第068話 間に合わない
屋上に続く扉の前でまー君から星座概念体の説明を聞いていたその時。
遠くに聞こえる生徒の声に交じって、小さくだけど悲鳴が聞こえた。
まー君は聞こえた感じから校舎内ではないと思ったみたい。
私達の間をすり抜けて、屋上へ飛び出して行く。
私達3人も慌てて後を追って、日差しがじりじりと降り注ぐ屋上に飛び出す。
出たときは既に、まー君は手すりから身を乗り出して下を見ていた。
私達も横に並んで、同じように屋上の手すりから身を乗り出して、下を覗く。
すると、昨日の蠍座の概念体が地上で暴れているのが目に入った。
部室棟側から食堂の方に移動しながら、とりあえず暴れてるって感じ。
その光景を見た私は反射的に「あれ!昨日の!」と叫ぶ。
「噂をすると……ってやつか?」
志郎君がそう呟いたとき、視界の右端に違和感を覚えた。
右を見ると、まー君はちょうど手すりを飛び越えた後だった。
思わず私は「何してるの!?」と叫ぶ。
同時に志郎君と智陽ちゃんの驚いてる声も聞こえる。
だけどまー君は、私達の心配なんてよそに綺麗に着地した。
そして、まー君の身体は光に包まれる。
……何あれ、どうなってるの?
着地した時生身だったよね?まだ星鎧生成してなかったよね?
混乱している間に光は晴れて、星鎧に身を包んだまー君の姿が見えた。
まー君はそのまま蠍座に向かっていく。
もしかして、おかしいのは私?普通はできるの?
……なんかもうわからなくなってきた。
そんなまだ混乱している私の耳に、「お、俺達も行くぞ!」という志郎君の声が聞こえた。
私は我に返って左にいる志郎君の方を向く。
するとそんな志郎君も手すりを飛び越える準備をしていた。
「や、やっぱりそれで行くの!?」
「いや、普通無理だから。私達は階段で行くよ」
そう言った智陽ちゃんは、既に屋上の校舎内への扉の側にいた。
……そうだよね。普通無理だよね。
私は謎の安心感を覚えながら、駆け足で校舎内に戻った。
☆☆☆
1階まで降りて、食堂近くの出入り口から校舎の外に出る。
智陽ちゃんは危ないから、校舎内に残るみたい。
そして、まー君はまだ蠍座と戦っていた。
でも周りには、他に人の姿はない。
とりあえず手伝うために私達もギアを喚び出して、生成したプレートをギアに挿し込む。
そのとき。
また沢山の澱みが湧き出した。
「昨日もこうだったよな!?」
「……ってことは!?」
次の瞬間。辺りに風が強く吹いた。
私と志郎君は腕で顔を守る。
でも何が起こったかを知るために、薄目で辺りを見る。
どうやら風はまー君が起こしたらしい。
そして、「また邪魔しに来たのか」という声が聞こえてきた。
風も収まったので、腕を下ろしてまー君が見ている方を見る。
すると、ちょうどからす座が地面に降り立ったところだった。
「悪いね、山羊座君。でも……俺は俺の仕事をしに来てるだけなんだよね。
まぁつまり……お互いがお互いの邪魔してるんだよね!」
その言葉と同時に、からす座はまー君に突っ込んでいく。
まー君はそれを避けて、水を生成して撃ち返した。
そして、そこからまー君とからす座の戦いが始まった。
まー君を手伝いたい。でも蠍座も何とかしないといけない。
そもそも私達は澱みに囲まれている。
「とりあえず澱みから行くぞ!」
志郎君の言葉に「だね!」と返して、いつもの手順を取る。
「「星鎧生装!」」
その言葉と同時に、ギアの上部のボタンを押す。
そして、2人の高校生は光に包まれる。
光の中で、私の身体は紺色のアンダースーツと紺色と赤色の鎧に身を包む。
そして、光が晴れる。
晴れると同時に、私達は近くの澱みに攻撃を始める。
殴って蹴って、襲ってくる澱みを避けて、攻撃して消滅させていく。
そうやって、澱みを3体ほど減らしたとき。また悲鳴が響いた。
悲鳴が聞こえた方を見ると、今度は梨奈ちゃんが蠍座に襲われて尻餅をついていた。
蠍座ははじわじわと梨奈ちゃんに近づいていく。
梨奈ちゃんは少し左足を庇いながらも、逃げようと後ずさっている。
やっぱり蠍座に誰も行かないのは駄目だった。
……いや、さっきまで誰も居なかったのに何で梨奈ちゃんがいるの!?
それよりもとりあえず、助けないといけない。
でもまー君はからす座と戦ってるし、私達はまだ澱みが半分くらい残ってる。
……だけど、このままじゃ駄目だよね。
私は覚悟を決めて「志郎君!行って!」と叫ぶ。
志郎君は少し迷いながらも、「……おう!」と返事をして走り出した。
途中で武器を生成しながら。
そして私は近くの澱みに殴り掛かる。
私よりも志郎君の方が足速いはずだし、距離が近い戦いも上手。
それに私は牡羊座の力は1人で戦うのは向いていないし。
まだ残ってるとはいえ、相手は澱み。
だから私1人でも大丈夫。
それよりも梨奈ちゃんを助けないと。
澱みと戦いながらも、心配なので志郎君達の方に視線を向ける。
ちょうどそのとき、志郎君の前にさら澱みが現れた。
志郎君は走ってる勢いのまま澱みを殴り飛ばす。
だけど、このままだと間に合わない。
その予感は、残念ながら当たってしまった。
誰も間に合わず、蠍座の尻尾は梨奈ちゃんを目掛けて振り下ろされた。