第078話 監禁生活
「簡単だったなぁ!?」
「でも1つずつしか手に入ってないぞ?」
「いーんだよ!1つでも手に入ればこれを餌におびき寄せて残りを奪えばいいんだからな!」
ガラの悪い男達の、品のない笑い声がマンションの1室に響く。
この3人の男たちにこの部屋に連れてこられて何日経っただろう。
わからない。頭がぼーっとする。
ご飯はたまにコンビニのおにぎりやパンを中心に与えられる。
でも1日に1回か2回、そして毎回満腹になるほどは与えられてない。
やっぱりこれは栄養失調になってるんだと思う。
水分も中途半端にしか与えられないし。
でも与えられるだけ。あとトイレにもしっかり行かせてくれるだけ、この男達は良心的なのかもしれない。
その他のときは両手を後ろに縛られているけど。
そして、さらにその拘束はテーブルの足に繋がれていて身動きが取れない
私、華山 智陽はこのガラの悪い男たちに誘拐され、監禁されていた。
理由はわからない。
だけど、鎧のガキ共……陰星達を誘き出せと言われた。
そこから考えると、恐らくこの男達は陰星達の星座の力を狙っているんだと思う。
私は「無理」と言った。
しかし男達には「痛い目にあいたくなければやれ」と言われた。
流石にいざそんなことを言われると怖かった。
なので私は、澱みが現れた場所を連絡する度に男達に伝えていた。
そして今日、ついに奪えたらしい。
奪えるようなものじゃないと思うんだけど……。
私は色々と考えてみる。
でも陰星達からしっかりと星座の力について教えてもらっていないのと、思考が纏まらないので考えるのをやめた。
……だけど、私はやる事をやった。
報酬を貰わないと。
私は勇気を出して、男達の話し声に負けない大きさで声をかける。
男達が振り向いた。
注意が引けたので、私は要求を伝える。
「奪えたなら、父のことを教えて。それと解放して」
「はぁ?父親?何の話だ?」
私の中に、殴られたような衝撃が走った。
聞いていた話と違う。
私はただ誘拐されたわけじゃない。今ここに居るのも訳がある。
それは指定された場所に行けば、私のお父さんのことを教えるとスマホにメッセージが来たから。
だけど、その場所に行ったらこの男達が居て誘拐されてしまった。
私が怖くても我慢できていたのは、お父さんの行方を知りたかったから。
でも今、その最後の希望が消えた。
私はそれが信じられなくて、口から「だって……」と言葉が漏れる。
「だって、『その2つが奪えるようにしろ』って言いましたよね。
そうしたら『父のことを教えてくれる』ってことじゃないんですか!?」
「父親?知らねぇよ!
俺達は『この2つを4つ持ってくれば金をやる』って言われただけだからな!」
「こいつは無理だって言ったけど簡単だったよな!」
「あぁ!このスタンガン当てるだけで終わったもんな!銃まで貰ったけどいらなかったな!」
男達はまた品のない笑い声をあげる。
こんな人間、現実にもいるんだ……創作物の中だけじゃないんだ……。
……私は、騙されていたんだ。
気付けば私の頬には涙が伝っていた。
悔しいのもある。でも精神的にも、もう限界だった。
そんな私に男達が近づいてくる。
「お?泣いちゃった?可哀想にねぇ」
「助けも来ないしな!親に見捨てられたか?」
「良く見りゃそこそこ可愛い顔してるなぁ?」
「いっそのことヤッちまうか?」
「おいおい、まだ残り3つ奪うときに呼び出してもらうために働いてもらわないと困るだろ」
「別にここまで来たらもう変わらんだろ!すでに1つ奪ってるんだからよ」
男達はそんな会話をしながら、さらに近付いてくる。
やめて。
来ないで。
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ!!!!
「んじゃまぁ……ヤるか!」
男達の手が私に迫る。
そのときだった。
玄関の方で金属が吹き飛ぶような音がした。
その音に、男達全員の視線は玄関の方を向いた。
誰かの足音が聞こえてくる。
「随分と楽しそうだな?」
「お、お前!さっきの!」
その声と共に現れたのは、陰星 真聡だった。
なんで陰星が?どうしてここがわかったの?
考えようとするけどやっぱり頭がぼーっとする。
入ってきた彼が、一瞬私の方を見た。
そしてすぐに視線は再び男達の方に戻った。
男達は動揺しながらも「お前!」と陰星に圧をかけたいのか叫んだ。
「あのスタンガンで気絶しただろ!何でここがわかった!」
「気絶なんてしてない。気絶した《《フリ》》だ。そんなのも見分けつかないのか」
「は?でもお前のこれは俺たちが持ってる!
お前は何もできないガキだ!大人しく残り3つを渡せば命だけは助けてやるぞ?」
そう言いながら、男の1人が陰星がギアとプレートと呼んでいるものを手で持って、見せびらかしている。
それを見た陰星はため息をついた。
「お前ら、この状況でまだ自分たちが優位だと思ってるのか」
「何だと?」
陰星が左手をお腹の上で右から左へとなぞる。
するとギアが男の手元から消え去り、陰星のお腹に巻かれた。
次に陰星が左手を肩の高さほどで掲げると、プレートも消えた。
そして彼の手の中に再び現れた。
「つまり、お前達は無駄な事をしてたってことだ」
「このガキ……!!!」
そう叫んだ後、男の1人がスタンガンを持って陰星に突撃する。
陰星は男を避け、スタンガンを持った腕を掴む。
さらにその手を背中側に回して拘束した。
男は肩の可動域以上に腕を曲げられて悲鳴を上げている。
そのとき。
「ふざけんなよ!!!!」
もう1人の男がそう叫ぶと同時に、渇いた破裂音が室内に響いた。
拳銃から銃弾が発射された。
その銃弾は真っ直ぐに陰星の後頭部を目掛けて飛んでいく。
しかし、その銃弾は陰星の伸ばした左手の前で勢いを失い、地面に落ちた。
拳銃を持った男は「何だよ……何だよお前!」と叫びながら、必死に残弾全てを陰星向かって放つ。
でも残念ながら、全ての銃弾が陰星の左手の前で落下した。
「大人しくしてろよ」
そう言うと陰星は右手で押さえている男を突き飛ばして、両手をそれぞれの男に向けて伸ばす。
「縛れ」
その言葉と同時に、2人の男の足元のフローリングから蔓が伸びて男達を縛り上げた。
それを見た残された男は私に近づいてくる。
そして私の両腕の拘束とテーブルの足に繋いでいた縄を解いた。
「ほら立て!」
私は無理やり立たされ連れて行かれる。
咄嗟に「やめて!」と叫ぶけど、抵抗なんてできない。
相手は大人の男。勝てるはずがない。
そして私は腕を後ろで掴まれて、スタンガンを首に当てられた。
男は私を連れたまま、他の2人を押さえつけている陰星に「おいガキ!」と叫ぶ。
「こいつがどうなってもいいのか!」
「あ?」
陰星が私の方を見る。
男は笑いながら「何もできねぇよなぁ!?」と陰星に言葉を投げる。
「正義のヒーローはみんなを助けねぇといかねぇもんなぁ!?ほら、両手を上げて跪け!」
「私は……いいから……」
反射的に口から強がった言葉が出た。
嘘。助けて欲しい。
でも陰星がここで捕まると、きっと他の3人も捕まる。
いや、平原ならなんとか出来…やっぱり無理そう。
平原は人が良すぎる。
私を助けようとして、陰星よりも酷い目に合う未来しか見えない。
それに、それ以前に、私は陰星に助けて貰うような人じゃない。
だって私は、彼を利用しようとしていたから。
だけど、この状況を見た陰星の口からはまたため息が漏れた。
「お前、本当におめでたいやつのようだな?」
「何だと……?」
「この状況でまだ自分が優位だと思ってるのか?これ、さっきも言ったよな?」
陰星は普通に立った状態で、今は何もしていない。
……男2人は蔓に縛られたままだけど。
それなのに、凄い圧があった。
男の声は「じゃ、じゃあ」と少し震えている。
だけど、まだ諦めてないみたい。
「お前はこの女がどうなってもいいのか!?」
「そんなこと一言も言ってねぇだろ。
喧嘩売るなら相手をよく見ろって言ってんだよ」
次の瞬間。私と男の周囲から蔓が伸びてきた。
蔓は器用に私を避けて、男だけに絡みつく。
私の首元に当てられているスタンガンはその途中、1本の蔓によって男の手から落とされ、地面を転がた。
解放された私は急いで男から離れ、壁際に逃げる。
「引き倒せ」
陰星のその言葉で、さらに男の背中側から蔓が伸びてくる。
その蔓により男はリビングのフローリングに、仰向けに倒された。
「おい!!正義のヒーローがこんな事をして良いのかよ!?」
「俺は盗まれたものを取り返しに来ただけだ。
そうしたらお前達が俺に襲いかかってきたから俺は正当防衛しただけだ」
最後に陰星は、「……それと、俺は正義のヒーローではない」と小さな声で呟いた。
その後。
陰星はスマホを取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。
「陰星です。制圧完了しました。人質は無事です。突入お願いします」
電話が繋がったみたいで、陰星の口からそんな言葉が聞こえた。
その言葉を聞いて、男の1人が「ガキ!お前何をした!」と叫ぶ。
「警察を呼んだだけだ。逃げようとしても無駄だぞ。
まず俺が逃さねぇし、逃げたとしても既に包囲されているからな」
陰星が言い切ると同時に、沢山の足音が聞こえてきた。
そしてその足音はこの部屋に入ってきた。
「警察だ!全員大人しくしろ!」
武装をした警察官が複数人は行って来て、部屋にそんな声が響く。
こうして、私は監禁生活から解放された。