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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
3節 戦えない誰かのために

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第034話 羊

 14時過ぎ。

 駐車場の端にある日陰で俺達は昼ご飯休憩を取っていた。


 どうやら由衣(ゆい)は寝坊して更に朝ご飯まで抜いていたらしい。

 ……何やってるんだこいつ。


 そして持ってきたお弁当を食べきった由衣は、大きく息を吐いて「元気チャージ完了!」と明るい声を発した。


「なんで朝抜いてきたんだ」

「だって……起きたら約束の時間過ぎてたから……」


 こいつ、変なところで真面目なんだよな。

 そんなことを考えながら「だからといって抜くなよ」と言葉を投げる。


「ほっといたらゼリー飲料とかエネルギーバーでご飯済ませる人に言われたくありません〜!

 今だってゼリー飲料だったじゃん」


 由衣は俺の手に握られている空のパッケージを指さしてそう言った。


 反論できないので俺は口を閉じる。

 由衣はため息を付いた後、言葉を続ける。


「それで、身体はどう?」

「あ?あぁ。休んでいる間に耐睡眠の術で打ち消しておいたから問題ない。

 そもそも、そこまでだったしな」

「なんかそれはそれでショックだなぁ……。これじゃあ、戦いに使えないじゃん!」


 休憩をするまでいろいろ試したが、固有能力だと断言できるものはわからなかった。


 強いて言うなら「攻撃を受け続けると少し眠くなった気がする」という変化ぐらい。

 しかし、実用的かと聞かれると……なんとも言えないものだ。


「だが、眠りに関係する力と仮定するしかないだろう」

「それで……いいの?」

「違うならそのときだ」


 俺はそんな言葉を投げながら立ち上がり、駐車場跡地の真ん中の方へ歩き出す。

 背中に由衣の「それも……そうだね!」という声を受けながら。


 食べた後はすぐ動かない方が良い。

 だが、俺は時間が惜しい。


 由衣が動けるようになるまでは1人で魔術の調整でもするか。

 そう考えながら、軽くストレッチをして身体を動かす。


 ……それでも由衣に予定を使えないといけないか。

 その考えに至った俺は「次は今度こそ武器の生成するぞ」と声を投げる。


「食後はすぐに動かない方がいいだろ」

「……今からでも良いよ?」


 視界の隅で由衣が立ち上がっているのが見えた。

 ……まぁいいか。


「じゃあ、もう一度星鎧を生成してくれ」

「おっけ~!」


 由衣は俺とある程度の距離があるところで立ち止まり、レプリギアを喚び出した。

 そしてさっきと同じく、いつもの手順で星鎧を生成した。


「今度こそここからどうするの?」

「さっき言っただろ。自分の固有能力や戦い方、それでどんな武器だと戦いやすいかを考えてみろ」


 「そうだったね!」と言った後、由衣は考えている仕草を取りながら口を閉じた。


 数秒後「…えっと、なんか言葉とか必要?」と少し申し訳なさそうに聞いてきた。

 ……まぁ、由衣は術や儀式、そもそもの基礎などを知らないからな。

 それに、教えるとなると最悪1カ月以上かかる可能性もある。


 そのため、俺は「……いや、無しでやる人も多い」と言葉を返す。


 由衣は「なるほど」と呟いた後、また口を閉じた。


 ……俺のときはどうだっただろうか。

 あのときは……戦うことに必死だったためよく覚えていない。


 俺の杖は半分無意識に生成したものだろう。

 少し過去を振り返っていると、由衣の「よし!やります!」と気合の入った声が聞こえてきた。


 由衣は両手を前に出し、集中する。

 すると由衣の手元に星力が集まって、光りに包まれる。


 やがてその光は縦に伸び、何かの形を成していく。

 この形は……。


「できた!」

「……聞いていいか」

「何?」

「なんでお前も杖なんだよ」


 そう、杖が生成された。

 スラッとした、どちらかと言うと近代風の杖。


 俺のはゴツゴツとした、どちらかと言うと古風な杖。それこそ本物の魔法使いが使ってそうな杖。

 俺のとは形状は違うとはいえ、何故杖にしたんだ?


「だ、だって……結局私の力って具体的な使い道わかんないし……。

 だからイメージするならまー君の武器ぐらいしかなかったから……」


 「いや剣とかもっとあるだろ」と突っ込みたくなったがその衝動を抑える。

 確かに眠りに関係する能力と言われれば、魔術や魔法の方がイメージされるか……。


 ……元はと言うと、《《そういうの》》を教えてない俺が悪い。


「まぁ……仕方ないか」

「何その反応?」


 ボソッと呟いたのが聞こえたらしく、突っ込まれてしまった。

 だがこれに答えると、墓穴を掘ることになる。


 そのため俺は何もなかったふりをして、話を進める。


「次いくぞ。杖を使ったらまた違うかもしれんからな」

「流された……どうするの?」

「イメージだ。今度は俺が術を使ってるのを参考にしても良いかもな」 


 すると由衣は、若干嫌そうな声で「またイメージ!?」と叫んだ。


 だが魔術や魔法などの基礎は、自分がどういう風にしたいかをイメージすることだ。

 こればっかりはイメージなんだから仕方ない。俺に文句を言われても困る。


「そういうもんなんだよ」

「はぁい…」


 そう返事をした由衣は、星鎧を纏っていて顔が見えないのに頬を膨らませている気がした。


 そして由衣は、俺がふだん杖先から魔術を撃つときの動きを真似始めた。

 杖先から何か出ているが……薄い靄が出ている感じで、《《それが何か》》までは分からない。


「ねぇ……どうなの、これ」

「……俺が実験台になるしかないよな」


 まぁ、エネルギーに当たるだけなら生身のままでいいだろう。


 由衣がもう一度杖を振って、杖先から何かが出た。

 俺はその何かに触れてみる。しかし……。


「……どう?」

「……特別変化なし」

「そんなぁ〜!?」


 こういうときはどうすれば良いんだったか。

 俺は属性魔術は使えるが、こういう相手に不利な効果を与える魔術は使えないので最適解がわからない。


 ……中等部の頃に学んだ基礎をそのまま伝えるか。


「何か形を取らせてみたらどうだ」

「形?」

「どういう形か決めれば、もう少し効果が出るんじゃないか?」


 「なる……ほど?」と呟いた後、由衣はまた考え始めた。


 俺は目に見えるものを操るからイメージしやすいが、眠らせる力は見えないものだ。

 だからきっとイメージしづらいだろう。


 そして数分後。

 由衣は「よし!やります!」と声を上げた。


 今度は杖を掲げる。

 すると由衣の隣に薄い靄が集まり始めた。


 そして現れたのが……。


「……羊?」

「うん、羊。だって私、牡羊座でしょ?」


 まぁ、そうだが。

 

 現れた羊は中型犬ほどの大きさ。身体は半透明の言わばエネルギー体のような見た目。そのため、少し形がふわふわと歪んでいる。


「じゃあ行くよ?」

「あ?」

「行っけ〜!!」


 由衣の掛け声を合図に羊が走り出し、俺に突っ込んでくる。

 

 「これは生身で受けて良いのか」という考えが頭をよぎるが、ギアを喚び出す余裕はない。


 俺が両腕を体の前で受ける構えを取ると同時に、羊がぶつかってきた。


 だが、思っているより痛みも衝撃もなかった。

 そして周りを確認すると、既に羊は居ない。


 俺を通り抜けるようにぶつかって消滅した、というのが正しいのだろうか。


 色々と考えていると、由衣が心配そうに「……どう?」と声をかけてきた。


「少し……痛かったな。それに、さっきよりは……眠気を感じるな」

「やったぁ〜~……?」


 由衣が何とも言えない声で喜んでいる。

 「喜んでいいの?」という気持ちが凄く伝わってくる。


 ……ここは励ました方が良いな。


「まぁ……だいぶ希望は見えてきたから……いいんじゃないか」

「そう……だよね!ポジティブにいかないと!」

「……そうだな。そして特訓あるのみだ」

「う、うん!頑張る!」


☆☆☆


 翌日昼過ぎ。

 俺はまた研究所跡地の駐車場で特訓をしていた。


 今日は1人で。


 もちろん由衣にも声はかけたのだが、今日は用事があると断られた。

 昨日「頑張る!」と言っていたくせに、さっそく用事とは……。力を使うときの呪文も考える必要があると言ったんだがな……。


 水分を取りながらぼんやり考えていると、置いてあるスマホに着信が来ていることに気がついた。


 名前を見てみると、ちょうど考えていた由衣だった。

 断ったくせになぜ電話をかけてきた……。


 そう思いながらも電話に出る。


「なんだ」

「おぉ!陰星いんせいか!」


 俺は驚きと大きな声でスマホを耳から遠ざける。


 「は?」と思わず声が出る。


 俺は着信相手の名前を見直す。確かに相手は由衣だ。

 ではなぜ男の声なんだ。


 しかし、この声には聞き覚えがあった。


「まさか……平原ひらはら 志郎しろうか?」

「そうだ!悪いが今から来てくれないか!」

「なぜだ。そもそもなぜお前が由衣のスマホを持ってるんだ」

「あぁ〜……説明は後でする!とにかく来てくれ!堕ち星?が現れたんだ!」


 堕ち星と聞いて俺は思考を切り替える。

 色々疑問はあるが、堕ち星が出た以上それは後回しだ。


「場所は」

「俺の家の道場が襲われたんだ!調べたら出てくる!

 あ、でも逃げてるから少し離れてる!」

「由衣は」

「もう戦ってる!」

「わかった、なるべく早く行く。平原 志郎、お前はできるなら安全なところに隠れていろ」


 俺はそう言い切って、返事を聞く前に電話を切る。

 そしてすぐに地図アプリで場所を調べる。


 ちょうど駅を挟んで反対側だな……。

 走っていくと20分はかかりそうだ。


 だが、魔術でカバーすれば……10分以内に行けるか?


 俺は悩みながらも自分に身体能力強化魔術と認識阻害魔術を使用する。

 そして、荷物を引っ掴んで駐車場を飛び出した。

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