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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
12節 手を伸ばす

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第209話 勝手にしろ

「どうしてそこまで、俺のことを追いかけるんだよ。

 ……いっそ、俺のことを嫌いになれよ」



 静かな地下駐車場に、俺のそんな絞り出したような言葉が響いた。



 誰も口を開かず、コンクリートの冷たさのような空気。



「……なるわけないじゃん」



 そんな空気を、由衣ゆいのその一言が破った。



「だって今の私がいるのは、幼稚園の頃(あのとき)にまー君が私を受け入れてくれたからだよ?

 だから、今度は私がまー君を受け入れる番。


 だから聞かせて欲しいの。

 いなくなった中学生の間に何があったの?あの天秤座の堕ち星と女の子は誰なの?

 ……まー君は、何を怖がってるの?」


 魔師社会に、由衣達は巻き込まない。



 だからこれ以上は何も話さない。



 そう決めていた。



 しかし、その意思に反するように俺の口から言葉が零れる。


「……あの2人は、俺の中学時代の友人だ。

 そして俺は、あの天秤座の堕ち星と成った友人を、殺したんだ。

 そのはずなのに、天秤座は現れた。


 俺が怖いのは、お前らが傷つくことだ。

 どうしても俺は、お前らが稀平きっぺいのように堕ち星に成ってしまうのではと考えてしまうんだ。

 ……俺はもう、大事な人を失いたくないんだよ」


 その言葉の後。

 俺は両手で口を、目を、顔を覆う。



 これ以上、余計なことを話さないように。




 これ以上、戦いの邪魔になることを認識しないように。




 しかしその両手首は、包み込むように静かに掴まれた。



 そして、俺の両手は顔から離された。



 目の前には、由衣がいた。


「……ありがと。

 でもね、私も同じ気持ちなの」

「だったら、もう俺に関わらないでくれよ。」

「そうじゃなくて、私も()()()()()()()()()()()()の。

 ……もう、大事な友達といきなりさよならになるのは、嫌なの」


 由衣の言葉が心に刺さる。



 でも俺は、あの時の決意を無駄にしたくなかった。



 これ以上の会話は不要なのはわかってる。

 ここから逃げて、天秤座との戦いに戻ればいい。


 しかし、俺の口からは意志と反して言葉が溢れ出る。


「だから、俺に関わるなよ。

 頼むから俺のことを嫌いになって、忘れてくれよ。

 その方が、俺だって楽になれる。1人で戦えるんだよ。」

「1人で誰かのために戦うの?

 ……まー君、小学校の頃はずっと、周りの人が笑顔で入れるようにしてたよね

 今はそんな小さな話じゃないことぐらい分かってる。

 でも、まー君が誰かのために戦うならさ。まー君は誰が守るの?」

「俺のことなんて、どうでもいい」

「だったら。……私達に、守らせてよ。

 私はまー君に比べたら全然弱くて、頼りにならないかもしれないけどさ。みんなで力を合わせれば、少しぐらいは力になれない?」


 そのタイミングで周りにいた5人の友人たちが近づいてきた。

 そして次に口を開いたのは日和ひよりだった。


「そろそろ意地張るの辞めたら?

 こうなった由衣は止めても聞かないの、真聡まさとだってわかってるでしょ」

「『1人では届かないものでも、仲間がいれば手が届くこともある』って、前に真聡自分で言ってただろ?

 それに由衣だけじゃなくて、俺達も真聡に助けてもらったんだ。だから俺達だってお前を助けたい。

 だからさ、もう少しちゃんと頼ってくれよ。なぁ?」


 続いて口を開いた志郎しろうが、隣にいる鈴保すずほに同意を求めた。

 すると鈴保は「何で私に振るのよ」と呟いた。


「でもまぁ。私も、あんたの言葉で目が覚めたのは事実だし。

 だから真聡が折れそうなときは、意地でもその腕を引っ張ってあげるから」

「私との約束、忘れてないよね。果たすまでは独りになんてさせないから」


 続く智陽ちはるが少し怖いことを言っている。


 ……だが「智陽の父親を探すのを手伝う」と言ったのは俺だ。


 俺は同じ親がいない智陽に、少し仲間のような気持ちを抱いていた。

 そんな智陽をここで見捨てるのは……あまりにも酷すぎる。


「まぁ、そういう訳だ。もう諦めて全部話した方が良いと思うぞ。

 それにみんな、真聡が思っているよりは弱くないぞ」


 佑希ゆうきが、纏めるようにそう言った。


 ……佑希め。

 由衣をはじめ全員に何か吹き込んだな。


 そう思ってる間に、また由衣が「だからさ」と口を開いた。


「もう1人で背負うのやめて。独りになろうとしないでよ」



 由衣の目が、まっすぐ俺の目を見ている。



 純粋な目。



 ……眩しい。



 そのとき。

 懐かしい会話が頭の中に浮かんだ。


『なんでひとりでいるの?』

『だって……どうおはなししていいかわからないの』

『う~ん……。

 あ!パパがいってた!ともだちをこまらせないぐらいのわがままはいいって!

 だから、ぼくはきみにもわらってほしい!ともだちになりたい!

 だから、なまえおしえて?』

『……ゆい』

『ゆい!いいなまえ!よろしく!

 いこ!みんなであそぼうよ!』



 ……そうだ。

 こいつ(由衣)に最初に手を伸ばしたのは俺だ。



 そして今は、閉じこもる俺に由衣が手を伸ばしている。



 幼稚園のとき(あのとき)の、逆のような状況だ。



 それに気づいた俺の口から、少し笑いが零れた。



 まだ手首を握っている由衣が、不思議そうな声で「……まー君?」と呟いた。



 というか流石にずっと両手首を掴まれて疲れてきた。


 俺は「離せ」と由衣の手を振り払う。

 そして近いので数歩下がって距離を開ける。



 すると、振り離された由衣が「やっぱり……ダメ?」と聞いてくる。



 ……俺だって、覚悟を決めた。



 もうこんなやり取りを続けるのはごめんだ。



 それに、()()()()喋らされたしな。



「……勝手にしろ。

 ただし、全員無茶はするな。大怪我でも許さないからな」


 俺のそんな決意の言葉が、静かな駐車場に響く。



 次の瞬間。

 返ってきたのは、笑い声だった。


 その次に「……どの口が言ってるの?」という日和の言葉。


「間違いない。一番無茶してるのは真聡あんたでしょ」

「まぁまぁ。俺達は無茶しない、真聡が突っ走るなら止める、だろ?」

「うん!

 ……まー君。これからも、よろしくね?」


 由衣が俺の顔を見てそう言った。



 その由衣の顔は、いつもの眩しい笑顔だった。



 少し恥ずかしくなった俺は「あぁ」とだけ答える。




 ……いや。

 それよりも確認したいことがある。



「お前ら……俺になんか飲ませたな?」



 俺がそう聞くと、仲間達は露骨に視線を逸らした。

 同時に全員口籠ってる。


 この反応……やっぱりそうか。

 一番飲ませた可能性が高いのは……。


「智陽」

「何も知らない」


 ピシャリと否定されてしまった。

 だったら……。


「由衣」

「わ、私!?知らないよ!何も!」

「嘘つくな」

「な……何でバレたの……?」


 由衣のその反応に、また笑い声が響く。

 そして地下駐車場は「やっぱり駄目だった」という空気に包まれる。


 嘘つくのが下手なのも、昔から変わってないな。



 飲まされたのは恐らく、嘘が付けなくなる魔法薬「真実吐き薬」。

 入ってたのはあのペットボトル。


 入手できるのは清子きよこぐらいだろう。


 ……こいつらに渡した理由がわからないが。



 だがまさか、友人達こいつらに嵌められることになるとは……。




 そう思ったとき。




 どこからか爆音が響いてきた。



 全員、ほぼ同時に地下駐車場出口の方向を見る。



 そして由衣が「そうじゃん!戻らないと!」と叫んだ。



 その言葉で、俺はさっきの天秤座と仲間たちの戦いを思い出す。


 ほぼ最後の一瞬しか見ていないが、ほぼ防戦一方。敗色濃厚な雰囲気だった。


 俺の魔術もあまり効かない。

 そして、一般人からいきなり神遺保持者になった由衣達。


 そんな6人で戦ったところで、勝てるビジョンが見えない。


 そんな不安を、俺は友人達に投げる。


「……お前ら、一緒に戦うとは言ったが大丈夫なのか?」

「その心配なら、これがあればなんとかならない?」


 智陽がそう言いながら、自分の足元に置いていた2つの黒い見慣れたケースを持ち上げた。


 ……というか、智陽はいつの間に合流していたんだ?

 俺の部屋に置いて行ったはずだよな?


 そんな疑問は置いておいて、もっと大事な疑問を投げる。


「何勝手に持ってきてるんだ」

「真聡が置いていくからでしょ。

 それにこっちは……」


 そう言いながら智陽はもう片方の黒いケースを開けた。

 その中身は……。


「リードギア……7つも!?」

「そう。今あるギアの分だけって焔さんが言ってた。

 全員が2つ以上の星座の力が使えるなら、何とかなるんじゃない?」


 全員分のリードギアがあるということは、レプリギアを使用する全員が2つの星座の力を使えるということ。


 つまり、戦略がかなり広がる。

 それなら……。



「なる……かもな」



 そんな言葉が、俺の口から零れた。

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