第093話 怪事件
学校を飛び出した俺は、住宅街を急ぎ足で進んでいた。
別件で呼び出されていたのに、変に時間を食ってしまった。
由衣の誘いを断っても良かった。
だけど、佑希に変な誤解を与えたくなかったので応じることにした。
あと断ると後々由衣に文句を言われそうとも思ったのもある。
そもそも、突然現れた幼馴染の児島 佑希。
俺はあいつの話に違和感を持った。
いや、大事な懐かしい友人ではある。
それに喋ってみた感じは、記憶の中の佑希と変わらない。
しかし、やはり違和感が拭えなかった。
何か、隠しているような違和感。
この違和感を拭えない以上、星鎧や堕ち星の話はしたくないのが本音だ。
そんな事を考えながら歩いていると、俺は目的地に着いていた。
星雲市警察署。
俺は今日、超常事件捜査班の丸岡刑事に呼び出されていた。
建物に入り、受付で名前と要件を言ってしばらく待つ。
すると数分後、丸岡刑事が階段で降りてきた。
挨拶と遅れたことの謝罪をした後、俺は丸岡刑事に連れられて移動する。
階段を上り、案内された部屋。
そこは前にも使った部屋だった。
その部屋の中では末松刑事が資料の用意をしていた。
そして俺が言われた椅子に座ると、2人の刑事もそれぞれ椅子に座った。
「さて……じゃあ始めるか。
今回呼んだのは他でもない、警察で捜査している事件で堕ち星が関わっている可能性が浮上した。内容的には怪事件だ」
恐らくそうだろうと思って来たので、丸岡刑事の言葉には驚きはしなかった。
しかし、俺の方から協力を頼むことは何度もあったが超常事件捜査班の方からの頼みは珍しい。
堕ち星に至っては初めてだ。
「どのくらい関わってそうなんですか」
「ほぼ確定だ。初めは窃盗事件として捜査していたんだが、先日傷害事件が発生してな。被害者の傷と、窃盗事件の現場にあった傷が一致した訳だ」
丸岡刑事は机の上に写真を並べた。
その写真には、明らかに人のものとは思えない爪痕が映っていた。
コンクリートや金属製のシャッターに刻まれた、深く、鋭いもので切り付けたような痕。
まず最初に、一瞬だけ動物の爪痕かと考えた。
この街の付近に熊などの動物は……生息しているかわからないが、事件現場はどうやらほとんどが街中らしい。
すなわち動物が原因ならば街中での目撃情報があるはずだ。
しかし、そういった情報は寄せられてないようだ。
つまり、人を襲う何かがこの街にいるということだ。
俺が呼び出された以上、常識では考えられない事件なのだろう。
まぁそもそも、コンクリートや金属に爪痕を残せるのは普通の動物じゃないだろう。
堕ち星か、はたまた遺幻種や怪異か。
これだけだとまだわからない。
どちらにせよ魔術師であり神遺保持者である俺の仕事ではあるだろう。
……本当は秘匿守衛隊の仕事のはずだが。
とにかく、そう考えた俺は詳しい話を聞くことにした。
☆☆☆
「では、今日はこれで失礼します」
「おう。話した件、頼むぞ。基本は末松になるが、何かあれば俺にも連絡してくれ」
「ありがとうございます」
俺は下まで見送りに来てくれた丸岡刑事に礼を言って、星雲市警察署を後にする。
歩きながら先程聞いた話を整理する。
まず、この怪事件は8月中旬から起きていた。
初めは店舗侵入事件や窃盗事件が点々と。
被害店舗のカメラに人間の姿は映っていなかった。
しかし、例の爪痕や防犯カメラに黒い生物の姿が確認されたため、警察は捜査をしていたそうだ。
だが気になる点は防犯カメラには姿が映っていなかったり、逆に複数映っていたりと正確な数が把握できないことだ。
だから丸岡刑事は俺に話をすることにしたらしい。
そしてその後も窃盗事件は点々と起きていたがつい先日、ついに被害者が出た。
被害者はこの街の中学に通う3年生の男子生徒。
被害生徒は「化け物にやられた」と証言しているらしい。
その証言が確かならやはり犯人は堕ち星だろうか。
いや。遺幻種や怪異など、その他の存在の可能性もある。
……この街にいるかわからないが。
今後の行動方針としては、明日末松刑事と共に窃盗被害にあった店舗の爪痕を確認に行くことになった。
堕ち星が犯人なら爪痕から澱みの残滓が確認できるかもしれない。
もし犯人が堕ち星なら相手は誰だ?
爪がある生き物の星座……。
小獅子、獅子は既に回収してある。
それなら……小熊座、大熊座か?
もしそうならばかなり厄介だ。トレミー48星座が相手ならば強敵の可能性が高い。
あと他にあり得るなら……山猫か?
……いや、情報が少ない今は考えても仕方はない。
今日のところはとりあえず……智陽に相談してみるか。
あいつなら何か噂を掴んでるかもしれない。
一通り整理を終えた頃にはもう既に、自分の家として使っているビルの近くだった。
もう少しなので、少しだけ歩く速度を上げた。
☆☆☆
ビルに辿り着いて階段を上がっていると、何やら人の話し声が聞こえる。
他の階に来客が来ているのか?
しかし、階を上がるごとに声は大きく、そして聞き覚えがある声であることが分かった。
もしや……と思いながらさらに階段を上がる。
そして、辿り着いた5階のドア前には驚きの光景が繰り広げられていた。
それを見た俺は、思わず「……何してるんだお前ら」と呟いてしまった。
「あ、まー君……」
「お〜遅かったな」
俺の声に振り返って、そう言葉を投げてきた由衣と志郎。
そう。
ドア前には由衣、志郎、智陽がいた。
……いや、何してるんだこいつら。
と言うか、俺が声をかけるまでドアを少し開けて中を覗いていたよな?
「……ドア、開いてるのか」
「何か開いてるし……誰かいるの」
「は?」
誰かいるって……ここの鍵は俺と焔さんしか持っていない。
そして由衣は焔さんと面識がある。焔さんなら焔さんと言うだろう。
……じゃあ誰がいるんだ?
俺は自分の家なので遠慮なく扉を開ける。
部屋の中には金髪の男がソファーに座って、テーブルにノートパソコンを開いている。
そしてその男は、ドアを開けた音で気づいてこちらを向いて口を開いた。
「お〜真聡!お邪魔してるよ」
「いや……何でここにいるんですか」
そこにはこの街にいるはずのない協力者、レヴィ カールソンがいた。