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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
5節 逃げるか、逃げないか
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第060話 ほっといてよ

 星鎧を纏ったままで住宅街を走る。

 あまりこの姿で戦闘以外の行動をしたくないのだが、今回は状況が状況だ。


 巨大な蠍が現れ、どこかへ消えた。

 神遺の概念体が野放しなのは、とても不味い状況だ。


 しかし、まだそう遠くへは行ってないはずだ。

 俺はわずかに蠍が残していったと思われる、星力の残滓を頼りに本体の居場所を探す。


 あれの正体はおそらく蠍座の概念体だろう。

 星力が集まり、形を成している存在。


 だが何故12星座である蠍座の概念体が現れた?

 何が狙いだ?


 いや、それ以前に星座概念体はわからないことだらけだ。

 今回の件で何かわかるといいのだが……。



 考えながら移動していると、また悲鳴が聞こえた。

 大きさ的に、ここから遠くない。



 そう考えながら、俺は悲鳴が聞こえた方向に走りだす。


 高校を出たときから周りの視線は感じていた。

 今さら気にすることはない。


 そして路地を曲がると、探していた現場を見つけた。

 状況としては星芒せいぼう高校の制服を着た金髪の女子生徒が蠍座概念体に襲われている。


 そして、また尻尾が振り下ろされようとしている。


 俺は地面を蹴って、跳ぶ。そして蠍座の横をすり抜ける。

 そして、女子生徒の前に着地して尻尾を掴んで受け止める。


 だが受け止めたものの体勢が悪く、尻尾の先が右腕に触れてしまった。


 星鎧にじわじわと深紅色のシミができ始めた。

 俺は急いで抗毒魔術を無詠唱で使用する。


 毒を食らってピンチになるのもうゴメンだ。

 さっさと蠍座を倒さなければ。


 俺は全力で魔術を発動するべく、言葉を紡ぐ。


「火よ。人類の文明の象徴たる火よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、荒ぶる蠍の座をも焼き尽くす炎となれ!」


 俺の両手から炎が燃え上がり始めた。

 今は蠍座の尻尾を掴んでいるので、当然その炎は蠍座に牙を剥く。


 深紅のシミと炎が混じり、どれが毒でどれが炎かわからなくなる。


 そして蠍座は、概念体とはいえやはり熱いらしい。

 俺を振りほどこうと尻尾をブンブンと振り回す。左右に前後に上下に尻尾が暴れる。


 尻尾から手を離せばいい。

 だが、周りに住宅があるここでは派手に魔術などは撃てない。


 そのため俺は尻尾から手を離さず、尻尾を掴んで燃やし続ける。

 そして俺の身体は尻尾に釣られて宙を舞う。


 風を切る音が聞こえ、星鎧を風が撫でているのを感じる。

 だが、手は離さない。

 蠍座の概念体を維持する力が無くなれば俺の勝ちのはずだ。



 そして掴み続けて数十秒。

 突然、尻尾が蠍座の頭からお尻側へ勢い良く振られた。


 流石の勢いに耐え切れず、手を離してしまった。

 俺の身体は遠心力と共に吹き飛んで地面を転がる。



 ……しまった。

 飛ばされるまでは考えていたが、真後ろに転がるのは予想外だった。


 慌てて立ち上がるが、俺と女子生徒の間には蠍座が居る。


 このままだと女子生徒が危ない。

 ……いっそのこと、足元を狙って魔術を撃つか?


 そう思ったとき。蠍座は深紅の光を放ちながら、地面に溶けるように消えていった。


 辺りに住宅街の静寂が戻ってくる。

 もう蠍座の星力も感じられない。


 ……どうやら完全に逃げられたらしい。


 そう思った瞬間、星鎧が消滅した。

 抗毒魔術を使っていたため、星鎧を維持できるほどの星力がもうないらしい。


 まぁ今回は戦闘が終了したので影響はないが。

 ただ右腕は少し痛む。


 だがそれは後だ。


 とりあえず、俺は女子生徒の方へ向かって歩き出す。


 金髪の女子生徒は既に立ち上がっていた。

 というか前に会った事がある気がする。


「怪我は」

「……何で助けたの」


 思わず「は?」と言いそうになるのを飲み込む。


 別に礼が欲しくてやってるわけではない。

 しかし怪我の有無を聞いたのにこっちが責められると「は?」とも言いたくなる。


 「助けないほうが良かったのか?」と口を開きかけたとき。

 後ろから俺の名前を呼ぶ騒がしい声が聞こえてきた。


 どうやら追いついてきたようだ。


「やっと追いついた……ってもう終わってるね……」

真聡まさと、大丈夫か……って砂山?」

平原ひらはら……?何、あんたもこいつの仲間なの?」


 砂山と言う名前を聞いてようやく思い出した。

 この金髪の女子生徒は砂山さやま 鈴保すずほ。体育祭で志郎しろうを呼びに来ていたな。

 

 星芒学園は一応髪を染めてても校則違反ではない学校だが、基本的に染めてるやつはいない。

 だからこそ金髪は印象に残っていた。


 ……つまりさっき由衣ゆいが止めようとした喧嘩をしてたのはこいつか。

 無言で記憶を辿っていると砂山の矛先が俺に向いた。


「で、あんた。何で助けたの」

「……お前を助けたわけじゃない。怪物に襲われているやつがいたから助けただけだ。何だ、助けて欲しくなかったのか?」


 砂山からの返答はない。

 その代わりか、由衣が「何で喧嘩腰なの!?」って言ってくるので「事実を言っただけだ」と返す。


 俺は喧嘩をしてるつもりも喧嘩をするつもりもない。

 もし喧嘩売ってるならそれは向こうだ。


 そして数十秒ほど経って、砂山がようやく「……助けなんて頼んでない」と呟いた。

 その言葉に志郎しろうが「いや砂山」と言い返す。


「お前死ぬところだったんだぞ?その言い方はどうなんだよ……」

「別に。死んだっていい。むしろそっちの方が良い。」

「ちょっと何言ってるの!?」


 由衣の言葉が住宅街に少し響く。


 「《《死んだっていい》》」……か。


 その言葉を聞いた俺は、無意識に口を開いていた。


「……本当に死にたいと思うなら、怪物に襲われて死ぬなんて不確定な方法を選ぶよりも、身投げや首吊りなど確実に死ねる方法が良いんじゃないか?」

「いやまー君も何言ってるの!?」

「それを選ばないってことは、死ぬのが怖いんじゃないのか?」

「うっさい!ほっといてよ!」


 砂山の悲痛な叫びが住宅街に響く。

 砂山の怒りをひしひしと感じる。


 だけど、俺はその怒りの中心で燃えているのは、別の炎のように感じた。


 何より、俺自身が怒りを抑えられなかった。


「あぁ。お前がどうしようが俺は知らん。好きにしろ。

 俺はただ怪物に襲われている人がいたら助ける。それが誰であろうと、自分の人生を終わらせて欲しいって願ってる人であろうともな。

 それにお前、本当は死にたいとは思ってないだろ。どちらかと言うと《《ただ》》全部が嫌になってるだけだろ」

「うっさい!!!あんたに私の何がわかるのよ!!!」


 砂山はそう吐き捨てた後、走り去っていった。

 怒りを感じる背中が路地を曲がって消えていく。


 ……こいつがもし、蠍座に狙われているなら毎回こんな遣り取りをするのか?


 面倒なやつだと考えているとき。

 突然、背中と頭に痛みを感じた。


 その痛みで振り返ると由衣と志郎が凄まじい形相で立っていた。

 そして間髪入れず、由衣の「何考えてんの!?」という声が飛んできた。


「何がだよ」

「砂山の口も悪かったが、真聡もなんてこと言ってるんだよ!?」

「あ?」

「死にたがってる人に死ぬことを進めるようなこと言う?」


 華山はなやまも2人の後ろにいたらしく、会話に参加してきた。


 こいつら、俺が最後に言った言葉を聞いてなかったのか?

 仕方なく俺は自分の発言の理由を口にする。


「さっきも言ったが、砂山 鈴保……だっけか。あいつはたぶん、本当に『死にたい』なんて思ってないぞ」

「「え?」」

「あいつの目は、死のうと思ってるやつの目じゃなかった。あれはどっちかと言うと、何かを諦めきれてない目だ。だからあいつは自殺なんてしない」


 そもそも、本当に死にたいのなら概念体を見て逃げないだろう。

 逃げるということはまだ生きていたいと思っている証拠だ。


 それに俺は、前にもっと自分の人生に絶望してるやつを見ている。

 そいつと比べると砂山 鈴保はまだ生きることに未練が多そうだ。


 しかし、由衣は納得できないのか「いや、そんなのでわかんないでしょ!?」と食いついている。


 ……ここで言い争いをしても仕方ないだろ。


 俺はため息をついてから、「それにな」と口を開く。


「人間は産まれたからには大なり小なり何かしらの役目がある。その役目が終わらない以上死にたいと思っても死ねないんだよ。何故か生きることになる。

 例え、どれだけ死にたいと思っても『あの日あの時死ねたらよかったのに』と思ってもな」

「……何だよそれ。それにそれは結果論だろ。

 この後、砂山に何かあったら、お前のせいになるんだぞ!」


 志郎までもか。

 俺は少し呆れながらも「死なねぇよ、あいつは」と言葉を返す。


「何でそんな自信満々に言えんだよ……。

 ……とにかく、俺は砂山を探しに行くからな」

「私も行く」

「好きにしろ。俺はすることがあるから帰る」


 由衣と志郎は、引き続き文句を言ってる。

 しかし、俺は気にせず自分の家に向けて歩き出した。


 少し、痺れがまだ残る右腕と共に。

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