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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
5節 逃げるか、逃げないか
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第071話 戦いたくない

 砂山さやま 鈴保すずほは、あれから1時間も経たずに動けるようになった。

 そのため砂山を含めた俺達5人は学校を出て、俺の家に移動してきた。


 その道中、砂山は普通に動くことができたいた。


 まるで今日、蠍座の概念体に襲われたことも、気絶したこともなかったかのように。


 そのため、俺は砂山が倒れた理由を「毒ではなく、蠍座に選ばれたためだった」と結論付けることにした。


 おそらく、身体が星力に適応する際の副作用。

 現代の人間は神遺に慣れていないから、そういうこともあるのだろう。


 ……前例がないので、推測で話すしかないが。


 そして今は、由衣ゆい志郎しろうが砂山に砂山の身体に起きたことや星座騎士について、そして澱みや堕ち星についての説明を行っている。

 一方、俺は予備のレプリギアを砂山が喚び出せるように調整を行っている。


 だが作業をしていても、由衣の元気な声が耳に入ってくる。


「で、今やってるのがギアをどこでも喚び出せるようにしてくれてるの!」

「はぁ……」


 まぁ、いきなり説明されてもそんな反応になるよな。

 砂山の気持ちもわかる。



 ……やはり、全部を伝えると情報過多だよな。



 だから、由衣にも黙っているのが正しいはずだ。



 ちなみに華山はなやまも黙ってはいるが、ちゃんと居る。

 ずっとスマホを見ているが。


 そして、ようやく召喚魔法の調整が終わった。


「終わったぞ」

「ほんと!?」


 由衣はそのまま、「ほらやってみて!こう!」とお腹の上に手をかざし自分のレプリギアを喚び出してみせた。


「……何?……こう?」


 砂山がそう呟きながら、由衣と同じようにお腹の上に手をかざす。

 するとレプリギアが消えて砂山のお腹に巻かれる。


 そこまで距離が移動したわけじゃないが、きちんと転送された。


「よし。これでいいな」

「……つまり私も戦えってこと?

 私……戦いたくはないんだけど」


 その一言で場の空気が凍りついた。



 由衣と志郎は驚きの表情のまま固まっている。



 ……そんなに衝撃を受けることか?



 しかし、由衣はすぐに我に返ったのか「で、でも」と口を開いた。


「せっかく蠍座に選ばれて、澱みとか堕ち星と戦えるようになったんだしさ?

 私達としても一緒に戦ってくれたら嬉しいんだけど……」

「せっかくって何?私はそもそも怪物と関わりたくもないの。

 今日は梨奈りなを守るために前に出ただけ。それなのに『戦う力を与えられた』なんて迷惑なんだけど。

 ……それに私は、赤の他人のために自分の人生とか命とか投げ出せない」


 由衣は困った表情のまま、口から「え、えぇ〜〜………」と何とも言えない声を発している。

 反論ができないようだ。


 そして志郎も同じように困ってるのか頭をかいている。


 まぁ、この2人は自分で望んで戦いに飛び込んできたからな。

 巻き込まれた側の気持ちは分からないだろう。


 仕方ない。

 というか、この2人には任せていられない。

 俺はそう思い、自分の考えを口にする。


「別に戦いたくないなら戦わなくて良いぞ」

「まー君!?」

「砂山の言うことはもっともだ。というか普通はこう言うだろう。

 人間、自分の人生を生き抜くので手一杯なのが普通だ。それなのに『自分の命とか人生とか二の次にして人の命守れ』だなんて、本当にどうかしてる。

 ………お前らだって無理に戦わなくて良いんだぞ」


 またしても、部屋の空気が凍りついた。


 ……何だ、俺は何か変なこと言ったか?


 次に口を開いたのは由衣だった。


「えっと………まー君……それは………冗談?」


 あぁ。そこか。


 ……やっぱり、この2人は戦うつもりでいるのか。


 それを確信した俺は「……冗談だ」と返す。


「だよね!?びっくりしたぁ……」

「お前も冗談とか言うんだな……」


 ……別に冗談ではないんだが。


 だが、ここでモメると面倒なことになるのは目に見えたので誤魔化すことにした。


「……『絶対戦え』とか言わないんだ」

「言わない。俺をなんだと思ってる」

「……口悪男」


 その一言に由衣、志郎、華山は吹き出すように笑い出した。


 やっぱり、ここには失礼なやつしかいないのか?

 しかし、気にしても無駄なので俺は無視して話を続ける。


「……だが悪いが、選ばれた人間から星座の力を切り離す方法はわからない。

 だからその方法がわかるまではそのままでいてもらうぞ」

「……左手もこのまま?」

「それは隠す。応急処置みたいなもんだが。左手、触るぞ」

「うん」


 了承がもらえたので俺は砂山の隣に移動する。


 俺は自分の左手の上に砂山の左手を乗せ、右手をその上にかざす。

 そして言葉を紡ぐ。


「蠍の座に選ばれた証である星座紋章。その存在、そしてその事実を。何人たりとも視る事、識る事、認識する事叶わず」


 すると砂山の左手の甲から星座紋章が見えなくなった。


「……え、どうなってるの?」

「強めの認識阻害の術をかけた。これで誰からも見えない。

 特に砂山が選ばれたという事実を知らない他人。つまりここにいる5人以外には左手の甲に星座紋章があることすら認識できないはずだ。

 ただ、見えないだけで星座に選ばれたという事実も繋がりも消えたわけではない。それだけは覚えておいてくれ。

 蠍座の力を借りようとすると今の術は効果がなくなり、星座紋章が出てくるからな」


 説明をし終えた後、砂山は数秒程固まってから「……つまり?」と呟いた。


 ……できるだけわかりやすく説明したつもりだったが、難しかっただろうか。


 困っていると、志郎が「あ~……つまり」と口を開いた。


「つまりだな?今まで通り普通に生活してたら問題ない……ってことだよな?」

「あぁ。今まで通りに生活する分には問題がないはずだ」


 それを聞いた砂山は「な〜んだ」と呟いた後、大きく息を吐いた。

 どうやら安心したらしい。


「で……帰っていい?」

「え、鈴保ちゃん帰っちゃうの!?」


 砂山は、残念そうな声を上げる由衣から俺に視線を向けた。


「……陰星いんせい、帰っていい?」

「あぁ。必ず伝えないといけないことは伝えたからな。好きにしろ。

 ただ、もし身体に違和感を覚えたら連絡しろ。それと澱みや堕ち星を見かけてもな」

「……わかった」


 そう言った後、砂山は鞄を持って立ち上がる。

 そして「じゃ」とだけ言い残して、部屋の扉を開けて帰っていった。


 静かな部屋に、扉がゆっくりと閉まる音が響く。


 その後、一番最初に口を開いたのは由衣だった。


「……ねぇ本当に良かったの?」

「俺も人数増えた方が助かると思うんだけどなぁ〜」

「……本人が戦いたくないと言ってるんだ。無理強いができない。

 それに無理やり戦わせて足引っ張られても困る」


 そう言い切ってから、俺はソファーの背もたれに身体を預ける。

 他の3人はそのまま何か話してるが、耳に入ってこない。



 現状、へび座とからす座の堕ち星が倒せなくて困っている。

 それに加えて、早急に砂山から蠍座の力を分離する方法を考える必要ができた。


 ……この問題は、今は後回しにするつもりだったんだがな。


 そしてたださえこの街に戻ってきた理由である、魔力の異常の手がかりすら掴めていないのに。


 それにさっきの戦い。

 あの澱みの湧き方はおかしい。


 澱みの発生原因の最有力説は地球に溜まった人間の負の感情だ。

 しかし人類70億人以上いるが、4月からの3ヶ月間で1つの街にこれだけ湧くのは流石に何かがおかしい。


 これだけ澱みが人型で湧くのは異常事態だ。

 そもそも澱みは人型を取らない。


 それに加えてあの人影と矢の雨。


 あれは明らかに星力を帯びていた攻撃だった。

 あの矢を撃ったのは何者だ?


 ……考える事が多すぎる。


「あ〜………頭が痛ぇ」


 思わず、そんな言葉が口から零れ落ちた。



 だが幸運な事に、この呟きは誰にも届かなかったらしい。


 部屋には、ただ3人の高校生の話し声だけが響いていた。

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