち込み、ポンコツの手を掴み左の通路へ。左手の通路には二人いたが、反応は遅く、得物はシールドもまともに抜けない護身用程度のハンドガン。無視して良かった。


「わ……っ!?」


 その背後へ更にアンカーを貼り付けると、リズベットは構わず通路を一気に前へと進む。取り残されたポンコツが銃撃を受けて悲鳴を上げるが、強化外骨格というべき装甲は抜けず、リズベットにも当たらない。横を通り抜けながらスラスターで反転。軽機関銃で二人の足を撃ち抜いて無力化。居住エリアと基幹エリアを分ける扉を壁破壊用の吸着爆弾――ドアノッカーで破壊しながら、出来た穴の先へと再びアンカー。ポンコツにもアンカーを貼り付け、引き寄せ、ジェネレータールームのある通路に差し掛かると、壁を蹴って左右に通る通路内へ。


 ダメージコントロール用の隔壁が締まるのはそのタイミングであった。

 反応が遅いのは慌てたか、わざとか。下手に閉じ込め、マトリョシカで真正面から大穴を空けられるのを嫌ったのかも知れない。


 監視カメラを撃ち抜くと、ジェネレータールームのドアにドアノッカーを貼り付け、すぐさま起爆。

 中は二重構造。目配せすると、ポンコツはウェポンバッグをその場に置き、更に内側のドアをレーザーガンで切り開いていく。まさか対消滅反応炉の扉を吹き飛ばす訳には行かない。一歩間違えば全員纏めてあの世行きだった。

 通路に残ったリズベットの左右には隔壁、そして正面には居住区に繋がる扉。


『どんな手で来るかと思えばぶったまげたぜ! まさか船に堂々乗り込んでの白兵戦かよ、あんたはいつの時代の海賊なんだ?』


 艦内放送で声が響く。オープンチャンネルであった。


『こんな馬鹿な真似をしないで済むよう、逃げ切れるなら一番だったんだけどね。サンダーボルトレースはどうやらわたしの負けみたい』

『ハッ、よく言うぜ。勝負で言うならとっくの昔にダブルスコアであんたの勝ちだ。あんたと会ってから何度惚れ直したか分からねぇ』


 目を細める。拡張された聴覚で周囲に船員が集まってきているのを感じていた。

 対面にある居住区画へ、ウェポンバックから壁破壊用の爆弾――ドアノッカーを貼り付ける。そして両サイドの隔壁に向けて、大量の散弾を吐き出すレトロな指向性の対人地雷をセット。ウェポンバッグを左肩に担いだ。


『反応炉にはこっちのポンコツがアクセスしてる。船ごと沈めてノーサイドゲームってことにも出来るけど、お互いそれは望みじゃない。でしょ?』

『受けるしかねぇ状況だな。ルールは何だ?』

『皆で楽しくタグでもしましょ。鬼はあなた達で、逃げるのはわたし。権限を奪取される前に、わたしを仕留めきることが出来ればゲームセット』


 あんたとことんイカレてるぜ、とダグは愉快そうに笑った。


『庭でたっぷり遊んだ後は、家の中でパーティーとはな。楽しませてくれるじゃねぇか。おーけー、分かった。乗ろうじゃねぇか』


 中の扉を抜いたポンコツと目が合い頷くと、彼女はそのままその中へ。


『折角の大きな家だもの、遊ぶなら広々駆け回りたいかしら』

『隔壁で封じ込めなんざケチな真似はしないさ。数はともかく正々堂々腕っ節で受けてやる。あんたが勝てば無罪放免まっさらだ。これだけ大口を叩いたからには三分と保たずギブアップなんざやめてくれよ』

『一つ教えてあげましょうか?』

『あん?』


 リズベットは笑みを浮かべて口にした。


『――わたしの専門は船じゃなくてこっちなの』


 告げると同時、居住区へのドアを吹き飛ばし、壁を蹴って中へと突っ込む。敵は虚を突かれた男が三人と、ドアごと吹き飛ばされた男が一人。銃を向けられる前に三人の足を撃ち抜きながらカメラを破壊。床にウェポンバッグのドアノッカーを投げつけながら、左手首のアンカーを天井に射出、足裏で天井へと着地し起爆。

 床を抜くと一気に中階層へと移動する。

 

 無重力下において天地左右は存在しない。そしてリズベットは生まれつきの兵士であり、少数での敵地潜入と破壊工作、白兵戦を幼少から叩き込まれた。宙賊という機械混じりの『素人』とは、特殊環境における戦闘スキルがそもそも違う。

 無重力下で実弾兵器を使用しながら、反動を考慮し運動する。リズベットのあらゆる能力は白兵戦闘における瞬間的処理のために最適化されていた。


 中階層はどうやら食堂で、上の部屋はリラグゼーションルーム。

 カメラの視界に入った瞬間それを破壊し、天井の穴に放り込むのは腰のフラッシュグレネード。そしてすぐさま上のリラグゼーションルームへ。

 別の通路から中に入った数人の間抜けは、強烈な光でカメラや目を焼かれ、リズベットは天井に立ちながらその足に機関銃をばら撒いた。多少殺してしまう程度は仕方ないが、多少の配慮はしたという事実は残した方が都合が良い。命までは奪おうとしなかったという事実は、それなりに好印象を与えるもの。終わった後に難癖を付けられる可能性もそれだけで随分と減る。

 そして死人ではなく負傷者であれば、敵はその救護に手を割かざるを得ない。


 手足が吹き飛んだところで、よほど運が悪ければ早々死なないもの。宙賊は大抵何かしらの改造は受けているもので、血流程度は操作も出来る。サイボーグでなくとも、普通の人間よりは多少丈夫であった。

 そうでなかったものがいたなら不憫だが、とはいえリズベットの知るところではないだろう。


 更に下へとドアノッカーを放り上げて風穴を。

 戦闘の基本は退路の確保。選択の自由をこちらが得ること。

 勝利するまで仕切り直して、主導権を奪わせないこと。


 ただそれだけで、特に難しい事はない。

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― 新着の感想 ―
うぉおおお床抜きィ!
実に痛快な一話だった。 宇宙一の運び屋が、敵艦に誰も受け取りを拒否できない、最も致命的な積み荷を届けたww
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