第045話 助けてみせる
俺達3人は警察の規制線を超えて、駅前に設けられた立ち入り禁止区域に入る。
そこは酷い状況だった。
広場には、人が逃げるときに置いていった物があちこちに散らばっていて、地面には爪の跡が刻まれている。
そして、その先には鋭い爪と牙がある赤黒い怪物。
堕ち星と成ってしまった勝二兄が、雄叫びを上げていた。
俺は自分に注意を向けさせるために「来たぜ、勝二兄」と言葉を投げる。
すると、勝二兄が俺達の方を向きながら「来たカ…シロウ…!!」と呟いた。
これが俺の初実戦。
しかも相手は自分の兄弟子。
緊張していないかと聞かれると嘘になる。
そんな俺の肩に、真聡が手を置いた。
「無理なら下がっていいぞ」
「いや、武者振るいってやつだよ」
「そうか。2人とも、作戦忘れるなよ」
「おう」「うん」
俺達は腹の上に手をかざし、ギアを喚び出す。
俺は左手を肩の少し下、時計で言うと4時の辺りに掲げて集中する。
身体の中の星力が左手に集まるのをイメージして、獅子座のプレートを手の中に生成する。
それを腹のギアに上から入れ、もう一度同じ位置に左手を掲げて時計回りに一周する。
そして左手を上向きにして右の拳を突き出し、右手でギアのボタンを押す。
「「「星鎧生装!」」」
俺と真聡と由衣の声が重なる。
その言葉を発すると同時にギアの真ん中からそれぞれの星座が飛び出して、俺達は光りに包まれる。
光の中で俺の身体は紺色のアンダースーツのようなものに包まれ、その上から紺色とオレンジ色の鎧が装着される。
そして光は晴れる。
「シロウ……ヤハリお前ハイツモ俺ヲ追イ抜イテ行ク……!!!!」
ほぼ同時に、勝二兄がそう叫びながら突っ込んで来た。
やっぱり前回と同じく、目で追えない速さだ。
それを真聡が飛び出して迎え撃つ。
金属が打ち合うような音が戦場に響く。
そして、周囲にはさっきの叫びのときに澱みも湧いていた。
俺は由衣と一緒に、澱みとの戦闘を始める。
真聡の作戦通りに進めれば、勝二兄は助けられるはずだ。
あの話をしたのは、先週の晴れた日。
俺の家の道場ではなく、廃墟の駐車場でした話だ。
☆☆☆
『こじし座の固有能力はあの速さと爪だろう。そして速さが1番厄介だ。
だからまず、俺が迎え撃つ』
『迎え撃つって……どうやって?』
『俺が速度を上げて追いつく。その間にお前らはこじし座の動きや星力の流れとかから動きを追えるようになれ』
『結構無茶なこと言うな!?』
『それぐらい出来てもらわないと困る。まぁ俺も、氷の術で速度を落とせないか試してみる。
で、お前達が適応でき次第、俺がお前たちに自分に使ってる術と同じものを使う。残念ながら制限時間はあるがな。
使ったら志郎は攻撃、由衣はあの羊で行動妨害を主軸で動いてくれ』
『……私の力って本当に眠りなの?』
『眠りかはわからない。だがこの前の戦闘では羊に触れたとき、こじし座の動きは一瞬だが鈍ってた。原理は分からないが、堕ち星には何かしら効果があるんだろう。
そして、小獅子座の動きがある程度鈍ったら一気に決める。以上だ』
だいたい作戦はわかった。
だけど俺は1番大事なことをまだ聞いてなかった。
『質問していいか?』
『なんだ?』
『勝二兄はどうなるんだ?助かるのか?』
『絶対とは言えない。だが、助けてみせる。こじし座が動けなくなったら、由衣が元の人間に戻せるはずだ』
『はずって……』
『由衣が牡羊座に選ばれてからは、まだ1回しか堕ち星と戦ってない。だから試行回数が少ない』
『……今はその1回の成功例を信じるしかないよな』
☆☆☆
最後の1体となった澱みに、拳を叩き込む。
澱みは吹き飛んで地面に落下したのと同時に消滅した。
片付いたので、真聡に加勢しようと視線を移す。
ちょうどそのとき、真聡と勝二兄が距離を取って向かい合った。
真聡は杖を生成して、杖先からいくつかの光の弾を飛ばす。
勝二兄は対抗して爪から斬撃を飛ばす。
光の弾と斬撃はぶつかって、小さな爆発が起こる。
……何だよあれ。
バトル漫画みたいだな……。
そして真聡と勝二兄はそのまま向かい合っている。
その隙に、俺は由衣と一緒に真聡に合流する。
すると、真聡は勝二兄から視線を逸らさずに「行けそうか?」と声をかけてきた。
俺と由衣は肯定の返事をする。
「見たと思うが斬撃を飛ばせるようになってる。あれにも気をつけろ」
そう言った後。真聡は俺達の後ろに回りながら、早口で言葉を紡ぎ始めた。
「我らの動き、人の目で追うこと叶わぬ速さなり。その速さ、風の如く」
そして俺と由衣の背中を両手で同時に軽く叩いた。
その瞬間、全身に力がみなぎってきた。いや、身体が軽いって言った方が正しいかもな。
この感覚は獅子座に選ばれたときとは違う感覚。
前にも慣れるためにかけてもらったが、やっぱり真聡ってはすげぇな……。
俺が物思いにふけっていると、真聡はとっくに前に出て戦闘を再開していた。
俺も急いで参戦する。
真聡や勝二兄ほどではないけど、さっきよりも早く動ける。
そして俺は真聡と同じように、打撃と蹴りで攻める。
そしてその隙をついて、由衣が羊を勝二兄に突撃させている。
俺達の3人の連携攻撃に、勝二兄は対応しきれていない。
これなら、行ける。
そう思ったとき、勝二兄がいきなり距離を取った。
そして、俺にめがけて踏み込んできた。
一瞬だったけど、あれはいつもの重い一撃を決めるときの勝二兄の癖だ。
俺はそれを見逃さなかった。
俺は拳を避けて、反撃の一撃を決める。
吹き飛ぶ勝二兄。
だけど勝二兄は吹き飛びながらも、空中で体勢をすぐに整えて着地しようとする。
そこに、真聡が着地点の地面を盛り上がらせた。
でも勝二兄は盛り上がった地面を蹴って、跳んだ。
そして空中を回転しながら、盛り上がった場所の少し後ろに着地した。
どう見ても人間離れしてる。
……まだ余裕があるってことか?
考えていると、「ナゼお前ハ……イツモイツモ俺ヲ置イテイク!!!」と言葉が飛んできた。
その叫びと共に、再び澱みが湧き出した。
俺達と勝二兄の間にざっと10体以上はいる澱みの壁が現れた。
俺はとりあえず、真聡の元に駆け寄る。
すると、由衣も駆け寄ってきた。
「どうすんのこれ!?キリがないよ!?」と言いながら。
「……そうだな。
だが、もう一度同じ攻め方をするしかないだろう。確実に消耗はさせれているはずだ。
だから、2人はまた澱みの処理を頼む」
確かにそうだと思う。
けど、このままだと埒があかない。
それに、また真聡に勝二兄を任せるのも癪だった。
だったら。
「いや。俺が勝二兄と戦う」