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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
5節 逃げるか、逃げないか
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第069話 私のやりたいこと

 時間は少し戻り、陰星いんせい 真聡まさと達が屋上の扉の前で情報共有していた頃。


☆☆☆


 教室には午後からの部活に備えて昼を食べてる生徒たちの話し声が響いている。

 聞こえてくるのは遊びに行く相談や、夏休みに何をするかといった内容。


 私はそんな教室に用事もないのにまだ残っていた。

 教室にいるのも嫌だったけど、家に帰る気にもならなかった。



 夏休み。



 やりたいこと。



 昨日、平原ひらはらと話したときからずっと自分のやりたいことを考えていた。


 でも結局、槍投げに戻ってきてしまった。


 だけど「本当にまたやりたいのか」という疑問が私の中にあった。



 それは梨奈りな颯馬そうまと会いたくないからか。



 また怪我するのが怖いからか。



 それとも、本当にもうしたくないのか。



 理由はわからないけど、行動を起こす気になれなかった。


 だけど、学校にいても仕方ない。

 また梨奈とか颯馬に捕まって喧嘩を売られるなんて絶対に嫌だ。


 私は中身がほとんど入ってない鞄を持って、教室を出る。


 とりあえず学校を出よう。

 いつものように、街中を歩こう。


 そう考えながら、下駄箱へ向かうために渡り廊下を進む。



 そして階段に差し掛かったそのとき。



 悲鳴が聞こえた。




 思わず足が止まる。



 ……また怪物が出たんだ。



 最悪。もう関わりたくないんだけど。



 2回目にして少し慣れ始めてる自分がいた。



 でもまぁ、噂は前から聞いていたし。



 とりあえず、鉢合わせたくないから何とか避けて帰ろう。



 そう思ったとき、今度は誰かの話し声が聞こえた。


「また校内に怪物が出ましたよ!」

「2日連続じゃないですか!田村先生、どうなってるんですか!」

「もう既に陰星が戦ってますんで」

「そもそも、生徒に戦わせるのはどうなんですか!」

「それは田村先生ではなく、理事長の判断なので……」


 そしてため息が聞こえた。


 今のは先生同士の会話だよね。


 ……でも私には関係ない。

 さっさと帰ろう。


 再び下駄箱に向けて歩き出そうとしたとき、今度は「先生!」と叫ぶ女子生徒の聞こえた。


「先生!昨日襲われた人が、怪我をしてて逃げ遅れてるんです!」

「どこでだ!?」

「こっちです!」


 その会話を最後に、話し声と足音が遠ざかっていく。



 《《昨日襲われた人》》



 《《怪我をしてて》》



 ……きっと梨奈だ。

 やっぱり昨日、私を庇ったときに怪我をしてたんだ。



 次の瞬間。私は走り出していた。



 その行き先は下駄箱ではなく、遠ざかった音を追いかけて。



 途中で階段の踊り場にある窓から外を見る。



 予想通り、梨奈が昨日の巨大蠍に追い詰められているのが見えた。



 ……このままだと、梨奈が危ない。



 それはわかってる。



 でも私はもう怪物とは関わりたくない。



 それに平原や陰星がいる。私が行く必要はない。



 でも……本当に?



 友達が怪物に襲われている。

 それを私は、見てるだけでいいの?



 梨奈は昨日、怪我をしてでも私を助けてくれた。 



 なのに、私は何もしなくていいの?



 私の、やりたいことは何?



「……あぁもう!!!」



 私は階段を駆け下りて、再び走り出す。


 途中で何故か立てかけてある箒を手に取る。代わりに自分の鞄を投げる。

 そして、校舎の扉付近で集まっている先生達をかき分けて、外に飛び出す。


 梨奈は強大蠍に壁際に追い詰められている。


 そしてもうすでに、尻尾が梨奈に狙いを定めている。


 鎧を着たやつが3人いるけど、全員別の怪物と戦っている。

 誰も間に合いそうにない。


 私はさらに力を込めて、地面を蹴る。



 間に合え。



 間に合え。



 間に合え!!!!



 そして私は、梨奈に向けて振り下ろされる尻尾を、勢いよく箒で殴る。


 巨大蠍は驚いたのか後ろに下がった。


 私はそのまま巨大蠍と梨奈の間に入る。

 すると背中に、梨奈の「鈴保すずほ……!?どうして……?」という驚いた声が飛んでくる。


「……私は、颯馬の言う通りずっと逃げてた。大事なときに怪我して、3年間の努力が無駄になったって思った。そう思ったら、もう何もかも嫌になった。

 そしたら学校に行く気力もなくなった。たまに行っても梨奈も颯馬もほとんど話しかけてこないから、私には本当に何もないんだと思った。もう私たちは友達じゃないんだって。

 だけど昨日、梨奈は私を庇ってくれた。足を怪我してでも。だから、今度は私が梨奈を助ける。

 私は、もう1回ちゃんと梨奈と話したい。これが、今の私のやりたいこと!」


 巨大な蠍をから目を離さず、思ってることを全部口にする。



 考えてたって、後悔したって、腐ってたって始まらない。



 前に進みたいなら行動を起こさないと始まらない。



 それにもし、人は役目を果たすまで死ねないのなら。



 まだ私の何か役目があるならここでは死なないはず。



 ここで死んだら、梨奈を助けることが私の役目だったってこと。



 ……それはそれで悪くないと思った。

 だってどちらにしても、前に進むには何かをしないといけないんだから。



 巨大蠍が近づいてきた。

 そして尻尾がもう一度振り下ろされる。


 私は持っている箒でその尻尾をもう一度弾き返そうとする。



 だけど、避けられた。



 逆に巨大蠍は、器用に尻尾で箒を奪い取った。


 箒が呆気なく宙を舞う。



 そして、もう1度尻尾が振り下ろされる。



 流石に、もう無理。

 でも、私が避けたら梨奈が危ない。


 そう考えた私は、反射的に両手で頭を守る。



 次の瞬間。

 左手が刺された感じがした。



 そして左手に感じる激痛。

 その激痛は全身に広がっていく。



 私の口から言葉にならない悲鳴が漏れ出す。



 目が回る。



 全身が痛い。



 痛すぎて身体の感覚が変。



 梨奈が何か言っている。



 でも、私には何を言ってるか理解ができなかった。




 そして視界に青空が映った直後、私の視界は暗転した。

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