第5話 ドキドキ健康診断!
「……依然として目撃情報など有力な手がかりも無く……」
ご飯の時にはテレビを観ちゃダメっていうのが我が家の暗黙のルール。
でもお母さんが朝ご飯の時だけでもニュースを見なさい! って言うから、キッチンのテレビでは毎朝モーニングショーが流れている。
今日も最近話題になっている行方不明者の続報。今月頭に県内で最初の行方不明者が出て、それだけだったら珍しくもなんともない良くある(本当はこんな事件なんて起こって欲しくないけど)ニュースだった。そしてそれから一週間もしないうちに同じ市内で新たに二人目の行方不明者が出たもんだから大騒ぎになっちゃって。
ご近所のおばさま達も隣町でおきた神隠し事件だって毎日井戸端会議。
「私? 私は大丈夫だよ!」
「そうそう、昨日早速友達出来たんだよ!」
「あ、そろそろ出なきゃ! 遅刻しちゃう!」
お母さんも私が神隠し事件に巻き込まれちゃわないかって心配みたい。実は私、昨日から魔法少女になっちゃったから心配ご無用! ……なーんて、絶対に言えないけどねっ。
「いってきまーす!」
学校までの道のりをヒイロと話しながら歩く。
(ねぇヒイロ、隣町に私が行って誘拐犯を懲らしめちゃうってのはどう? そういうのって魔法少女の役目でしょ?)
(ケイトは勘違いしているようだけど、君がE-デバイスで強化できるのは僕のボディが存在しているこっち側、パラスペース内だけだ)
(えーっ! そんなのつまんないー!)
(本来、侵略者たちがパラスペースからそちら側に出て来る前に倒すのが君の……)
「ケイトちゃん!」
学校が近付いてきた頃、後ろから声を掛けられた。この声はルリちゃんだ!
(ヤバっ、ヒイロッまたねっ!)
「ルリちゃん! おっはよー!」
「ケイトちゃん朝から元気だねー。私は今日の健康診断が憂鬱で仕方ないよー」
「えっ、今日って健康診断だったっけ?」
「そうだよー! 始業式の最後にも学年主任の先生が言ってたし、ホームルームで担任の先生も言ってたでしょ?」
(ヤッバ。始業式の間ずっとヒイロと話してて聞いてなかったし、ホームルームはホームルームで疲れてボーッとしてた。……首の後ろに付いてる変身ブローチ、バレないよね)
「急に浮かない顔してどうしたの? 体調悪いの?」
「ううん! 元気!元気!元気!、……なんだけど。実は昨日会ったばかりのクラスのみんなの前で下着になるのがちょっと恥ずかしいかなぁって」
「それならジャージ着てればいいんじゃない?」
「え? いいの?」
きょとん顔の私にルリちゃんが呆れ顔で説明してくれた。
始業式もホームルームもちゃんと先生の話を聞いていたルリちゃんによると、健康診断と身体測定と明日の体力テストはジャージでもオッケイなんだって。なんでも数年前から最近の世の中の風潮に合わせているんだとか。
体調悪いとかじゃなくって心配の方が強かったんだけど、ジャージを着て上までチャックを閉めちゃえば隠し通せそう。
「それなら恥ずかしくないか。あれ? じゃあなんでルリちゃんは憂鬱なの?」
「私は小さい頃から視力検査が苦手で。周りの人があんなのも見えないの? って影で言ってるんじゃないかっていつも不安で」ルリちゃんの分厚い眼鏡の隙間にきらりと光る粒が見えた。