表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
3節 戦えない誰かのために
49/223

第048話 俺の兄貴だ!

「……怪物になった俺にお前は確か、なぜ空手を始めたかって聞いたよな。

 原因は……父親だ。

 俺の父親は立派な人なんかじゃない……酷い人だったんだ。働かず、昼間から家で酒をずっと飲んでいて外出したかと思うと、『パチンコで負けた』とか言って金をよこせと母さんを殴るような酷い父親だった。

 だから、母さんは俺が小学生に上がる頃に俺と妹を連れて家を出たんだ。

 でも俺は、あのときの記憶が忘れられなかった。あのときの恐怖がずっと俺の中にあったんだ。

 そんなとき、お前の家の空手道場を知ったんだ。俺は自分が強くなれば、恐怖が消えると思った。強くなれば、母さんと妹を守れると思ったんだ。

 それが、俺が空手を始めた理由だ」


 その言葉で、勝二兄しょうじにいは話を締めくくった。


 勝二兄の家族がそんなに大変だったんて、思ってもいなかった。


 ……だけど、やっぱり勝二兄だって優しいじゃねぇか。


「……じゃあ、勝二兄も俺と同じじゃねぇか。誰かを守りたいから空手を始めたんだろ?やっぱり勝二兄は優しい勝二兄のままだって」

「でも俺は……怪物になった。人を襲った」


 勝二兄は相変わらず、重い口調でそう言った。


 ……言葉が届いているのか不安になる。


 でも。今の言葉だと、勝二兄は堕ち星に成った理由を覚えているのか?


 そう思った俺は、恐る恐る口を開く。


「……なぁ、何で怪物になったんだ?突然なるわけじゃないだろ?」

「……覚えてないんだ」


 俺の予想と反対の言葉に、思わず「覚えてない?」と聞き返す。

 勝二兄は「……あぁ」と静かに言葉を返してきた。


 でも、このままだと勝二兄はずっと罪悪感を背負うことになるよな。


 それに、真聡まさとに「成果なし」って言わないといけなくなる。


 俺は再び恐る恐る口を開く。


「……怪物に成る前とかは何か覚えてねぇの?

 もし覚えてるなら、何があったかとか聞かせて欲しいんだけど……。もちろん、無理にとは言わないけどよ……」


 勝二兄は相変わらず窓の外を見てる。

 顔が見えないからどういう感情なのか、やっぱりわかんねぇ。


 でも勝二兄はぽつりぽつりと話してくれた。


「……1週間ちょっと前の大学の帰り道。突然俺の前に父親が現れたんだ。

 あいつはすぐに俺だと気が付いて、因縁をつけてきた。俺はあいつを母さんと妹に近づかせたなくて必死に反論した。すると痺れを切らして殴り掛かってきたんだ。

 今度こそ、あいつから母さんと妹を守ろうと、俺は必死に抵抗した。

 だけど父親は強かった。落ちてる物を拾って武器として使ってくるし、首などの急所を確実に狙ってきた。

 それでも俺が抵抗していると人が集まってきて、警察も呼ばれたんだ。するとあいつは逃げていった。

 そのとき、俺は思ったんだ。『俺ってまだまだ弱いんだな』って。

 その後からは……あんまり覚えていないんだ。だけど気が付いたら……怪物になってたんだ」


 俺が最後に勝二兄を見たときは、全然いつも通りだった。


 つまり、その日以降に父親に襲われて、堕ち星に成った……ってことだよな。


 だけど、勝二兄はちゃんとした記憶がない。


 ……だったら。

 

「……全身鱗の怪物に覚えはないか?」

「……誰かと話した記憶はあるんだけど……それがどんなやつかは覚えていないんだ」

「そうか……。俺は全身鱗の怪物に無理やり力を与えられそうになったから、勝二兄もかと思ったけど……覚えてないのか……」


 俺があのときそうだったから、もしやと思ったけど……残念ながら違うらしい。

 どうしたらいいのか悩んでいると、勝二兄は「志郎しろうも……?」と呟いた。


「あぁ。でもいらねぇって抵抗したのに、何故か力が手に入った。真聡は選ばれたって言ってけど……」

「やっぱり、お前は強いな。俺とは全然違う……」


 考えれることはした。手は尽くした。

 だけど勝二兄は落ち込んだまんまだし、堕ち星に成ったときのことを思い出せない。


 じれったくなってしまった俺は、「だぁぁぁもう!!」と叫びながら立ち上がる。

 そして、ベッドの反対側に周って勝二兄の正面に立つ。


「俺は!ずっと勝二兄の強さとか優しさに憧れて、ずっと追いかけてきた!それは勝二兄がどうであろうとも、怪物になろうともその日々は消えねぇ!

 もしまた勝二兄がおかしくなったら今度も俺が止める!勝二兄はいつまでも俺の兄貴だ!

 それに、話聞いた感じ勝二兄は悪くねぇだろ!

 悪いのは大事な家族に酷いことをする父親と、心の弱みに付け込んで勝二兄を怪物にしたやつだ!だから勝二兄は悪くねぇ!

 だからもう……自分のこと責めるのやめてくれよ……」


 俺はつい、思っていること全部をぶつけてしまった。


 勝二兄は下を向いていて返事はない。


 ……やってしまったかもしれねぇ。


 内心不安になっていると、ようやく勝二兄は口を開いた。


「……でもお前に酷いことを言って、お前を殺そうとした事実も消えない。

 ……それでも、志郎は俺のことを兄貴って言ってくれるのか?」

「だから言ってるだろ!勝二兄はいつまでも俺の兄貴だって!

 俺と勝二兄の絆は1回怪物になったぐらいじゃ壊れねぇよ。

 だからまた、俺に稽古つけてくれよ。な?」

「……どっちかと言うと俺が稽古をつけられるんじゃないのか?」


 そう呟いた勝二兄の顔には、ようやく笑顔が戻っていた。


 一安心した俺も思わず笑顔になる。


 そして俺は勝二兄と戦って、思っていたことを言葉にする。


「でも勝二兄。あの足癖で反撃を誘って、そこからさらに反撃するのは流石だと思ったぜ?俺にはとっさにあんな賢いことできねぇよ」

「……ありがとな。

 でもあの癖、そろそろ直さないとなぁ」


 勝二兄は少し声を出して笑う。

 俺も釣られて笑う。


 病室には少し控えめの2人の笑い声が響いた。


☆☆☆


 その後はしばらく世間話ってやつをした。勝二兄の大学生活や俺の高校生活の話を。


 まぁ、俺の高校生活の大半は真聡と由衣ゆいの話なんだけど。

 俺は噂のせいで他の生徒にはなんとなく避けられてるから。


 そして、面会終了時間が迫ってきたので俺は帰る準備をする。


「じゃあ勝二兄、また来るからな」

「志郎も忙しいだろ。無理に来なくていいから。」

「……まぁ、時間があれば来るから。あ、でも退院が決まったら連絡してくれよな!」

「あぁ」


 俺は扉を開け、病室の外に出る。


 すると、閉める前に勝二兄が「志郎」と俺を呼んだ。


「お?」

「お前、いい友達を持ったな。大事にしろよ」

「……あぁ」


 返事をした後、扉を閉めて辺りを見回す。


 廊下は静かで、誰もいない。


 ……真聡と由衣はどこにいるんだ?


 落ち合う場所も時間も決めてなかった。

 とりあえず俺はスマホを聞く。


 すると「終わったから1階の待合で座ってるよ〜!」と由衣からのメッセージが来ていた。


 俺は1階に降りて2人と合流して、病院を後にする。


 病院を出て少し歩いてから、ようやく真聡が口を開いた。


「何か情報を得られたか」

「何で先にそっちを聞くの?」

「あ〜……いや。堕ち星なった原因とかはわからなかった。誰かと話したとは言ってたけどよく覚えてないらしい」

「そうか。こっちと同じか」


 その言葉を最後に、真聡は口を閉じてしまった。


 そんな真聡を見て、由衣が「も~」と呟く。

 

「で、勝二さんはどうだった?仲直りはできた?」

「あぁ、具合は良さそうだった。仲直りもしっかりしてきた」

「良かった〜!やったね!」


 そう言いながら由衣が拳を出してくるので、グータッチをする。

 そんなやり取りをしてる間にも真聡は1人で先に歩いていってる。


 気が付いた由衣は走って追いかけて、何か文句を言ってる。



 そのとき、自分の中に疑問が生まれた。



 思わず立ち止まって考える。


 すると心配した由衣が戻ってきて話しかけてきた。


「志郎君?どうしたの?悩み事?

 ……まさか実は勝二さんと仲直りできてないとか!?」

「違う違う。ただ……俺はこの先もお前たちと居ていいのか?」


 俺の質問を受けて、由衣の口からは「へ?」と少し気の抜ける声が出た。


「だって俺は、勝二兄を元に戻すために戦い方を教えてもらった。

 で、勝二兄が元に戻った今。俺はこれからも2人と共に戦い続けて良いのか?」

「お前『俺が戦えば誰かが助かる』って言ったくせに、勝二さんを元に戻したらそれで終わるつもりだったのか?」


 いつの間にか由衣の隣まで戻ってきていた真聡がそう聞き返してきた。

 少しキツイ言い方に由衣が「言い方……」とツッコむ。


「でも、まー君の言う通りだよ!

 私はこれからも一緒に戦ってくれると思ってたよ?」


 真聡の目は真っ直ぐ俺を見ている。

 由衣は少しわかってないような顔で俺を見てる。



 ……俺はもうちゃんと仲間だったんだな。



「……これからもよろしく頼むな」

「もっちろん!こちらこそ改めてよろしくね!」


 由衣は笑顔でそう言ってくれた。


 一方、真聡は既に駅に向かてって歩き始めている。


 そんな真聡を由衣は追いかけていった。

 そして2人はまた何やら言い合いをしている。


 ……この光景も安心感を覚えてきたな。


 いや、置いて行かれるわ。これ。


 俺は少し走って真聡と由衣に追いかける。


 すると2人の言い合いが聞こえてきた。


「だからさ、やっぱりせっかくここまで来たんだしさ、どこか寄っていこうよ!改めて志郎君の歓迎会を兼ねてさ!」

「必要ない。帰るぞ」

「え〜!?ねぇ、志郎君からもなんとか言ってよ!」


 いきなり俺に話が飛んできた。

 ちょっと驚いて、思わず足が止まった。


「俺?いやぁ……俺は別にどっちでも……」

「なんでぇ〜!?」

「ほら帰るぞ」

「え、ちょっと待ってよ!?」


 俺達はまた1人で先に駅に向かって歩く、真聡を追いかける。



 ようやく、高校生活が始まった。なんとなく感じた、そんな気持ちと共に。



 ちなみにこの後、結局寄り道することになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ