第021話 尾行
「まさか、噂の正義のヒーローの正体が愛想の悪い同級生だったとはね」
智陽ちゃんの言葉に、まー君は「……それは俺達じゃない」と返して視線を逸らした。
そんなまー君の横顔を智陽ちゃんは「ふ〜ん……」と呟きながら眺めている。
私は今、市立病院近くの公園のベンチに座っています。
まー君はそんな私と智陽ちゃんの向かいでふらふらしてる。
智陽ちゃんが私達をつけていたってことも気になったけど、先に市立病院にはえ座がいないかを確認するべきという話になった。
そして今のところ病院はいつも通りだったので、近くの公園で智陽ちゃんから話を聞こうとしてます。
それにしても……いつからつけられてたんだろ?
まー君はいつから気づいてたんだろ……?
まー君は視線を戻さないまま、智陽ちゃんに質問を投げる。
「で、ここ数日俺を尾行していた理由はなんだ」
「う〜ん……興味本位?」
「興味本位で人を尾行するな。で、目的は」
「……私も怪物退治、協力させてよ」
「え?」
「だからそれは俺達じゃない」
まー君……やっぱり知らないフリするんだ……。
でも智陽ちゃんも負けじと言葉を返す。
「へ〜。遠足の帰りに白上さんがあなたと話した直後に始まった戦闘。そして、あなたと白上さんは帰りのバスに乗ってない。それ以降は学校ではほとんど一緒行動している。入学直後に泣かし泣かされた人たちが。
これだけ証拠を並べてもまだ否定できる?」
まー君の視線は相変わらず、智陽ちゃんから離れてどこか遠くを見ていた。
流石にこれだけ並べられたら否定しにくいみたい。
というかどんだけその話は広がってるの……?流石に恥ずかしいんだけど……。
そう思っていると、まー君が口を開いた。
「協力してどうするつもりだ。お前、戦えるわけじゃないだろ」
「戦うなんて一言も言ってないけど?」
「じゃあ、何ができる」
「私が怪物騒ぎの情報を集めてあげる。ネットの情報をね」
「怪物騒ぎの噂は消されるぞ」
「私なら消される前に見つけることができるけど。
次は市立病院が狙われてるんでしょ?まさか、ずっと見張っとくつもり?」
まー君はまた黙ってしまった。
ちなみに私は何にも考えてなかった。
でも今のまー君なら1人でずっと見張ってそう……。
流石にそれは色々と駄目じゃない?
……というかネットの怪物騒ぎの噂は消されるって言った!?どういうこと?
でも、多分今聞いたら怒られそうな気がしたので私はその疑問を頭の隅に追いやる。
今はまずは智陽ちゃんのことだよね。
そう思った私は自分の考えを口にする。
「私は……智陽ちゃんに手伝ってもらってもいいと思うな……?
だって智陽ちゃんは戦うわけじゃないんだしさ。それにずっと見張ってるのは、流石にまー君も疲れるでしょ……?」
再び訪れる沈黙。
誰も喋らない。
流石の私でも凄く気まずいんですけど!
私は沈黙に耐えられず2人の顔を交互に見る。
するとまー君が口を開いた。
「もし俺が断ったらどうする?」
「ネットで全部バラす」
「全て消されるってさっき言ったよな?」
「それはわかってる。だから、こっちも発信し続ける。そしたらいつかは致命的な一撃になるんじゃない?」
まー君はまた黙ってしまった。
よくわからないけど……怖い話をしてない?
そして、まー君が再び口を開いたのは少し時間が経ってからだった。
「わかった。その代わり2つ条件がある」
「どうぞ」
「1つ目。協力してもらうからには情報をばら撒くのはなしだ。ネットにも周りにもな」
「それはもちろん。2つ目は?」
「2つ目は俺達のことは全部は話さないぞ。理由は信用ができない」
「同級生なのにそれは酷くない!?一緒に遠足に行った仲だよ!?これは文句言っていいよ智陽ちゃん!」
「いや、いいよ。それで。」
「いいの!?」
やっぱり智陽ちゃんはよくわからない。
私と全然違うタイプってのもあると思うけど、自分のことほとんど話さないから何考えてるか全然わからない。
でも悪い子じゃないと思うんだけどな……。
「最低限の情報だけ共有する。最低限だが、他言無用だぞ」
「もちろん」
色々考えている私を置いて、まー君は智陽ちゃんに澱みと堕ち星、そしてはえ座の堕ち星について話し始めた。
☆☆☆
智陽ちゃんが協力してくれることになってから数日経った。
そして、連休が終わってしまった。
学校は楽しいし行きたくないってわけじゃない。
でも、夏休みまで休日がないって聞かされると少しなんとも言えない気持ちになる。
連休後半は麻優ちゃんや桜子ちゃん達と5人で遊びに行った。
皆私服がお洒落で可愛かった。
特に麻優ちゃんは遠足のときも思ってたけど、センスがとてもいいと思う。
よく行くお店とか、コツを教えてもらったので私も頑張ってみようと思う。
あ、あとまー君とひーちゃんの3人でお茶会もした。
場所はまたあのコーヒーチェーン店に行った。
せっかくまー君と再会できたし、3人で来たいって思ってたからとっても嬉しかった。
最初まー君は飲まないって言ってたけど、2人で選んだカスタムを飲んでもらったら、凄く美味しそうに飲んでた。
言葉にはしなかったけど目がキラキラしてた。
あともちろん3人で写真も撮った。
どっちもとっても楽しかった。
あ、もちろんまー君に特訓もしてもらった。
でも星鎧はまだ生成できない。
まー君はそのことには何も言ってくれない。
……やっぱり、私じゃ駄目なのかな。
自分はあんまり落ち込んだり悩んだりしないと思ってる。
でも流石に焦りや後ろ向きな気持ちが私の中に生まれていた。
☆☆☆
「今日からテスト1週間前だからな〜。しっかり勉強するんだぞ〜」
タムセンがみんなに最後にそう呼びかけて、ホームルームが終わった。
教室から少しずつみんなが帰っていく。
そう、今週からテスト週間。
タムセンにも「テストはしっかり点を取ってくれよ」と言われているので頑張らないと……とは思うんだけど、勉強は苦手なんだよね……。
ホームルームも終わったので、とりあえず私はまー君に話しかけに行く。
「まー君、今日はどうする?」
「いやお前、勉強しろ」
「え〜……」
「え〜。じゃないタムセンにも言われただろ。ほら帰るぞ」
そう言って、まー君は席から立ち上がる。
「今日は帰って提出物をやろう……」と諦めたとき。
私達に智陽ちゃんが「ちょっといい?」と小声で話しかけてきた。
「どうした」
「市立病院に警察が集まってるみたい。怪物が出たって話も上がってる。すぐに消されたけど」
「ついに来たか……。助かった。行くぞ由衣」
そう言ってまー君は急いで教室から出ていった。
私も「智陽ちゃんありがと〜!」とお礼を言いながら、急いで後を追いかけて教室を後にした。