第041話 待ってるだけなんて
今でこそ、俺は空手の大会で結果を残せるぐらいの実力がある。
それで高校にも入学できたし、なんか成績にも加算されたりもする。
あと親父とも口喧嘩出来るぐらいには度胸が付いた。
でも、昔の俺はすげぇ弱くてビビリだった。
小さな頃は空手なんて絶対やらないって思ってし、親父も怖くて仕方なかった。
でも小学生のある日、同級生が中学生のやつらにカツアゲされてるのを見た。
そのときの俺は怖くて何もできなかった。
それが悔しかった。
弱い自分が嫌だと思った。
だからその日以来。
俺は勇気を出して、怖いと思ってた親父に頼み込んで空手を習うことにした。
☆☆☆
「あ、智陽ちゃん?どうしたの?」
道場の玄関で通話している、そんな由衣の声が聞こえてくる。
今日は道場で親父と一緒に怪物と戦う真聡と由衣に稽古をつけていた。
その休憩中に由衣に通話がかかってきた。
友達からの通話らしい。
「結構休憩したし、戻ってきたら練習再開するか?」と考えていると、道場に由衣の「まー君!堕ち星が出たって!」という叫び声が響いた。
その瞬間、一気に空気が変わった。
そしてすぐに「場所は」と真聡の静かで刺すような声が飛んだ。
「メッセージで送ってくれるって」
「わかった。行くぞ」
堕ち星……ってことはきっと勝二兄だよな。
真聡は立ち上がり、鞄を持って下駄箱に移動していく。
そして由衣に鞄を渡そうとしたとき。
外から戻って来た親父が2人を引き止めた。
「待ちなさい。鞄は預かっておくから置いて行きなさい」
「いいんですか?」
「持っていくと邪魔だろう」
「……助かります」
その会話の後。真聡は鞄を置いて靴を履いて、由衣と一緒に急いで道場を出ていった。
俺はなんとなく見送ろうと、靴を履いて外に出る。
だけど、2人の姿はもう無かった。
2人とも……足速いな……。
外に居ても仕方ないので、俺はフラフラと道場内に戻る。
することが突然なくなった。
このあとどうするかを悩みながら、とりあえず真聡と由衣の鞄を道場の奥に移動させる。
そして適当に座る。
そこに、親父が話しかけてきた。
「志郎。お前はどうするんだ」
「どうするって……俺は行っても仕方ないだろ」
「お前はそれでいいのか」
「なんだよ……。『相手を見て拳を振るえ』って言ったのは親父だろ。勝てない相手にやられに行けってのか?」
「そうだな。それは違う。
だが、黙って待ってるのが今のお前のやりたいことか?」
「それは……」
それは違う。
だけど、戦えない俺が言っても仕方ないのは事実だろ。
真聡をまた怒らせる予感しかしない。
そう悩んでいる俺に、親父の言葉が飛んできた。
「今のお前には手を貸してくれる友がいるだろう。
そして、相手をしっかりと見て判断もできるだろう」
……そうだ。
どうして勝二兄があんな姿になったのか知りたい。
その結果を待ってるだけなんて、やっぱり俺にはできない。
関係ない真聡と由衣が命かけて戦ってるのに、俺だけ待ってるだなんて。
決心した俺は「俺、やっぱ行ってくるわ!」と言い残して、道場を飛び出した。