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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
3節 戦えない誰かのために
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第039話 兄弟子

 一旦休憩となったので、壁にもたれて座って一息つく。


 やはり我流でやっているからか、正しい身体の使い方ができていないらしい。少し身体が痛い。


 そこに、由衣(ゆい)が2つのコップを持ってきて戻ってきた。


「はいこれ!スポーツ飲料!」

「助かる」


 片方を受け取ると由衣は俺の隣に座った。

 ほぼ同時に平原(ひらはら) 志郎(しろう)もやって来た。


 そして、俺の前で止まって「なぁ」と話しかけてきた。


真聡まさと。1つ聞いていいか?」

「なんだ」

「お前、あの鎧の姿のときと今とじゃ拳の威力って違わねぇか?」

「あの鎧の姿だと、鎧の力とかで底上げされているからな」


 簡単に言うとこうだ。これ以上言うことはない。


 俺は由衣に渡された飲料を口にする。

 冷たく少し甘みを感じる液体が喉を通って身体の中に入っていくのを感じる。


 飲み終わってから平原 志郎を見ると、まだ首を傾げていた。


 ……仕方ない、少しやってみせるか。


 俺は空のコップを置いて立ち上がる。

 そして練習場の中央に向けて歩き出す。平原に「やってみるから構えろ」と言葉を投げながら。


 平原は「お、おう」と微妙な返事をしながら、追いかけてくる。

 そして俺の前に立ち、両手を肩の高さほどに構えた。


 俺は平原の左手目掛けて、《《普通に》》右手を打ち込む。


 拳は乾いた音と共に、平原の手のひらに収まって止められた。


「これが何もなしだ」

「さっきと同じだな。でも最初よりは良くなってきてるぞ!」

「そういう事はいい。次行くぞ」

「おう」


 もう一度、腕を引く。

 

 そして右手に星力を込め、魔術を発動させる。


 だが威力を上げすぎては大変なことになる。

 なので言葉は紡がず、拳が少しだけ風を纏うイメージをする。


 そして、平原 志郎を目掛けて拳を振りぬく。


 風を切る音と共に、平原の左手に俺の拳が叩き込まれる。


 流石に痛かったのか、平原は「いったぁ!!」と叫びながら俺の手を弾いた。


「なんか凄く風も来たぞ!?」

「底上げをするとこうなる。一応、生身でも底上げできるから、鎧を纏わなくても戦えないことはない。

 だがまぁ、鎧を纏った方が圧倒的に戦いやすいがな」

「え、つまり私も今みたいなことができるようになるの?」


 そう聞いてきたのは由衣。座っていたはずが、いつの間にか近くまで来ていた。

 視線を由衣に移すと、少し目をキラキラさせている。


 ……素直に答えるか。


「それは……わからん。だが鍛錬を重ねれば、鎧を生成しなくても固有能力は使えるようになると思うぞ」

「なんか……残念」


 その言葉の後、由衣は「もうちょっとも~らお」と呟いて飲料タンクの方へ歩いて行った。


「つまり……真聡はその力で体の強化と正しい体の使い方を合わせようとしてるんだな?」

「そういうことだ」

「お前も努力家だなぁ……」


 平原 志郎が両手で俺の肩を叩きながらそう言った。


 ……別に感心されることじゃないと思うが。


 俺は彼を置いて、もう一度座るために壁際に戻る。

 同時に由衣もコップの中を満たして同じ場所に戻って来た。


 そんな由衣が、俺に続いて戻って来た志郎に「そういやさ、志郎君」と言葉を投げた。


「1つ聞きたいことがあるんだけど……」

「ん?なんだ?」

深谷(ふかや) 勝二(しょうじ)さんって……どういう人だったの?」


 ……聞くか、それ。



 だが、平原からは話を聞いていない。



 何か手がかりが掴めるかもしれない。

 そう思い「それは俺も気になっていた」と言葉を投げる。


 しかし、当の平原の口から「あ〜……」と何とも言えない声が聞こえる。


「あ、いや、言いにくいならいいから!ごめんね」

「あぁ、いや。ただ……まだ実感が無いんだ」

「そう……だよね……」


 ……その気持ちはわかる。

 やはり聞くのは辞めておくか。


 だが、平原に精神的負担を掛けない為にも、早く見つけて倒さないとな。


 断りの言葉を口にしようとしたその時。

 平原が口を開いた。


「勝二(にい)は俺の兄弟子なんだ。

 俺が空手を始める前から習っていて、その頃から優しくしてくれてたんだ。

 もちろん俺が空手を始めてからも、優しくしてくれてさ。親父に怒られたときとか、上手くできなかったときとか、色んなときに慰めてくれてさ。

 それに、出来るようになるまで練習に付き合ってくれたしな」

「優しい……人だったんだね」

「あぁ。だからこそ勝二兄があの怪物だって信じられねぇし、俺のことを憎んでて襲ってくるなんて……」


 平原はその言葉の後、口を閉ざしてしまった。

 苦しさを押し殺しているような表情で。


 言葉に困っているのか、由衣も何も喋らない。


 俺は、そんな平原が昔の自分に重なって見えた。

 そして、気が付くと口が動いていた。


「……だからこそ戦うんだ。本当にその人かどうかを確かめるためにもな」

「真聡……」


 誰も言葉を発さない。


 ……要らないことを言ったかもな。


 そう思っていると、由衣が口を開いた。


「……兄って呼んでるけど、どれくらい上なの?」

「3つ上だ。今年の春から大学生になったんだ」

「そうなんだ……あ、通話だ。ちょっとごめんね?」


 そう言い残して、由衣は下駄箱の方へ向かう。

 「あ、智陽ちゃん?どうしたの?」という声が聞こえてくる。


 どうやら相手は華山はなやま 智陽ちはるのようだ。

 あいつが連絡してくるってことは……。


 次の瞬間「まー君!堕ち星が出たって!」という予想通りの声が飛んできた。


「場所は」

「メッセージで送ってくれるって!」

「わかった。行くぞ」


 俺は立ち上がり、2つの鞄を持って由衣が待っている下駄箱に向かう。

 急ぐ俺達に外から戻って来た平原 志郎の父親が「待ちなさい」と声をかけた。


「鞄は預かっておくから置いて行きなさい」

「いいんですか?」

「持っていくと邪魔だろう」

「……助かります」


 確かに邪魔だ。あると戦いづらい。


 俺は好意に甘えることにして、鞄を下駄箱に置かせてもらう。

 そして靴を履いて、外に飛び出す。


 由衣は先に外に出ていて場所を確認していたらしい。

 「こっち!」と道を示してくれるので、2人でその方向に走り出す。


 そして走りながら、由衣に声を掛ける。


「由衣、認識阻害をかけておく。他人から認識されなくなるからぶつからないように注意しろよ」

「わかった!」

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