第212話 渡された
「テーブルさん座」
天秤座のその言葉と同時に、真聡の足元が勢い良く盛り上がった。
反応できなかった真聡は上に吹き飛ばされていく。
完全な不意打ち。
流石の真聡でもこれはヤバいだろ。
そう思った俺は、カバーに入るために天秤座の距離を詰める。
鈴保と佑希も同じ考えみたいだ。
だったら3人で同時攻撃を仕掛ければいい。
けど。
「本当に面倒な!」
天秤座が身体から黒い靄を放った。
衝撃波のように襲ってくる黒い靄。
俺達3人は吹き飛ばされ、後ろに下がる。
天秤座はそのまま空中にいる真聡に向けて、黒い靄を放った。
その靄は、無抵抗の真聡に綺麗に命中した。
さらに吹き飛ばされ、遠くへ落ちていく真聡。
そして、黒い鎧は建物の向こうへ消えていった。
「真聡はある程度のタイミングで、1度前線から下がる」のは話し合って決めてた。
けど、あのやられ方は大丈夫なのかよ。
そんな心配が湧いてくる。
でも、それを気にしてる場合じゃない。
「天秤座とはここで蹴りを付ける」とも真聡は言っていた。
だったら、俺達は真聡が戻ってくることを信じて戦い続けるしかないよな。
俺は気を取りなおして、真聡から渡されたプレートをリードギアに挿し込む。
俺が真聡から借りたのはこじし座。
いつも真聡が近接戦闘をするときに使っている星座。
だったら俺にもうまく使えると思って、こじし座を選んだ。
……本当はペルセウス座を借りたかったけど、作戦上仕方ねぇ。
ボタンを押してリードギアを起動させる。
すると、身体中にいつも以上に力がみなぎるのを感じた。
「扱いには気を付けろ」と真聡が言ってた意味が、分かった気がした。
けど、これならさっきよりもうまく戦える。
俺はそのまま、その漲る星力と共に地面を蹴る。
そして一気に間合いに入って、天秤座に拳をお見舞いする。
けど。
「流石に慣れたよ。君の拳も」
俺の拳は、そのような言葉と共に受けられてしまった。
拳を握る天秤座の手は、岩のグローブつけてるみたいだ。
最初は結構効いていた。
だけど、真聡と話す前にもかなり接近戦を仕掛けてた。
どうやらもう対策されたみたいだ。
そして「お返しだ」と呟きながら、天秤座が反対側も拳を構えている。
俺はその一撃を避けるために、全力で天秤座の手を払う。
すると思ったよりあっさり抜け出せることができた。
そしてそのまま、俺は間合いの外へ出るため後ろへ跳ぶ。
その結果、簡単に間合いから出ることができた。
いつもと同じ力加減なのに、いつもより遠くへ下がれた。
距離を詰めるときも感じたけど、これが星座の力を2つ使った力か……。
そう思いながらも、天秤座を確認する。
今は鈴保と佑希が俺と入れ替わるように前に出て天秤座と戦っている。
そして、2人の攻撃の隙を狙って日和が水弾を撃っている。
俺はまた地面を蹴って、戦場である市役所前広場を駆ける。
そして天秤座の背後を取る。
鈴保と佑希が攻撃を受けて後ろに下がった。
俺は入れ替わるように、天秤座との距離を詰める。
けど、天秤座は俺の方を向いた。
気づかれた。
けど俺は、構わず拳を振るう。
その結果、天秤座が受ける体勢に入るより先に、俺の拳が天秤座を吹き飛ばした。
吹き飛びながらも体勢を整える天秤座。
次はどう動く?
様子を見ながら構えている俺の隣に、左半分が黄色の鎧の佑希が並んできた。
それに少し遅れて、深紅色の鎧の鈴保が「リードギア使いこなしてるね」と呟きながら来た。
それとほぼ同時に、立ち上がった天秤座が「真聡以外にも2つ使うなんてね……」と呟いた。
確か、この天秤座の堕ち星は真聡の中学生時代の友達。
それで去年の12月に戦った後、行方不明になった。
……なんかおかしくね?
なんか変な感じがする。
そう思ってた隙が、命取りだった。
「まぁいいか。
大地よ、隆起せよ。テーブル山のように」
天秤座がそう呟いた。
きっと真聡を吹き飛ばしたあの技が来る。
そう感じた俺は慌てて後ろに下がる。
しかし、遅かった。
足元が急に盛り上がって、俺の身体は宙に放り出された。
当然、俺よりも天秤座に近い鈴保と佑希も同じように。
このままだと、俺達も真聡と同じ目に合う。
でも俺は、こじし座のお陰で2人よりは距離を取れてる。
だから2人と比べたらまだそこまで高く飛ばされてない。
……何とかしねぇと。
そう思った俺は武器を生成して、斬撃を天秤座に飛ばす。
けど、岩の壁を生成されて防がれた。
しかし、その隙に遠くにいて無事だった日和と由衣が近づいていた。
そして由衣が前に出て、日和がすぐ後ろから水弾を撃ちこむ接近戦が始まった。
一方俺は、2人が天秤座の気を引いてくれてるお陰で無事に着地出来た。
そのとき。
由衣が岩を纏った拳で吹き飛ばされた。
そして日和には、空中に作られた岩が迫ってる。
もちろん、俺は既に援護に入るために走り出している。
でも間に合わねぇ。
そう思っていると、日和はリードギアにプレートを差し込んだ。
そして、走り出した。
日和はそのまま天秤座の周りを走りながら跳ねて、飛んでくる岩を避けている。
同時に水弾も撃ち続けている。
確か、日和が選んだのはとびうお座。
佑希が回収していたやつ。
とびうおって……確か水面を跳ねるよな。
……だから跳ねるように動いてるのか。
そんなことを考えながらも、俺は天秤座の斜め後ろから間合いに入った。
そして武器の爪で刺すように拳を突き出す。
けど、避けられた。
同時に飛んでくる「君、凄く前に出てくるよね」という言葉。
俺は「それが俺の戦い方だからな!」と叫びながら、今度は左の拳を振り上げる。
爪先は天秤座の避け損ねた身体を掠めた。
「君は君で、面倒だ」
その言葉の後、足元がまた揺れ始めた。
また盛り上がるのが来る。
そう思ったとき。
どこからか深紅色の槍が飛んできた。
天秤座はその槍を叩いて逸らした。
それと同時に「どいて!」という叫び声が聞こえた。
俺は反射的に右に避ける。
するとさっき俺がいた場所を、深紅の鎧が駆け抜けた。
そのまま天秤座に迫っていく深紅の鎧。
鈴保だ。
そして鈴保は投げた槍を再生成して、天秤座に向けて振るう。
天秤座は槍の穂先を受けないように、岩の鎧を作って防いでいる。
そこに半透明の羊と水弾も、天秤座を目掛けて飛んできた。
対応が間に合わなくなったのか、由衣の羊が効いたのか。
天秤座の岩の鎧が崩れ、槍が入った。
鈴保はそのまま槍で突き刺す。
すると槍の穂先は、天秤座の右の脇腹に刺さった。
しかし、天秤座は自分に刺さっている槍を掴んだ。
「よって……たかって!!」
その叫びと共に天秤座が身体を半身引いた。
槍と鈴保は天秤座に引き寄せられる。
このままだとマズい。
そう思って俺はまたリードギアを起動させて走り出す。
けど、鈴保も考えなしじゃなかったらしい。
「佑希!」
その叫びとほぼ同時に、上からカードが降り始めた。
そしてそのカードは爆発し始める。
けど、この距離だと鈴保まで巻き込まれる。
そう思った俺は走り出しながら「文句言うなよ!」と叫ぶ。
そのまま鈴保を担ぎ上げて、腹を肩に乗せる形でその場を離れる。
そして、少し離れた場所で下ろす。
振り返ると、爆発の煙で天秤座は見えなくなっていた。
そこで鈴保が「雑い」と呟いたのが聞こえた。
「無茶言うなって……」
「でもまぁ、打合せなしで今のは良かった。
あの担ぎ方のお陰で天秤座の方を向いてたから、毒を撃ちこんでおいたし」
……なんで鈴保は毎回、俺には最初辛辣なんだ?
でもまぁ、結果的に褒められたから良しとするか。
そう思っていると、上から「良い連携だったな」という言葉が聞こえた。
その直後、俺達の隣に佑希が下りてきた。
右手には紐のようなものを掴んでいて、その先には10羽ぐらいの鳩がいる。
……なるほどな。
佑希ははと座を使ってずっと上空にいたのか。
そこで俺の中に1つの疑問が浮かんだ。
「……鈴保はどうやって降りてきたんだ?」
「佑希に頼んで木に向けて私を蹴ってもらった。
で、とかげ座の力で壁に張り付いた衝撃を抑えた」
サラッとそう言った鈴保。
あまりにも力技な方法に、俺は「雑というか……よくそれで何とかなったな……」と思った。
でもそう言うと「文句ある?」と言われる気がする。
なので俺は「よく思いついたな、それ……」としか言えなかった。
そのとき。
爆発の煙が晴れていくのが見えた。
しかしその中心で、天秤座はまだ堕ち星の姿で立っていた。
その姿を見て、俺の口からは思わず「まだ立てるのかよ……」と言葉が零れた。
けど、弱気になってる場合じゃねぇ。
俺達3人は武器を持って構えて、次に備える。
けど。
「僕の行く手を阻むもの、万死に値する罪と心得よ」
その言葉が聞こえたと同時に、身体に凄い圧がかかった。
全身を襲う、立てないぐらいの重さ。
その圧に、俺達は戦場に膝をつくことを強いられた。




