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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
3節 戦えない誰かのために

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第032話 良い人

「お前が入学初日に同級生を泣かせたって噂の陰星いんせい 真聡まさとか?」


 屋上に出てきて、誰かを探してるみたいだった男子生徒。

 そんな彼が、お昼を食べる私達3人の前にやってきてそう聞いてきた。


 その噂……まだ残ってたんだ……。こっちの話も恥ずかしいからやめて欲しいな……。



 じゃなくて……誰?



 そんな思いを込めて、まー君とひーちゃんの顔を見る。


 すると、まー君がため息をついた。


「……人に名前を聞くよりも先に、自分が名乗ったらどうだ」


 一気にいつもの感じに戻っちゃった。

 何も起こらないと良いんだけど……。


 そう思っていると、男子生徒はハキハキと答え始めた。


「確かにそうだよな。悪い。

 俺は平原ひらはら 志郎しろう!で、お前が陰星 真聡だな?」

「……そうだ」

「じゃあ、最近噂の怪物と戦っているのもお前なのか?」


 まー君は言葉を返さず、平原君の目をじっと見ている。



 誰も口を開かない。

 遠くから聞こえる笑い声と話し声、あと風の音だけが聞こえる。



 それにしても平原 志郎……どこかで聞いたことがあるような……?


 ……というかなんでバレてるの!?


 でもここで変に反応すると認めることになっちゃうよね。

 だから私は口を開かない。絶対に反応しない。


 そんな決意をしている私の代わりに口を開いたのは、もちろんまー君だった。


「そっちは人違いだ。

 そもそも俺だと決めつける理由でもあるのか」


 やっぱりまずはごまかすんだね……。

 でも理由は私も気になる。

 すると平原君はまたハキハキと答え始めた。


「俺は見たんだよ!あれは……テスト週間の初日だったか?下駄箱を出た所で陰星、お前がなんか……黒い鎧?を着て戦ってる姿を!」

「見間違えじゃないのか」

「んまぁ……確かに顔とかちゃんと見たわけじゃないけど、あれはお前だった。俺にはわかる。あと、そっちの元気そうな女子もいたよな」

「私!?」


 やっぱりあのとき色んな人に見られてた……!?


 あのときは確かタムセンと話をしてて、教室を飛び出してそのまま戦って……まー君、認識阻害使ってたっけ?


 また私が1人で考えていると、まー君が口を開いた。


「お前、怪物と戦ってる奴を見つけて何をしたいんだ?」

「それは認めるってことか!?」

「……俺達がどうであれ、言いがかりをつけたんだ。なぜそいつを探しているかの理由を聞く権利ぐらい俺にはあるだろ」

「それも……そうか。長くなるけどいいか?」

「構わん」


 平原君は私達の向かいの屋上の柵に背中を預けて、口を開いた。


「まず、俺の家は空手道場なんだよ。俺ももちろん空手をやってる」


 平原君のその言葉で、ようやく思い出した!

 そんな私は思わず、「あ〜〜〜〜〜!!!!」と叫んでしまった。


「大声を出すな、静かにしてろ」

「あ、ごめん……じゃなくて!平原君ってもしかしてあの噂の?」


 私の言葉にまー君が「噂?」と聞き返してきた。


 ……確かにまー君、噂とか知らなさそう。

 私とひーちゃん以外は智陽ちはるちゃんと麻優まゆちゃんしか喋ってるところ見たことないし……。


「中学生の頃、同級生をボコボコにした人が1年にいるって話?」

「やっぱその噂広まってるのか……」


 ひーちゃんの補足に平原君はため息交じりそう呟いた。


 ……確かに、そういう噂ってあんまり広まって欲しくないよね。


 でも私は、どうしても嘘か本当か知りたくなってしまった。


「やっぱり……ってことは本当なの?」

「いや…あれは誇張された話なんだよ。仕方ねぇから、その話もするか……。

 あれは中学生のときだ、俺はイジメの現場に遭遇してな。止めようと思ったんだよ。

 そしたら虐めてる奴らが殴りかかってくるから、軽く受け流して軽く反撃したら逃げていってな。

 そのときはこれで終わったと思ったんだよ。


 そしたら翌日、俺がいじめた連中にいきなり殴りかかってボコボコにしたってことになっててな。

 広まってる噂はそいつらが広めたものだ。


 あとから知ったんだけど、そのイジメてた連中の親はそこそこ……力?がある親だったらしくてな。

 結果として俺は人を助けたはずが悪者になったってわけ」


 そう話してくれた平原君の顔は、悲しそうな表情だった。


 私は「……大変……だったんだね」と思った言葉をそのまま口にする。


「ま、今はもう気にしてねぇし。過ぎたことだし。

 白い目で見られるのは少し困るけどな!」


 そう言った後、平原君は笑い出した。


 全然気にしてなさそうな感じを出してるけど、やっぱり辛いんだと思う。

 私でもわかる。


「……平原君は全然悪くないのに。というか、良い人なのに噂だけで白い目で見られるのは……おかしいよ」


 私は思ったことを口にする。

 だっておかしいもん。



 悪いことしてる人の方が被害者になって、助けようとした人が加害者になるなんて。



 すると少しの間のあとまた平原君はまた笑った。


 今度は清々しい笑いだった。


 しばらくして、平原君は口を開いた。


「《《こんな噂》》があるやつにそう言い切るなんて、お前も大概《《良い人》》だな!」


 予想外の言葉に、私は「そ、そんなことないよ〜!」と返す。

 思ったことをそのまま言っただけなのに褒められちゃった。ちょっと恥ずかしい。


「そこで盛り上がるな。まだ肝心の怪物についての話を聞いてないぞ」

「そうだったな。本題がまだだったな。え〜っと……そうそう。

 その後は親父に怒られたんだよ。『拳を振るうときは相手を見て、考えてから振れ』ってな。でも、一方的に殴られてるのをほっとくのはどうかと思うだよなぁ。

 んでまぁ、その後は一応卒業できた。


 そんで……あれいつだっけ?3月……いや4月だったか?まぁ、それくらいからこの街に怪物が出るようになっただろ?その怪物に俺も出会ったんだよ。

 そんときは周りの人を逃がしながら一応戦ってみたんだよ。でもまぁ、攻撃しても全然効かないんだよな。


 そしたら鎧を着たやつが現れて、怪物をすげ〜勢いで倒してしまったんだよな。

 んで、『俺もあんな風に怪物と戦えるようになりてぇ』って思ってさ。だから俺は今、怪物と戦ってるやつと探してるってわけ」


 なるほど……。


 平原君は悪い人じゃなさそうだし、空手もやってるから今でも十分強いと思う。

 だからもし一緒に戦ってくれるなら心強いと思うんだけど……。


 そんなことを考えていると、私より先にまー君が口を開いた。


「お前は何のために怪物とは戦いたいんだ」

「俺が怪物と戦えるようになれば、誰かを助けられるだろ?」


 答えがもう正義のヒーローじゃない?

 もう一緒に戦ってもらうおうよ。うん、私からもまー君に頼もう。


 そう思ったとき、まー君は予想外な言葉を口にした。


「気に入らねぇ」

「「「え」」」


 私と平原君だけじゃなく、ひーちゃんまでも驚く声が重なった。


 でもそんな私達を置いて、まー君は言葉を続ける。


「『俺が戦えれば、誰かを助けられる』そんな簡単な話じゃないんだよ。

 この力はな、使い方を間違えれば人なんて簡単に殺せる。そいつの意思関係なく周りを破壊するんだよ。

 あれができるようになりたいから習い事を習うとか、そんなもんじゃないんだよ。

 ……不愉快だ。2度と俺に顔を見せるな」


 そう言い残すと、まー君は屋上から立ち去ってしまった。



 あんなにも声を荒げた理由は今の私達にはわからなかった。



 残された私達の空気は重かった。



 ひーちゃんがため息の後、口を開いた。


「……とりあえず、私は追いかけるから」

「う、うん。お願い」


 そうして、ひーちゃんもまー君を追いかけて屋上から立ち去った。

 屋上に残ったのは私と平原君。


 ……いや、気まずいよ?

 流石の私もこの空気は気まずいよ?


 でも、平原君は気まずさを感じていないみたいだった。


「まさか怒られるとはな……何が悪かったんだ……?」


 反省はしているみたいだけど、へこんでるわけではなさそうだった。


「う〜ん……わたしもわかんない。でも、ごめんね」

「いやなんでお前が……あれ?俺、君の名前聞いてないよな?」

「あ……私は白上(しらかみ) 由衣(ゆい)。よろ……しく?」

「おう、よろしくな」


 そして再び訪れる沈黙。


 きっと、まー君を説得しない限り平原君は一緒に戦えないよね……。


 だけど、私は別の方法を思いついた。

 まー君に怒られる気しかしないけど……でも「思い立ったがなんとやら」だよね。



 それに、私も今のままじゃ駄目だと思うし。



 だったらさっそく相談しないと!


「ね、ねぇ……平原君?お願いがあるんだけど……」

「おう。なんだ?」

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