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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
12節 手を伸ばす

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第208話 嫌いになれよ

 泥から浮かび上がるような感覚で意識が戻った。



 目を開けると、見慣れた天井が正面に見える。



 結局あの後、疲れからか制服のままで寝てしまった。


 とりあえず、時間を確認するためにスマホに手を伸ばす。


 スリープモードを解除すると、スマホの画面には10時17分と表示された。


 どうやら、合計12時間以上寝ていたようだ。


 寝ていた時間はもったいないが、お陰で今からでも多少なら戦えそうな身体と魔力量まで回復している。



 そこで、俺は昨日の出来事を思い出した。



 ……志郎(しろう)が「また明日来るわ」的なことを言っていた。

 そして今は10時過ぎ。


 嫌な予感がした俺はすぐに起き上がり、ベッドを囲っているカーテンを開ける。




 しかし、部屋は俺の予想とは異なる光景だった。




「おはよ。よく眠れた?」


 華山はなやま 智陽ちはるがスマホ片手にソファーに座っていた。



 1人だけで、他の奴らはいない。



 その光景を見た瞬間、俺は最悪の予感が頭をよぎった。


「何でお前だけなんだ。他の連中はどうした」

「……戦ってるよ。既に」


 智陽の口から最悪の予想通りの言葉が出てきた。


 「何で部屋に居たのに起こさなかった」と問いただしたい。

 だが時間が惜しい。


 俺は急いで普段着ている上着を掴んで、部屋から飛び出そうとする。



 しかし、扉を開ける直前。

 智陽が俺の前に立ちふさがった。


「どけよ」

「顔洗って」

「は?」

「どうせ昨日から何も口にしてないでしょ。だから顔と口洗って、テーブルに置いてるスポーツ飲料を少しでも飲んでから行って」


 智陽が何でそんなことを言うのか理解できなかった。


 だがこの感じ、従わないと部屋から出してくれそうにない。


 力ずくで出ていけばいいが……魔力の無駄だ。



 それに、傷つけたくはない。



 仕方なく、俺は洗面所まで戻って顔と口を洗う。

 そしてテーブル上に置いてあるスポーツ飲料を手に取る。


 蓋が緩い気がしたが、気にせず流し込む。


 空っぽの胃がいきなり来た液体に驚いているのを感じる。

 だが、そこを気にしてる暇はない。


 飲み干した俺は、すぐに「場所はどこだ」と言葉を投げる。

 空になったペットボトルの蓋を閉め、テーブルの上に置きながら。


「昨日と同じ場所」


 その言葉を聞いた俺は、礼も言わずに部屋を飛び出した。


☆☆☆


 市役所近くでは既に規制線が張られていた。 


 しかし俺が通り抜けようとした規制地点には偶然末松刑事がいた。

 そのため、止まらずに規制を突破できた。


 苦情が聞こえた気がするが、今の俺に構っている余裕はなかった。



 そして戦いの場では話の通り、5人の鎧を着た人間が1体の天秤座の堕ち星が戦っている。



 しかし、押されている。



 1秒でも早く堕ち星と仲間達を引き離したい俺は、走りながらも言葉を紡ぐ。


「我が身、何人たりとも見ること、知ること、感じること能わず。

 そして我が動き、人の目で追うこと能わず。その速さ、風の如く」


 認識阻害魔術と身体能力強化魔術を詠唱再使用して、人間離れした速度に達した。

 俺はそのまま、さらに堕ち星との距離を詰める。


 そして、仲間たちの隙間を縫って天秤座の懐に飛び込む。


 だが俺は生身だ。

 直接攻撃をするとこっちの手足の方が傷つく。

 そのため、格闘攻撃はできない。


 だから、俺は右手を天秤座に顔に向けて言葉を紡ぐ。


「火よ。堕ちた星の座と成りし天秤の座を、焼き尽くせ」


 右手から噴き出す炎が天秤座に直撃する。


 その炎を受けて、天秤座は後ろに下がった。

 認識阻害を使用していたため不意を突けたようだ。


 後は俺が天秤座を1人で抑え込めばいい。

 今日こそは失敗しない。


 仲間たちが俺の名前を呼んでいるのを聞き流しながら、気合いを入れなおす。



 そのとき。

 上に膨大な星力を感じた。



 見上げると、紫の光を放つ大量の矢が俺と天秤座を目掛けて落下してきている。



 ……射手座の射守いもり 聖也せいやの攻撃だ。



 今の俺は生身のため、当たるわけにはいかない。

 「タイミングが悪い」と心の中で文句を言いながら、後ろに下がる。


 そしてギアを喚び出すため、左手を右脇腹に添える。



 そこに、今度は俺の横を1枚のカードが通り抜けた。




 次の瞬間、強烈な光が辺りを照らす。



 予想外の出来事に俺は防ぐのが間に合わず、目がやられてしまったらしい。

 眼を閉じていても、視界がチカチカしている感じがする。



 これは佑希ゆうきのフラッシュのカードだ。



 ……何を考えているんだ佑希は。



 そんな愚痴を心の中に吐きながら、とりあえず光が収まるのを待つ。



 しかし、突然。

 お腹の辺りに何かが当たった。


 その直後、足が地面を離れたのを感じた。


「ちょっと我慢してくれよ!」


 声からすると、どうやら俺は志郎に抱えられているらしい。



 そして俺は、どこかへと運び出された。


☆☆☆


「いい加減に……下ろせ!」


 そんな叫びと共に、俺は地面に落ちた。



 ずっと暴れ続けていて、ようやく脱出できた。



 とりあえず転がって距離を取り、状況を確認する。



 視界は途中から戻ったので、周りの景色は見えていた。



 そして、連れてこられた場所はコンクリートに覆われた薄暗い空間。

 そんな中を電球が照らしていて、車も並んでいる。


 ここは恐らく、市役所の地下駐車場だろう。

 そして俺を運んでいたのは予想通り紺色と橙色の鎧、平原ひらはら 志郎しろう



 ……なるほどな。

 星鎧を纏った状態だから俺を小脇に抱えれたのか。



 そして、志郎の奥には2人の鎧。

 俺の後ろにも2人。



 囲まれている。



 ……そして、ここに5人いるということは。




 今、天秤座と戦っている星鎧を纏える星座神遺保持者はいない。




 そう気づいた瞬間、俺の口から反射的に言葉が飛び出した。


「何で全員で撤退した!天秤座の堕ち星はどうするんだ!」

「焔さんと射守、あとあの女子が相手してる」


 俺の後ろで紺と深紅の鎧を消滅させた鈴保すずほがそう答えた。


「堕ち星は星鎧を纏わないと戦えないのわかってるだろ!何を考えている!」

「それは」

「ひーちゃんありがと。でも、自分で話すから」


 一番奥から、星鎧を消滅させた由衣ゆいが歩いてきた。


 由衣の隣にいる日和、俺の後ろにいる佑希も星鎧を消滅させている。



 本当に……こいつらは何を考えている。



 一方、歩いてきた由衣は俺の正面で立ち止まった。

 そして「まずは……ごめんなさい」と頭を下げた。


 だけど、由衣はすぐに頭を上げた。

 しかし、由衣の言葉は続く。


「昨日『大っ嫌い』って言ってしまって、ごめんなさい。

 まー君が好きなのは、小学校の(あの)頃から変わらないよ。

 でもだからこそ、まー君にこの1年を否定されたと思って……『大っ嫌い』って言っちゃったの。本当にごめん。


 ……でも、違うんだよね?

 私達のことを大切に思ってくれてるから、『会いたいなんて、思わなきゃ良かった』って言ったんだよね」


 その言葉を聞いた俺の口から「誰だよ余計なことを言ったやつ……」という口が零れる。



 普段なら口にしないはずの愚痴が。



 しかし、由衣はその愚痴を気にせず話しを続ける。


「……まー君はさ、覚えてる?

 4月に保健室でさ、私が『まー君が話したくなるまで待ってるから』って言ったの。

 でもごめん。約束、破る。もう待てない。

 私は、大事な友達が苦しんでいるのをほっておけない」


 飛んでくるのは、静かだが力強い由衣の言葉。



 いつもの、言っても聞かないときの声。



 それに対して、俺の口からは「……何でだよ」と言葉が零れ落ちる。



「どうしてそこまで、俺のことを追いかけるんだよ。

 ……いっそ、俺のことを嫌いになれよ」



 静かな地下駐車場に、俺のそんな絞り出したような言葉が響いた。

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