第220話 呼んだ覚えはない
「何で由衣にこの部屋の合鍵を渡したんですか」
「真聡がいつ目を覚ますかわからなかったから仕方ないだろ」
そんな焔さんの言葉に、俺は「それなら伝言を残してください」と言い返す。
すると、焔さんは少し間を開けてから「……あれ」と呟いた。
「由衣から何も言われなかったのか?」
「昨日、帰ってきて初めて知りました」
俺がそう返すと、焔さんは目を逸らした。
まったく。いくら由衣達とはいえ、俺の部屋には使い方によっては兵器よりも危険なものが置いてあるというのに。
呆れながらも、俺はソファーの背もたれに身体を預ける。
俺の誕生日の翌日、午前11時前。
俺は友人達に協会や魔師社会のことを話すべく、全員が集まるのを待っていた。
その間に昨日の夜に星雲市《この街》に戻ってきた焔さんを問い詰めていた。
……まぁ、そんなことをしても無駄なのは分かっているが。
そんな呆れている俺を、既に来ている佑希が何とも言えない表情で見ている。
あと智陽も既にいて、テーブルを挟んだ向かいのソファーでスマホを見ている。
あと5分ほどで、集合に指定した11時になる。
そのとき。
部屋の扉が勢いよく開いた。
そして「みんなおっはよ~!」と今日も元気な由衣を先頭に、見慣れた顔ぶれが入ってくる。
友人達は軽く挨拶をしながら、もはや定位置となっている場所に各自座っていく。
しかし、1人だけ違った。
「えっと……私、どこに座ったらいいかな?」
そう言ったのは、入ったところで立ち止まっている矢持 満琉だった。
確かに1人多いとは思っていた。
だが、矢持を呼んだ覚えはない。
俺は反射的に「いや、何でいるんだ」という言葉を口にしていた。
俺の言葉を聞いた矢持は「……あれ?」と、俺の隣に座っている由衣の方を見た。
それに続いて、向かいのソファーの鈴保が「由衣、まさか……」と呟く。
「……ごめん!忘れてた!」
隣に座っている由衣から、そんな元気な声が飛んできた。
……いや、元気に言うことではないが?
俺は気を取り直して、「お前な」と由衣に苦言を投げる。
「今日は大事な話をするって言ったよな。何で無断で人を呼んでるんだ」
「連絡しなかったのは謝るけどぉ……でもみっちゃんだって、一緒に戦う仲間でしょ?」
由衣が少し口を尖らせながらそう言った。
……まぁ確かに、由衣の言うことは一理ある。
矢持本人は戦えないとはいえ、よく一緒に行動しているらしい射守 聖也は射手座の神遺保持者だ。
実際、地下水路での戦いや天秤座の戦いでも援護をしてくれている。
……状況が変わった以上、射守も仲間に引き入れれたら楽なんだがな。
だが、現状目途が立たないことを考えても仕方がない。
とりあえず俺は、矢持本人の考えを聞くために「……矢持は何で来た」と言葉を投げる。
「『戦いに関係する大事な話をする』って由衣ちゃんに教えてもらったからさ。
それだったら、聖也も知っていた方が良いことだろうなと思って。でも本人は来ないから私が代わりに聞いて伝えようと思って」
それだったら……断る理由はないか。
そう思いながらも俺は一応、焔さんに「焔さんはどう思います?」と話を振ってみる。
「いやいや、俺が決めることじゃないだろ~」
予想通りの雑な返事が返ってきたので「ですよね」と返す。
そして矢持に「じゃあ、適当に座ってくれ」と伝える。
すると智陽が「ここ座って。私椅子取ってくる」と言いながら、向かいのソファーから立ち上がった。
……それにしても、流石に9人となるとこの部屋も狭く感じるな。
そんなことを考えていると、矢持と智陽がそれぞれの席に座ったので俺は質問を投げかける。
「さて、話をする前に1つ質問をする。
お前らは『空想上の動物、妖怪、幽霊、神様』こういったものについて、どう思っている?」
言い切ってから、一通り全員の顔を見る。
それぞれ考えていることは違いそうだが、難しい顔をしている。
まぁ、今上げたものを日頃から考えているやつは……そういないだろ。
だが考えてもらうだけでは話が進まない。
こういうときに一番最初に聞く相手は決まってる。
気兼ねなく聞けて、普通そうな答えを言いそうな相手。
「由衣」
「わ、私!?」
「予想をしてなかった」という声で返事をする由衣。
何でそんな反応なのかはわからないが。
だがそんなことをいちいち気にしてると日が暮れる。
それに由衣を選んだのは、普通の回答をしてくれるという謎の自信があったからだ。
なので俺は「何でもいい。どう思ってる」と少し急かす言葉を投げる。
「え、えぇ……?あんまり考えたことない……かな……。
だって存在しないでしょ?
あ、でも何か困ったことは『神様お願いします!』ってお願いするかなぁ」
考えていた方向性の答えで安心感を覚える。
俺は「だろうな。ありがとう」と返す。
由衣が「わかってたのに聞いたの!?」と言いながら、俺の肩を掴んで揺さぶってくる。
だが、俺はそれを無視して「次は誰に聞くか」を考える。
もう1人か2人には聞いてみたい。
できれば、変化球が欲しい。
そうなると、聞く相手は簡単に絞られた。
「智陽」
「やっぱりきた。いないだろうけど、いたら面白いとは思うよ」
以前、ペルセウスの神話に詳しかったことからそんな気がしていたが、やっぱりそういうタイプか。
このぐらいでいいだろう。そろそろ話を進めるか。
そう思ったとき、向かいのソファーに座ってる鈴保の様子が少し変なことに気が付いた。
視線が凄く泳いでいる。
気になった俺は「鈴保、どうした」と声をかける。
「な、何?私?
他はどうでもいいけど、幽霊と妖怪だけは絶対に信じないから」
「どうした」と聞いただけなのに、早口で答えた鈴保。
……もしかして、鈴保はそういう系は苦手なのか?
そんなことを思ったが、今ツッコむべきことじゃない。
なので俺は「さて」と呟いて、話を進める。
「『何でそんなことを聞いたか』って思ってるだろうが。
実は今上げたもの、全部存在するからだ」
「え?」「は?」
友人達のそれぞれ驚いた声を部屋の中に飛ぶ。
特に隣の由衣と向かいの鈴保の横に座っている志郎の驚く声が大きい。
だが、この事実はまだ序の口だ。
「そういうものや、俺達の力などを管理する団体も存在する。
それが、『世界神遺等保護管理協会』だ」




