第8話 特攻の里歌
「そっその制服、皆さんもしかして姐さんのご学友の方ですか? 情けねー所を見せちまってお恥ずかしい限りです。
自分、姐さんのチームで特攻隊長やらせていただいております、姓は富川、名は里歌、人呼んで特攻の里歌と申します。以後お見知りおきを」
立ち上がるや否や、中腰になると左手を腰に当て、右の掌をこちらに向けて見える様に差し出した変な姿勢で中等部の富川さんが自己紹介をした。
「チ。チームって?」
「うちら、ここいら一帯を〆てる、硬派レディース羅美庵……もがっ」
「ちょっ、馬鹿リカッ!」矢島さんが慌てた様子で富川さんの口を塞ぐ。
「あのー、矢島さん。もう手遅れかも」そう言ってルリちゃんが矢島さんが腕に引っかけてる薄っぺらい鞄を指差す。
鞄には『~暴走天使~川崎羅美庵薔薇』と書かれたステッカーが貼られていた。
「いや、こりゃーその……なんつーか」
富川さんに絡んでいた三人の不良達(女の子だからスケ番って言うのかな?)は矢島さんの登場で蜘蛛の子を散らすように逃げて行き、立ち止まって野次馬の様に私達を遠巻きから傍観していた通行人達もすっかり居なくなって、辺りは静かになって……。
「静かになってって! 遅刻しちゃうよ!」
「あ、やっべ!」
「お……、おっ昼休み! 続きはお昼休みに話しませんか?」ルリちゃんの提案に皆んな首を縦に振る。そしてその為にはまずは正門が閉まる前に学園まで辿り着かねば。始業時間は中等部も同じ筈。私達四人は慌てて駆け出した。
お嬢様学園のうちの高校は、昼食を食べていい場所が限られている。その中でも周囲へ気兼ねなく、話をしながらお弁当を食べられる場所は屋外にある噴水広場の一箇所しかない。特に示し合わせる事もなく、お昼休みになると皆んなで集合した。
「朝はありがとうございました」と、中等部の富川さんが深々と頭を下げる。
「私からも礼を言う。こいつとはガキの頃からの付き合いで妹みてーなもんなんだ。あいつら寄りにもよってリカが一人の時を狙ってきやがって」
「あの子達って知り合いなの?」
「うちらとあいつらはシマが近いこともあってよくぶつかるんだよ」
「島……って?」
「姐さんが総長を務める羅美庵薔薇は川崎のチームで、今朝のあいつらは相模原の玄人姿勢、あと神奈川には横浜の漆黒月姫と横須賀の天婦太亞ってチームがあるんス。神奈川のレデースは主にこの四大勢力に分かれてるんス」
「四大勢力っつっても、羅美庵薔薇と玄人姿勢は総勢20名にも満たねーけどな。少なめに見積もっても50人はいる漆黒月姫なんかと正面からやり合ったら一溜まりもねーよ」
「その、横須賀の天ぷらとかって所は何人くらいなの?」
「天婦太亞ッスね。あそこは9人しかいないんスけど、あいつら絶対に横須賀から出ねーもんで、他のチームとカチ合うことがねーんスよ」
「但し、いざ横須賀に他チームが入ってきた日にゃあいつら容赦ねーけどな。今の天婦太亞は三代目なんだけど。むかーし、東京のレディースが連合組んで神奈川まで攻めてきた事があってさ。横浜漆黒月姫の二代目はそん時に一度潰されちまったんだけど、その後横須賀に攻め込んでいった東京連合を返り討ちにして壊滅寸前まで追い込んだのが、当時5人しかいなかった初代天婦太亞なんだよ」
「だから今日みたいな小競り合いを繰り返してるのは羅美庵薔薇と玄人姿勢ぐらいのもんスね」
「じゃあ富川さんっていつもあんな子達に絡まれてるの?」早々にお弁当を食べ終えたルリちゃんが心配そうに聞いた。
「あ、いや、通学途中に出くわしたのは今日が初めてっス。あと、今日はたまたま自分一人だったもんで狙われちゃったのかもです。いつもは総長が一緒なんで」
「改めてうちの後輩が迷惑かけてすまなかった。あとついでと言っちゃ悪ぃんだけど、……その、この事、うちらがレディースやってるって事は内緒にしてといてくれねーかな? もし学園にでも知られて退学にでもなったらマズイんだよ」
ルリちゃんと顔を見合わせると、彼女が優しく微笑む。ルリちゃんも私と同じ気持ちのようだ。
「もちろん! せっかく仲良くなった友達がクラスからいなくなっちゃうなんて嫌だもの」
「友だ……、さんきゅ」
最後の方はボソボソと俯いたまま呟いた久美ちゃんは顔だけじゃなく、耳たぶまで真っ赤に染まっていた。




