第198話 何でお前が
「そういえばさ、もうすぐだよね?」
「何がだ」
「主語言って、主語」
あんな最悪の目覚めだったが、何とか期末テスト最終日を乗り越えた。
そして今は、由衣と智陽と共に帰り道を歩いている。
他のやつは部活や用事があるらしい。
そして主語がないため、由衣が何が言いたいのか全く分からない。
「まー君ならわかるでしょ?」
「主語がないからわからん」
「も~!誕生日だよ!まー君の!
もうすぐでしょ?」
由衣にそう言われて、ようやく思い出した。
俺の誕生日は12月27日。
確かにもうすぐだった。
去年のあの戦い以降、そんなこと考えている暇すらなかった。
だから今、由衣に言われるまですっかり忘れていた。
だが、言われたところで何も変わらない。
無視したいが……文句を言われるのは目に見えている。
なので「だからどうした」とだけ返す。
「……何で最近また冷たいの?」
「別に。それしか感想が浮かばなかったからだ」
「む~…まぁいいや。じゃなくて、覚えてない?
私達さ、誰かの誕生日は5人で集まって誕生日会してたじゃん!」
すると、智陽が「そんなことしてたんだ……」と呟いた。
その言葉に、元気よく「そうなの!」と返す由衣。
「だからさ、今年はみんなで誕生日会したらいいと思うんだけど……どう?」
それを聞いた智陽が「それ本人に聞く……?」と呆れたような声で呟いた。
だが俺はその言葉を気にせず、素直に思ったことを口にする。
「……そんなことしなくていい」
「えぇ~!?なんで!?」
「ほらやっぱり」
そんな約束をしたら丸一日拘束されることは間違いない。
俺は、早く仲間達から星座の力を切り離さないといけない。
蟹座の力を使えるようにならないといけないんだ。
……そんなことをしてる暇はないんだ。
それに俺は、人殺しだ。
生誕を祝われていい存在じゃない。
だが、そんな俺の考えを知らない由衣はしつこく「ねぇ~」と話を続けてくる。
「さっちゃんは居ないけど、せっかく昔みたいに一緒なんだからさ~。
しようよ~!誕生日会!」
「しなくていいと言っただろ」
「えぇ~……。あ、そうだ!
欲しいものとかないの?」
「ない」
……いや。そもそも、由衣はバイトしてないだろ。
プレゼントを買うにしてもそれは、由衣の父親のお金だろ……。
そんなことを考えながら、由衣が話しかけてくるのを気にせず歩く。
すると突然、腕を掴まれた。
前に進めないので、俺は仕方なく立ち止まる。
次に「ねぇ。まー君、最近……冷たいよ」という言葉が飛んできた。
……焦りが、バレているのだろうか。
だが、口にすると喧嘩になる。
そのため俺は「……別に。いつも通りだ」と言いう返す。
しかし、由衣の言葉は止まらない、
「ううん。文化祭終わった後からずっと変。
……ねぇ。まー君は何を考えてるの?」
不必要なことまで首を突っ込んでくる。
由衣の悪い癖だ。
昔から、何も変わってない。
今の俺には、そんな由衣が鬱陶しく感じた。
だけど、俺だって由衣と喧嘩したいわけじゃない。
……なんて誤魔化そうか。
でも、もう隠すのも限界なのかもしれない。
そう思ったとき。
ゾワッとする、嫌な気配を感じた。
近い。
……行かなければ。
そう思った俺は由衣の手を「離せ」と無理やり振り払う。
「ねぇ!どこ行くの!」
「……澱みだ。来たければ来い」
由衣と智陽にそう言い残して、俺は気配のする方向へ走り出した。
☆☆☆
澱みが居たのは市役所近くの広場だった。
警察はまだ来ていない。
逃げれていない人もいる。
……急がないといけない。
そう思ってギアを喚ぼうとしたとき、右の肩と腕を掴まれた。
どうやら由衣が掴んだらしい。
荒い呼吸と共に「ほ、ほんとだ……」という声が聞こえる。
「とりあえず、全員に連絡する?」
さらに少し遠いが、智陽の声が聞こえてきた。
やはり、2人とも着いてきたらしい。
俺は智陽に向けて「……報告だけ頼む」と口を開く。
「無理に来る必要はない」
「澱みだけなら私達でなんとかできるよ!いこ!」
由衣がそう言って、俺から手を離して横に並んだ。
俺と由衣は鞄を下ろした後。慣れた手つきでギアを呼び出し、プレートを生成する。
そしてギアに挿し込んで、それぞれが決めた手順を取る。
俺は左腕で目を隠し、由衣はファイティングポーズで構える。
「「星鎧生装」!」
2人の高校生の声が重なる。
同時に上側のボタンを押されたギアから、山羊座と牡羊座が飛び出す。
星座は紺色の光を放ち、それぞれ選んだ相手を飲み込む。
その光の中で俺は紺色のアンダースーツと紺色と黒色の鎧に身を包む。。
そして、光は晴れる。
「さっさと片付けよ!」
そう言いながら、紺色と赤色の鎧に身を包んだ由衣は飛び出していった。
俺も続いて飛び出す。
由衣は杖を生成しながら逃げ遅れた人を襲う澱みに攻撃する。
そして、澱みを対処しながら人々を広場から遠ざけていく。
一方、俺は澱みが多い方へ向かう。
そして攻撃する手足に炎を纏わせて、澱みを焼き払う。
火、水、草木、土、風、氷、電流。
発生原理が解明され、魔法から魔術へと成った七属。
7つともある程度使えるようになった。
しかし、やはり一番最初に焔さんから教えてもらった火が一番使いやすかった。
火や水、風は澱みにより効くという性質もあるようだし。
俺は再び拳に炎を纏わせて、残りの澱みを炎で焼く。
その後、5分も経たないうちに澱みは殲滅出来た。
まだ他のメンバーは来ていない。
……結構いたはずなんだがな。
俺もしっかり強くなれているんだろうか。
そのとき。
背中が軽く押されると同時に「まー君お疲れ!」という声が聞こえた。
後ろに視線を向けると、由衣がすぐそこにいた。
星鎧を纏っているが、満面の笑顔なのが容易く想像できる。
すると、由衣は「これで……全部なのかな?」と呟きながら首を傾げた。
「……最近、澱みが出たときは堕ち星もいたよね?」
そう言葉を続けながら、辺りを見回す由衣。
確かに、地下貯水路の戦い以降は澱みだけで現れることはなくなった。
澱みが出るときは堕ち星とセットだった。
だが今は堕ち星の気配を感じない。
由衣にもそのことを伝えようとしたとき。
全身に寒気を感じるほどの嫌な気配を感じた。
流石の由衣も感じたのか、「え……何、今の…」という声が聞こえる。
俺は急いでその気配の主を探そうとする。
しかし、それよりも早く気配の主は現れた。
「あのときよりも強くなってるね。真聡」
その声と共に気配の主が広場に入ってきた。
その声と姿には、覚えしかなかった。
……いや、忘れるはずがない。
だって、俺が殺したんだから。
「何で……お前がここにいる……。稀平」