第047話 面会
勝二兄との戦いが終わった数日後。
勝二兄が目を覚ましたと真聡が教えてくれた。
勝二兄は元の人間に戻ってから、ずっと意識が戻ってなかった。
ずっと心配だった俺は、真聡に合わせてくれと頼み込んだ。
するとその日の夕方には「面会許可が取れた」と言ってくれた。
普段はちょっとあれだけど……優しいよな。あいつ。
そして休日の今日。
俺達は電車で星雲市から数駅離れた街にある警察病院へ向かっている。
「やっぱり本物の都会って違うよねぇ〜!!」
「……今日は面会と情報収集に来たんだ。遊びに来た訳じゃないぞ」
「わかってます〜!!」
駅の建物から出たところで、由衣と真聡がそんな会話をしている。
何故か真聡と由衣も着いてきてくれた。
1人で行くって言ったんだけどな。
……由衣は遊びに来たわけじゃ……ないよな?
病院には駅から数十分ほど歩いて到着した。
そして病院の受付は真聡がしてくれた。
少し待たされたが、結構すぐに面会の許可が下りた。
勝二兄の病室は3階らしく、俺達は病室に向かう。
病室近くまで来たとき、真聡が驚く言葉を口にした。
「じゃあ、また後でな」
「……え、一緒に来ねぇのか?」
「私達は別に会う人がいるからさ」
由衣まで同じ言葉を口にする。
……どうなってんだ?
2人は俺に着いてきたわけじゃねぇのか?
混乱しながらも「何の話だ?」と疑問を投げる。
「え?言ってないの?」
「最低限聞いて欲しいことは言っただろ」
「そこじゃねぇって!」「そうじゃないでしょ!」
俺と由衣の驚きの声が重なる。
……真聡ってあれだよな。言葉が足りねぇ。
そしてこの顔は何で突っ込まれたかわかってねぇ顔だ。
真聡に聞いても無駄だと思い、俺は由衣に「……誰に会うんだ?」と疑問を投げる。
「もう1人、堕ち星から人間に戻った小野君もここに入院してるの。
私たちは小野君から話を聞いてくるから、勝二さんは志郎君にお願いするって話だったんだけど……」
「だからそのために聞いて欲しいことを言っておいただろ」
「いやだから、そうじゃねぇだろ!?別行動なら先にそう伝えておいてくれよ……」
「……あぁ。そういうことか。悪かったな」
今度は俺と由衣のため息が重なった。
いや、こんな言い合いをしてる場合じゃねぇ。
勝二兄に会いに来たんだから。
「じゃあ、行ってくるわ」と言って俺は病室をノックして勝二兄に呼びかける。
少ししてから、中から「どうぞ」と返事が返ってきた。
俺は少し緊張しながら、病室の中に入る。
病室のベッドの上では勝二兄が横になっていた。
顔色は昔と比べると悪いが、堕ち星になっていたときと比べると格段に良さそうだった。
俺は扉側のベッドの脇に椅子を持っていって座る。
「勝二兄、具合はどうだ?」
「あぁ……だいぶ良くなってきた」
「そっか」
訪れる沈黙。
大事な兄弟子とはいえ、あんな事があった後。
なんて声をかけたらいいかわからなかった。
困っていると先に勝二兄が口を開いた。
「……もう2度と、会ってくれないかと思った」
「何言ってんだよ。会いに来るに決まってるだろ」
「だが俺は……許されないことをした。断片的にしか覚えていないとはいえ、志郎を殺しかけたのは事実だし、お前を傷つけることも言った」
そう言った声は、いつも通りの優しい勝二兄の声だった。
……だいぶ思いつめてはいるけど。
だけど、勝二兄が悪いってわけでもねぇ。
原因はあの怪物だろ。
「……でもそれは、あの力でおかしくなってたからだろ?」
「……そうかもしれない」
やっぱりそうだ。
勝二兄も人間だとは言え、あれが本心な訳がない。
俺は少し安心しながら「だろ?だったら何も問題はないだろ」と口にする。
「でも、違うかもしれない。
あの言葉はずっと心のどこかで思ってた」
勝二兄のその告白に、俺は言葉を失った。
全てを、ひっくり返されたような気がした。
そんな俺を気にせず、勝二兄は言葉を続ける。
「俺はずっと、志郎が羨ましかったんだ。先生は怒ったら怖いが、仲の良い家族。そしてお前は、先に習っていた年上の俺を追い抜いて強くなっていく。
俺はそれが……羨ましかった」
相変わらず、俺の中では衝撃が響いてる。
だけど、このまま聞いてるだけじゃ駄目だ。
俺は気を取り直して口を開く。
「……でも。だからと言って、それが理由で俺を殺そうと思ったり、俺の人生をめちゃくちゃにしてやろうと思ったことはなかっただろ」
「……あぁ」
「誰かを羨ましいと思うなんて普通だろ。俺は今だって強くて優しい勝二兄が羨ましくて憧れだと思ってるぜ?
それに、優しいお袋も妹もいて親父も立派な人なんだろ?」
「……それは違う」
前に聞いた勝二兄から聞いた家族の話を、そのまま口にした。
それなのに、「違う」と言われた。
その衝撃で俺の口から「え?」と言葉が漏れる。
勝二兄は俺の向かいにある窓の方を見ている。
どんな表情をしているのかわからない。
だけど、もしかしなくても俺は言ってはいけないことを言ってしまった。
そんな確信があった。
それでも、勝二兄はゆっくりとだが話を続けてくれた。
「……怪物になった俺にお前は確か、なぜ空手を始めたかって聞いたよな。
原因は……父親だ」