第094話 あと2人
正直に言おう。今、俺は凄く混乱している。
由衣達が何故俺の部屋に来ているのかはこの際どうでもいい。
それよりも、協会本部にいるはずのレヴィ カールソンが何故ここにいるのかの方が問題だ。
何も聞いてないぞ。
というか何で鍵持ってるんだ。
ドアを開け放した後、固まってしまっていた俺に、レヴィさんが「お〜真聡!お邪魔してるよ」と手を振ってくる。
「いや……何でいるんですか。というか、どうやって入ったんですか」
「焔さんから鍵を預かったんだ。会う人がいるから先に行っててくれって」
やっぱりあの人のせいか。
謎は解けた。だが……
「じゃあ何で連絡くれなかったんです」
「……あれ、焔さんと会ってないのか?」
俺の口から、大きなため息が出た。
……焔さんは本当にどこに行ったんだ。
しかし、混乱しているのは俺だけではなかった。
「まー君……この人……誰?」
当然、レヴィさんと初対面の由衣、志郎、智陽の3人の方が混乱していた。
☆☆☆
「つまり、この人が私達のギアを作ってくれたって人?」
「じゃあ君達が真聡の新しい仲間か!」
「えぇ……まぁ……」
とりあえず、俺は3人を部屋に入れた。
そしてレヴィさんの説明を軽くした。
レヴィ カールソン。俺の協力者の1人で協会所属の魔道具職人。つ
まりレプリギアを作ってくれたのはこの人だ。
そして、智陽が作った設計図を送った相手もこの人だ。
そんなレヴィさんは向かいのソファーに座ってる3人を見てから、「もしかして……」と聞いてきた。
「今日1人欠席か?」
確かに、今のメンバーは5人だ。
今日いないのは……。
「鈴保は」
「部活だって〜」
由衣が少し不満そうにそう言った。
……部活でいないのは仕方ないだろ。
そんなことを思いながら、俺は「用事だそうです」とレヴィさんへの問いに答える。
それで、もう1つ気になるのは。
「お前らは何しに来た」
「いやぁ……それは……」
由衣がそう呟きながら、俺から目線を逸らした。
まぁ言い出したのは由衣だろうからな。
さて、どうやって聞き出すか……。
そう考えていると、智陽が口を開いた。
「せっかくもう1人の幼馴染と再会できたのに、みんな用事があるって帰ったから寂しいんだって。だから真聡はどうせ何か調べ物だろうから突撃したら」
「ちーちゃん何で全部言うの!?というかそこまで言ってない!!」
由衣が怒りながら智陽の言葉を遮った。
物理的にも口を塞ごうとして失敗したらしい。智陽は今、頬を引っ張られている。
そして志郎はそれを見て笑っている。
智陽の性格も変わったな……いや、言い合いしてる場合ではない。
俺は「やめろ、仮にも人の前だぞ」と言葉を投げて、言い合い2人組を止める。
その言葉で、3人……というか主に由衣と智陽が座りなおした。
「自己紹介をしろ」
「はい!牡羊座に選ばれた白上 由衣です!よろしくお願いします!」
「平原 志郎、選ばれたのは獅子座っす!」
「華山 智陽です。色々あって、情報収集担当しています」
3人の高校生の自己紹介にレヴィさんは「よろしくな」と返す。
そして智陽の方を見て「それで……」と呟いた。
「君は戦ってないの?」
「はい」
「……真聡、あと2人は?」
「2人?」
待て、どういうことだ。
来てないのは蠍座に選ばれた砂山 鈴保だけだ。
そもそもレプリギアは3つしか受け取ってない。恐らく今から渡してくれるはずのでやっと4つ目だ。
そして今居るのは2人、ここに居ない鈴保を入れても3人。
だがレヴィさんの話だと、レプリギアの使用者が《《既に》》4人存在することになる。
レプリギアの数が合わない。
俺は疑問をそのまま口にする。
「今、星座に選ばれているのは俺を入れて4人です。
それに俺はレプリギアを合計3つしか受け取ってません」
「あれ?焔さんに最初に3つ渡したんだが……」
「はい?」
最初の頃……確か素材は連休前半に送った。
そして届いたのは中間考査が終わってからだった。
あのときは2つしか受け取っていない。
そしてその2つは今、由衣と志郎が使っている。
しかし、レヴィさんは最初に3つ渡したと言っていた。
……確かに送ってからレプリギアが来るのが遅いと思っていた。
それを3つ作っていたから遅くなったと考えると……納得はいく。
そしてあのときレプリギアを持ってきたのは……焔さんだ。
加えて最近、堕ち星ではない何者かが動いている。
飛ばしてきたのは矢。
つまり、矢に関係する星座に選ばれた神遺保持者がこの街にいる可能性がある。
その瞬間、2つの疑問が繋がった。
「焔さん……何か隠してるな……」
「真聡、受け取ってなかったのか」
どうやら最後の言葉が口から出てしまったらしく、レヴィさんが聞き返してきた。
「……はい。最近全く来ないと思ったら…あの人は何をやってるんだ……」
そこに、志郎が「なぁ真聡」と言葉を投げてきた。
「焔さんって誰だ?」
「私も知らない。誰?」
「あぁ焔さんってのはね……」
その言葉を始めに、由衣が焔さんに会ったことのない2人に対して説明を始める。
……まぁ、任せていいだろう。
俺は説明を由衣に任せて、レヴィさんと別の話を始める。
レヴィさんを頼るつもりだったし、いつ来るかわからない焔さんを当てにするよりよっぽどいい。
「前に話したスタンガンなんですが……」
「そうそう!それも受け取りに来たんだよ!」
「お願いします」
話が早くて助かる。
俺はスタンガンが入ったケースを取りに行く。
そして座っていたレヴィさんの隣のソファーに戻る。
ケースを渡すとレヴィさんは目の前のノートパソコンを横に置いて、スタンガンのケースを開けて中身を確認し始めた。
そして「3つか……」と呟いた。
「真聡、1個持っておいてくれないか?」
「いや、使いませんけど……」
「もしも、ということがあるかもしれないだろ?
それにお前はいらなくても他のやつには必要なことがある」
「はぁ……」
「まぁ、僕としては2つあれば十分だから。それは好きに改造しちゃってくれ」
雑すぎるだろ。
知ってはいたが改めてそんな感想が浮かんできた。
しかし腕は確かだ。文句を言っても仕方ない。
返された1つのスタンガンは……手が空いたときに考えよう。
そこに由衣が「さっきから思ってたんですけど……」と言葉を投げてきた。
どうやら焔さんについての話が終わったらしい。
「レヴィさんって日本語上手なんですね!」
「あぁ、違う違う」
そう言いながら、レヴィさんは首からかけているペンダントを触った。
「ボクハ、コレデ、ニホンゴハナシテル」
「「えぇ!?」」
由衣と志郎の驚く声が重なり、部屋に響いた。