第040話 速い
現場は駅前近くの繁華街だった。
その中にある、1棟のビルから人が逃げるように出てきている。
だが周囲は警察の誘導もあってか、ほとんど無人だった。
そのため、俺と由衣は車道を走ってそのビルに近づく。
そのビルの近くまで来たそのとき。
辺りにガラスが割れる音が響いた。
そしてビルの3階から窓を突き破って、堕ち星が地上に飛び降りてきた。
「来たカ……やはりお前達じゃないト……!」
堕ち星はそう呟いた後、唸り声を上げながらこちらを向いた。
そんな堕ち星に、由衣が「だったら最初から私たちを狙えばいいじゃん!」と言葉をぶん投げた。
……言ったって仕方ないんだがな。
そう思いながら「……行くぞ由衣」と声をかける。
由衣の返事と同時に、俺達は手をお腹の上にかざして、それぞれギアを喚び出す。
次にプレートを生成して、ギアに差し込む。
そしていつもの手順を取り、ギア上部のボタンを押す。
「「星鎧生装!」」
その言葉を合図に俺達は光りに包まれ、その光の中で紺色が共通する鎧を身に纏う。
そして、光は晴れる。
俺は「作戦、忘れるなよ」と言い残して、地面を蹴る。
堕ち星との間合いに入ったので、蹴りの体勢に入る。
しかし、距離があったため後ろに下がられてしまった。
間合い外に出られたので、俺は体勢を整えながら一度着地する。
するとその隙に、今度は堕ち星が間合いを詰めてきた。
そして拳が飛んで来る。
初撃を手で払う。そのまま追撃が来る。
全てを払うことはできないが、何とか払って避けてしのぎ続ける。
すると埒が明かないと思ったのか、堕ち星が数歩下がった。
そして素早く間合いを詰めて、飛んでくる一撃。
その拳は重く、まともに受ければ手痛い一撃になりそうだ。
しかし、俺はその間合いを詰める足の動きを見逃してはいなかった。
そのため、その一撃が飛んでくることは予測できていた。
俺はその一撃を避け、逆に風を纏った拳を鳩尾に叩き込む。
拳が綺麗には入り、堕ち星は吹き飛んでいく。
俺は追撃を入れるために距離を詰める。
だが堕ち星は体勢を整え、反撃しようとしていた。
しかし、そんな堕ち星に3匹の羊が突撃する。
堕ち星の動きが鈍った。
俺はそこに追撃の炎を纏った蹴りを叩き込む。
もう一度吹き飛んだ堕ち星は地面を転がる。
俺の攻撃からの羊による追撃で動きを鈍らせる。そこにもう一度俺が追撃を叩き込む。作戦通りだ。
だが、相手は堕ち星。
そう簡単に無力化できない。
堕ち星はまだ、黒い異形の獣の姿を保っていた。
そして堕ち星は立ち上がりながら、「なぜ避けれタ」と疑問の言葉を投げてきた。
「……あんた深谷 勝二だろ。平原一家から話は聞いた。そのときにあんたの悪い癖のこともな」
「この動キ……そうカ……だけどそれぐらいデ!!」
異形の咆哮が、無人になった繁華街に響く。
いつの間にか俺の隣に戻ってきていた由衣が「これ……ヤバい?」と呟いた。
何か雰囲気が変わったか?
だが、目に見えて変化はない。澱みも湧いていない。
何が変わった?どう出てくる?
そう考えていると、視界から堕ち星が消えた。
次の瞬間。
堕ち星に既に間合いに入られていた。
さっきよりも動きが速い。
俺はなんとか由衣を突き飛ばす。
そして俺も地面を転がってなんとか転がって避ける。
しかし、すぐに引き返して戻って来た。
2回目は避けられず、俺は爪による攻撃を受ける。
そこから始まる、俺を狙った連撃。
俺は成すすべなく、立膝の状態で攻撃を受け続ける。
急に動きが素早くなった。何がどうなっている?
いや、それよりこの状況を何とかしなければ。
蹴りや引っかきを対処しながら俺は考える。
案はすぐに思いついた。
俺は左手を地面につき、そして言葉を紡ぐ。
「草木よ!絡みつき、引き倒せ!」
周囲のアスファルトから蔓が生え、堕ち星の足に絡みついた。
人間を超える身体能力の堕ち星ではあるが、流石にバランスを崩したようで倒れた。
そして心苦しいが「この状況を打開するために仕方ない」と自分に言い聞かせて、由衣に指示を出す。
「由衣!少しだけ時間を稼げるか!?」
「わ、わかった!」
視界の隅で堕ち星に突撃していく由衣を見ながら、俺は急いで距離を取る。
そして生成した杖を両手で持ち、言葉を紡ぎ始める。
「火よ。人類の文明の象徴たる火よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。
そして、澱みに塗れ堕ちた星の座と成りし、獅子の座を焼き尽くす炎となれ!」
俺が言葉を紡ぎ終えるのと同時に、由衣はなんとか堕ち星だけを残して俺の正面から消えた。
堕ち星を目掛けて、杖から一直線に炎が噴き出す。
数秒程炎を出続けた後、俺は炎を止める。
これで、倒せただろうか。
しかし、その願いは叶わなかった。
「ま、まだ立ってるよ……!」
俺の隣に戻ってきた由衣の驚きの声が響く。
そう。
堕ち星はまだ立っていた。
いや、俺も驚きだ。
しっかりと対象を指定したため、威力は上がっているはずだ。
なのになぜ立っていられる?
疑問は抑えながら、俺は再び戦闘態勢を取る。
しかし、そこに思わぬ乱入者が現れた。
どこからか現れた平原 志郎が、堕ち星の前に立っていた。