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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
14節 3兄妹

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第230話 獣のよう

 星雲市のとある公園内の道を土煙と振動が襲う。


 周りに人が少なかったのが本当に幸いだ。


 とりあえず、狙われていたであろう由衣ゆいは俺が庇ったから無事だ。

 だが、由衣の少し後ろにいた日和ひより智陽ちはるは庇えず、突き飛ばしてしまった。


 俺は心配しながら、2人がいるであろう方向に視線を向ける。


 すると倒れてはいるが、手を口に当ててせき込んでいる2人が見えた。

 突き飛ばしたが、派手に転びはしなかったようだ。



 安心しながら、俺は視線を敵の方へ戻す。



 土煙の中に見えるのは、2足歩行の黒い狼のようなもの。



 ……やはり堕ち星だったか。

 星座は……おおかみ座だろうか。


 いや、イヌ科の星座は他にもある。断定はしない方が良いだろう。


 俺が推測をしていると、堕ち星がこちらを向いた。

 そして「あ~あ。避けられたか」と呟きながら少し右手を動かしている。


「お、堕ち星!?和希かずきさんは!?」


 由衣はそう叫びながら立ち上がろうとする。

 俺はそれを立ち上がりながら手首を掴んで「行く必要は無い」と引き留める。


「なんで!?」

児島こじま 和希かずきは、目の前にいる」

「それって……和希さんが堕ち星……ってこと?」


 俺の言葉に、日和がそう呟いた。

 まるで、信じられないと言いたいような声で。


「バレてたんだ。

 しっかり隠してもらってたんだけどなぁ……」

「隠しすぎなんだ。だからお前には、違和感しかなかった」


 俺は和希さんと会ったときから違和感を感じていた。



 それは、気配がなさ過ぎたことだ。



 普通の人間は魔力が使えないとしても気配はする。



 だけど、和希さんは目の前にいるのに気配を感じなかった。



 だから俺はこの人間は認識阻害魔術を使用していると考えていた。

 そして念のために家には帰らず、もしもの戦闘が出来そうな場所を探していた。



 結果として、予想通りの展開となった。


 そして堕ち星は「つまり」と呟いた。


「最初からバレる前に仕留めるのは無理だったってわけね」

「あぁ。

 ……それで、佑希ゆうき佐希さきはどうした」

「殺したよ?

 まぁ、佐希は死んでないらしいけど」


 そんなと堕ち星の言葉の後、後ろから悲鳴のような声が聞こえた。


 由衣と日和のだろう。

 きっと怒りや悲しみ、ショックといった感情が渦巻いているのだろう。



 同時に、俺の中でも激しい怒りが湧いてくるのを感じる。




 ……だけど、これに吞み込まれてはいけない。



 俺は静かに、深呼吸をする。



 すると由衣の「え……え?」という声が聞こえた。


「さっちゃんとゆー君は、和希さんの家族……ですよね?」

「そうだよ。

 でもあいつらは、俺から奪った。だから俺は、取り戻すんだ」


 由衣の絞りだしたかのような質問に、堕ち星はサラッと答えた。

 そして、由衣からの反論の言葉がない。


 視線を由衣に移すと、下を向きながら両手を強く握りしめていた。



 やはり、堕ち星は普通の人間じゃない。



 だから俺達にできることは、これ以上の被害を増やさないことだ。




 俺は深く息を吐いてから、背負っている鞄を道の端へ投げ捨てる。

 そして、口を開く。


「智陽は隠れてろ。

 由衣、日和。まずは切り抜けるぞ」

「……うん」


 由衣が返事をしながら俺の隣に並んだ。

 その向こうには無言の日和が。


「まぁ、バレてもすることは変わらないけど!」


 堕ち星がそう叫びながら突っ込んでくる。

 俺達はギアを喚び出しながらも、それぞれその場から離れてその強襲を避ける。


 そしていつもとは少し状況が違うが、プレートをギアに差し込んでいつもの手順を取る。


「「「星鎧生装」」!」


 その言葉の後。

 3人の高校生のお腹に巻かれたギアから、それぞれ星座が飛び出す。


 そして高校生達は身体は、その紺色の光に包まれる。



 光の中で、俺の身体は紺色のアンダースーツと紺色と黒色の鎧に包まれる。



 そして、光は晴れる。



 俺はすぐに地面を蹴って堕ち星との距離を詰める。

 そしてまずはただの右ストレートを叩き込む。


 しかし、その一撃はするりと避けられてしまった。


 その代わりに足蹴りが俺の鳩尾に飛んできた。

 防げなかった俺は後ろに吹き飛ぶ。


 吹き飛ばされながらも、何とか体勢を整えて足から着地をする。


 受ける直前に耐衝撃魔術は使用した。

 だけど、うっすらと鳩尾に痛みを感じる。


 ……佑希が負けただけはある。


 右手で鳩尾をさすりながら顔を上げる。


 現状は由衣が杖を手に堕ち星と戦っている。

 堕ち星の拳と蹴りによる猛攻撃を避けて、杖で凌いでいる。


 だがどう見ても押されている。

 日和の水弾による援護があるとはいえだ。


 ……やはり、2人だけには荷が重い相手だ。

 俺が前に出ないといけない。


 焦りと共に再び地面を蹴る。

 今度は、言葉を紡ぎながら。


「火よ。我が右腕に宿りて、堕ちた星の座と成りし者を焼き払え!」


 火を纏った拳を、側面から堕ち星に叩き込む。



 しかし、堕ち星は少し身を引いて避けた。



 視界外からの一撃だったはずなのに避けられた。



 だが、俺だってそれぐらい想定していた。


 俺は振りぬいた右手を、右側にいる堕ち星に向かって払う。

 右腕に、さらに星力をまわして。


 すると右手を中心に炎の波が起きた。

 その波は堕ち星を飲み込む。


 俺はその隙に由衣を連れて日和の元まで下がる。


「2人は前に出るな。距離を開けて援護に徹してくれ」

「で、でも。まー君だって」

「2人よりはまだ行ける」


 そこまで言葉を交わしたとき、辺りに遠吠えが響いた。


 聞こえた方向に視線を向けると、堕ち星がちょうどこちらを向いたところだった。


 俺は「任せるぞ」と2人に言い残して、堕ち星との距離を三度みたび詰める。

 今度は違う言葉を紡ぎながら。


「水よ、我が右腕に宿りて」

「同じ手はさせない!」


 その声と共に、堕ち星の一撃が飛んできた。

 普通の人間にはない鋭利な爪がある手を、俺はなんとか後ろに下がって避ける。


 そして俺は詠唱を中断したため、少ししか水を纏っていない拳で反撃をする。


 しかし、堕ち星も後ろに下がって間合いを空けて避けてきた。


「水よ、押し流せ!」


 その短い言葉で、俺の右手を中心に水が堕ち星に向かって勢いよく発射される。


 だが堕ち星は地面を蹴って跳躍し、水を避けた。

 同時に横から現れた羊の体当たりも虚しく空を切る。


 そして、堕ち星はそのまま俺に向けて突っ込んでくる。

 大きな口を開きながら。


 反撃をしたいところだが、先に打った手が悉く外れた以上は避けるべきだ。

 現に日和の水弾を物ともせず突っ込んでくるぐらいだ。


 俺はまた後ろに下がり、堕ち星の強襲を避ける。



 しかし、堕ち星は着地するとそのまま俺に突っ込んできた。

 今度は鋭い爪のある手を振りかざしながら。


 俺はそれを半身で避ける。

 そしてそのまま地面に向かっていく堕ち星の側面に周り、蹴りを入れる体勢に入る。


 しかし、この一撃も避けられた。

 そのうえ手を軸に身体を回転させて、俺に蹴りを叩き込んできた。


 予想外の一撃を顔に貰った俺は、呆気なく吹き飛ぶ。

 そんな俺の耳に「まー君!」と叫ぶ声が聞こえた。


 それに続いて、何かがぶつかるような音。


 凄く嫌な予感を抱きながら、俺の身体は地面を転がる。


 耐衝撃魔術を使用できなかったため、蹴られた頬が痛む。


 しかし、そうは言ってられない。

 俺はすぐに起き上がる。



 すると視界に入ってきたのは、由衣が堕ち星に投げ飛ばされる光景だった。


 日和の「由衣!!」と叫ぶ声が聞こえる。


 そんな叫びも虚しく。

 由衣は公園の遊歩道の脇にある木に、痛そうな音と共に激突して地面に落ちた。


 ……本当にマズい。


 そして堕ち星は既に由衣と距離を詰めている。

 俺は無詠唱で身体能力向上魔術を発動させながら地面を蹴る。



 しかし、それよりも早く日和が由衣と堕ち星の間に入った。

 そして日和は堕ち星に向けて銃で水弾を撃ちまくる。



 だが堕ち星は水弾を物ともせず、日和との距離を詰める。



 堕ち星の爪が、今度は日和を襲う。



 日和は銃で爪の直撃を防ぐも、銃は吹き飛ばされた。

 それに続くように、日和自身も吹き飛ばされる。



 堕ち星は追撃を加えるためか、地面を踏み切ろうとする。



 そんな堕ち星の頭を目掛けて、俺は両手を組んだ拳を振り下ろす。


 ……イヌ科のような頭なので、頭と言うか鼻筋かもしれないが。


 流石に油断していたらしく、堕ち星の頭は勢いよく地面に叩きつけられた。


 このまま押し切る。


 そう思い、俺は左手を堕ち星に向けて突き出し、言葉を紡ごうとする。



 しかし堕ち星はバク転で起き上がり、足が俺に向かって振り上げられる。


 その反撃は予想していたので、俺は後ろに下がって避ける。

 そして堕ち星と向かい合う。



 堕ち星は少し唸り声を上げた後、突っ込んできた。



 鋭い爪が飛んでくる。

 俺は半身で一撃を避けた後、その腕を右手で叩いて弾く。


 そのまま、左手の拳を堕ち星の腹に叩き込む。



 しかし堕ち星は大きな口を開いた後、その左手に噛みついてきた。



 星鎧が堕ち星の牙とぶつかり、不快な音を立てる。

 堕ち星はにやりと笑いながら俺を見上げている。



 恐らく、星鎧が消滅するまでこのままでいるつもりなんだろう。



 だが、俺だってこのままやられるつもりはない。



 むしろ、こういう状態になるのを待っていた。

 ……噛みつかれるのは予想外だったが。


 この堕ち星の戦い方は荒く、本当に獣のようだ。

 そして、俺に詠唱をさせる暇を与えてこない。


 だが俺の腕に噛みつき、勝ちを確信しているであろう今なら。


 俺は右手を堕ち星の口の側面に移動させ、左腕と右手に星力を集中させる。


「炎よ。我が両腕を種火として燃え上がり、堕ちた星の座と成りし者を焼き尽くせ」


 右手から堕ち星の口に向けて炎が発射される。

 同時に、堕ち星の口からも炎が溢れだす。


 すると堕ち星は慌てて俺の左腕を離して、後ろに下がった。


 そして口を開けたまま「口の中を、焼いてくるとはね」と呟いた。

 だが、喋りづらそうで聞き取りづらい。


 どうやら、多少は痛手を与えられたようだ。


 そう思いながらも、俺は返しの言葉を口にする。


「それぐらいしないと、お前に痛手は与えられないと思ったからな」

「そう。

 ……まぁ、今日のところは引いてあげるよ」


 そう言った後、堕ち星は跳びあがった。


 そのまま枝を飛び移っていき、その姿は見えなくなる。

 気配も遠のいていく。



 ……どうやら、何とかなったようだ。


 そして、今は追撃をするほどの余裕はない。

 なので俺は右手でギアからプレートを抜いて、星鎧を消滅させる。


 噛まれた左腕と蹴られた鳩尾、そして頬がうっすら痛む。


 あの堕ち星、どうやって倒せばいいのか。


 そう考えていると、「まー君!」という声が聞こえた。


 振り返ると、制服姿に戻った由衣がこちらに向かって歩いてきている。

 だが、その足取りは少しふらふらしている。


「まー君、大丈夫?

 腕……噛まれてたよね?」

「大丈夫だ。

 それより、お前こそ投げられて木に打ち付けられてただろ」

「あ~……うん。大丈夫」


 そう答えた由衣の目は泳いでいた。


 まったく。自分のことを優先して欲しいものだ。


「……それで、どうするの?これから」


 そう言葉を投げてきたのは、木にもたれている日和の横にいる智陽だった。

 どうやら日和の怪我の有無を確認してくれているようだ。


 そして、重傷を負ったやつはいないようだ。


「とりあえず、警察に連絡する。

 その後は志郎しろう鈴保すずほも呼んで作戦会議だ

 2人とも、怪我は大丈夫か?」


 するとその言葉に由衣が「私は大丈夫」

 そしてそのまま「ひーちゃんは?」と質問をまわす。


「うん。私も大丈夫」

「それならいい。

 だが少し休んでろ。俺は警察に連絡を入れる」


 そう言った後、俺は丸岡刑事に連絡を取るためにスマホを取り出した。

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